減反政策の転換と現場の混乱――2025年、日本の米政策はどこへ向かうのか
はじめに
減反政策――日本の農業を語る上で欠かせない言葉です。
2025年10月、政府はコメ生産の増減に関する方針を相次いで転換し、現場の農家や関係者の間で困惑が広がっています。
鈴木農林水産大臣が「増産から減産へ」と転換を示唆し、26年産米については「2%減」の目安を発表。
こうした動きには、米価の暴落懸念や供給不足への心配など、さまざまな背景が絡み合っています。
本記事では、政策転換の背景と現場の課題、これまでの政府の方針、そして今後の日本農業への影響について、やさしく詳しく解説します。
減反政策とは――その目的と歴史をおさらい
- 減反政策は1970年代に始まった、日本独自の農業政策です。
- 米の生産調整――過剰生産による米価の下落を防ぐため、農家に生産量を抑制するよう指導・奨励金を支給。
- この政策により、米価の安定と農家収入の維持を図ってきました。
- しかし、国内人口の減少や食生活の多様化でコメの消費量は長期的に減少傾向にあり、減反政策そのものの意義が問われる時代も訪れました。
2025年、食料政策の歴史的転換――何が起きているの?
2024年、政府は「食料・農業・農村基本法」を25年ぶりに改正しました。
この法改正と、それを土台とした「食料・農業・農村基本計画2025」が、2025年から日本の新しい農業の形を示しています。
改正の最大の柱は食料安全保障の強化。
輸入依存の高い小麦、大豆、飼料作物などを国産化して、国民の生活を守る「自給力」の維持・向上が目標です。
- 世界的な地政学リスク(ウクライナ戦争等)やサプライチェーンの脆弱化で、輸入穀物の調達が不安定化。
- 国内で米など主食作物を安定供給する必要性が高まる。
- 水田の活用について、飼料米・米粉用米への転換推進や米以外の戦略作物(小麦・大豆など)の生産拡大を図る施策も強化。
農政の方針転換――コメ増産から減産へ
2025年秋、鈴木農林水産大臣はコメの増産方針から減産への転換を示唆しました。
「農家は米価暴落を懸念している」という現場の声を受けて、政府は一転して26年産米の生産量「2%減」を目安とする減産方針へ切り替えました。
- 増産方針では米の供給が過剰となり、米価が下落する危険性が指摘されていました。
- 減産に切り換えることで、過度な価格低下を防ぎ、農家の経営を守ろうとする狙いがあります。
- しかし、相次ぐ方針転換は現場の農家に混乱を招いています。
- 生産計画や資材購入を既に進めていた農家ほど、急な減産指示への対応に苦慮しています。
現場農家の声――「米価暴落が怖い」「混乱への不安も」
実際に政策の影響を受ける農家からは、「米価が大きく下落するのではないか」「急な減産指示への対応が難しい」「今後の生産計画が立てづらい」といった声も上がっています。
農家にとって、米価の安定は収入維持の基盤。
しかし、市場に米が過剰に供給されれば価格は下がり、収入減につながります。
一方で、過度の減産指示によって米の供給不足が生じることへの懸念も残ります。
- 減産政策は米価を守る一方、供給不足が起これば消費者への安定供給が難しくなる可能性も。
- 長期的には、減反政策と価格調整だけでは課題の根本解決ができないと指摘する専門家もいます。
転作推進と戦略作物――水田活用の広がり
コメ生産調整の強化により、「水田の多様な活用」にも焦点が当てられています。
- 米から飼料米・米粉用米・小麦・大豆・野菜などへの転作促進。
- 水田を単なるコメ生産拠点から、高収益作物の生産拠点へと広げる施策。
- 食料自給率の維持・向上、大規模経営体への集約推進、新規参入の拡大。
- 加工用米や米粉製品など新市場の支援も強化。
こうした転作推進は、コメ需要減少という大きな流れの中で「水田という資源の価値を最大限に活かす」狙いがあります。
政府・各政党の農業政策に見る方向性
2025年の参院選では、各政党も農業政策の充実を掲げました。
日本維新の会は、
「米の国際競争力強化」と「食糧自給率の抜本改善」を約束し、規制改革・輸入関税見直し・農協法改正など幅広い提案を盛り込んでいます。
- 「伸ばす農政」への転換──成長力を引き出す規制改革。
- 高品質で手頃価格の米を安定供給する体制整備。
- 米の輸入制度見直しや国際競争力強化による自給率引き上げ。
このような動きも、食料安全保障の観点と市場競争力強化という二つの路線が重なり、今後の政策選択に幅を広げています。
新基本計画2025と減反政策――今後の期待と課題は?
政府は2025年~2029年の5年間で、農業構造の集中的な転換を打ち出しています。
生産基盤の強化と食料自給力の向上、責任ある政策遂行――これらを目標値・KPIを用いて毎年検証し、進捗管理することが新計画の特徴です。
- 農業従事者の減少への対応(111万人→緩和)。
- 新規就農者の受け入れ促進、農地維持(427万ha)。
- 技術革新や効率化の普及による持続可能な採算性強化。
- 環境負荷低減・カーボンニュートラルと両立した農村振興。
食料需給の安定と価格維持のため、減反・転作政策の柔軟運用が今後も問われ続けるでしょう。
米市場を取り巻く構造的な課題――消費量の慢性的減少、農家の高齢化・労働力不足、地政学リスクへの対応など、課題は山積みです。
まとめ――これからの米政策と日本農業
2025年の減反政策転換は、「安全保障」と「市場安定」の間で揺れる、まさに難しいかじ取りです。
現場に寄り添いながら、消費者への安定供給と農家の経営安定を両立させる政策が求められています。
新しい農業基本計画と減反政策のあり方を、国民全体で考え、持続可能な食料体系の確立に繋げることが必要です。
これからも、日本のコメ作りと農業が「豊かな未来」を築き続けるために、行政、現場、消費者が連携して知恵を出し合うことが大切です。



