美国の所得税改革と退職層が直面する州税 ― 2025年最新事情と注意点
2025年アメリカの税制改革は大きな注目を集めています。今年度成立した「OneBig Beautiful Bill Act」により、個人の所得税や控除制度が大きく見直され、特に高齢者や退職世代にとって気を付けるべきポイントが増えています。
この記事では、米国における所得税の基本と最新の改正内容、さらに多くの退職者が戸惑いやすい「所得税ではない州税」について、分かりやすくご説明します。
所得税の基本構造と最新改定
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累進課税制度の継続
米国の所得税は日本同様、所得水準によって税率が異なる累進課税制度が採用されています。2025年度もこの制度は維持され、所得が高いほど課税率も上がる仕組みです。 -
連邦税率の引き下げ継続
2017年のTax Cuts and Jobs Act(TCJA)で一時的に下げられていた7段階の所得税率は、失効目前に新法で継続が決定しました。2025年以降も、多くの納税者が以前より低い税率で申告できる見通しです。 -
控除額の大幅拡大
項目別控除(Itemized Deduction)のうち、SALT控除(州・地方税控除)の上限が、年収50万ドル未満の納税者に限り1万ドルから4万ドルに引き上げられました。これは2025年から2029年までの期間限定です。特に、高税率州に住む退職者には大きな恩恵となる可能性があります。
州税と市税―所得税だけでは足りない負担
多くの退職者が誤解しやすいのが「所得税」と「州税」「市税」の違いです。所得税は連邦政府に納める税金ですが、居住する州や市によっては、追加の税負担も発生します。
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州税(State Income Tax)
州税の有無や税率は州ごとに大きく異なります。- カリフォルニア州:税率1% ~ 13.3%
- ニューヨーク州:税率4% ~ 10.9%
- オレゴン州:税率(変動)
- フロリダ州など:州所得税がゼロ
この違いにより、同じ所得でも居住州によって年間100万ドル(約1.5億円)以上の税負担差が生じる場合があります。
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市税(Local Income Tax)
一部の都市では、市税も追加で課されます。例えばニューヨーク市の場合、3.876%の市税が所得に課されます。これにより、住む場所によって大きく手取りが変わります。 -
退職族が直面する「所得税以外の州税」
退職者が驚くのは、所得税とは異なる形の税金―「売上税」「固定資産税」「相続税」「社会保障税」などが州ごとに異なって発生する点です。引退して収入が減った後も、これらの州税が予想以上に家計を圧迫するという注意喚起がされています。
具体的な税額イメージと地域差:
例えば同じ給与所得300万ドル(約4億5,000万円)を得ている場合、ニューヨーク市では連邦・州・市税の合計で51.8%、つまり155.3万ドル(約2億3,295万円)が税金となりますが、フロリダ州なら州税がゼロのため37%、つまり111万ドル(約1億6,650万円)です。
地域 | 連邦税 | 州税 | 市税 | 合計税率 | 年間税額 |
---|---|---|---|---|---|
ニューヨーク市 | 37% | 10.9% | 3.876% | 51.8% | 155.3万ドル |
フロリダ州 | 37% | 0% | 0% | 37% | 111万ドル |
退職金・年金の課税と注意点
日本国内とは制度が大きく異なるため、退職金・年金の受け取り時にも州による税制の違いに注意が必要です。アメリカは退職金の概念自体がなく、年金は所得として課税されます。加えて、州ごとに「年金課税免除」「部分免除」「通常課税」などのルールが異なるため、移住先や長期滞在先を選ぶ際は必ず事前に調査をしましょう。
これからの申告・納税へのアドバイス
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申告期限と注意事項
毎年4月15日が申告期限です。期日を守ること、州ごとの控除規定や申告義務の有無をしっかり確認しましょう。 -
専門家の相談を心がける
税制は短期間で大きく変わりやすいため、定期的に会計士や税理士に最新情報を確認するのがお勧めです。 -
移住・長期滞在の計画は慎重に
特に退職者の場合、収入が減る中で州税や各種の州独自課税が家計に影響します。暮らしの質と税負担のバランスをよく比較検討しましょう。
まとめ:所得税以外の「州税」に注意!
2025年以降のアメリカ税制は、連邦レベルでは控除拡大や税率維持など納税者に有利な部分もありますが、退職世代が忘れてはいけないのが「所得税以外にも発生する州税・市税」の多様さです。州ごとの制度を知っていれば、余計な税金に悩まされず、落ち着いた老後設計ができます。所得税だけで安心せず、「どこに住むか」「どの州の制度か」を常に意識することが、米国での税金対策の最大のポイントです。