個人向け国債が注目される理由

日本の10年国債利回りが2006年7月以来の最高水準である1.85%を超えたことを背景に、個人向け国債への関心が急速に高まっています。2025年11月28日時点で、日本の10年国債利回りは1.81%で推移しており、過去1ヶ月で0.15ポイント上昇、1年前との比較では0.75ポイント高くなっています。この金利上昇の背景には、日本銀行が政策金利の引き上げを検討しているという市場の期待があります。

特に注目されているのが、個人向け国債の「変動10年型」です。2025年6月募集の10年物個人向け国債は、約17年ぶりに金利が1%に達し、銀行預金よりも高い利率と元本割れしない安全性から、中高年世代を中心に人気を集めています。

個人向け国債とはどんな商品?

個人向け国債は、日本政府が個人投資家向けに発行する債券です。現在、以下の3種類が提供されており、原則として個人のみが購入できます。

  • 変動10年型:10年間の満期で、半年ごとに金利が見直される変動金利型
  • 固定5年型:5年間の満期で、金利が固定される
  • 固定3年型:3年間の満期で、金利が固定される

各種類において、利子は半年ごとに年2回受け取ることができます。2025年12月募集の個人向け国債は、12月4日から12月30日の期間で募集予定となっています。

「変動10年型」の利率設定方法と推移

「変動10年型」は、半年ごとに基準金利が見直される仕組みになっています。基準金利は「10年固定利付国債の平均落札利回り×0.66」という計算方法で決定されます。重要な点として、変動10年型には金利の下限が0.05%に設定されており、万が一基準金利が低下しても、最低限の利息は保証されるようになっています。

2025年6月募集の「変動10年」(第188回)では、基準金利が1.66%に設定されました。利子計算期間は毎年5月および11月に設定され、利息の支払いは毎年6月15日および12月15日に行われます。

例えば、2025年6月募集時に金利が1%だった場合、税引き前で年率1%の利息が得られます。この金利は半年ごとに見直されるため、市場金利が上昇すれば利率も上昇し、市場金利が低下しても下限の0.05%より下がることはありません。

100万円を10年間預けた場合の利息比較

個人向け国債の魅力をより具体的に理解するため、100万円を定期預金と個人向け国債に10年間預けた場合の利息を比較してみましょう。

2025年6月募集の個人向け国債で、利率1%の5年固定型に100万円を購入した場合、税引き後の利息は次のように計算されます。半年ごとの利息額は約3,985円となり、5年間で合計約3万9,850円の利息が得られます。

10年間に換算した場合、同じ条件で運用を続けると仮定すれば、5年ごとに約4万円の利息が期待でき、合計で約8万円の利息が見込めることになります。これに対し、定期預金の金利が0.1%程度の場合、100万円の10年間の利息は約1万円程度に過ぎません。

ただし、重要な注意点があります。2025年5月の全国消費者物価指数は前年同月比で3.5%上昇しており、インフレ下では物価上昇率を下回る可能性があります。つまり、名目上の利息で利益が出ていても、実質的な資産価値は目減りする可能性があるということです。

個人向け国債購入時の注意点

個人向け国債には多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点があります。

まず、NISA口座では購入できません。これは税制優遇措置の対象外となることを意味し、利息に対して約20%の税金が課せられます。利息計算時の税率は、2回分の各利子(税引前)相当額に0.79685を乗じて計算されます。

また、途中での解約には注意が必要です。個人向け国債は1年間は保有し続ける必要があり、1年経過後の解約には手数料が発生する場合があります。

さらに、変動10年型は半年ごとに金利が見直されるため、市場金利が低下した場合、新しい適用利率が引き下げられる可能性があります。ただし、最低0.05%の金利下限は保証されます。

日銀の金利引き上げ期待と今後の展望

現在、市場では日本銀行が12月に政策金利を引き上げる可能性が高まっていると見られています。日銀の植田和男総裁は、次回の会合で金利引き上げの「利点と欠点」を検討すると述べており、今月の引き上げの可能性を示唆しています。

通常は日銀の政策期待に最も敏感な2年国債利回りが1.00%を超え、2007年半ば以来の最高水準に達したことも、市場の強い期待を示しています。

もし日銀が金利を引き上げれば、それに伴い個人向け国債の変動10年型の基準金利も上昇する可能性があります。これまで低金利環境が続いていた日本において、個人向け国債の利回りが17年ぶりの高水準に達したことは、資産運用を検討する個人投資家にとって無視できない機会となっています。

中高年世代に人気の理由

個人向け国債が中高年世代に特に人気を集めている理由は、複数の要因があります。

第一に、元本割れの心配がない安全性です。国債は日本政府が発行する債券であり、国の信用に基づいている最も安全な金融商品の一つです。

第二に、銀行預金よりも高い利率が期待できることです。現在の銀行定期預金の金利は0.1%程度であるのに対し、個人向け国債は1%前後の利率が得られます。

第三に、年間の利息控除枠との関係です。退職金を受け取る世代では、大きな金額を一度に受け取ることになります。これを個人向け国債に投資することで、比較的安全に資産を運用しながら、定期的な利息収入を得られる点が魅力的に見えるのです。

1,000万円を個人向け国債に投資した場合、5年間の利息受取額は約40万円に達する可能性があり、これが多くの中高年層に支持されている理由となっています。

まとめ

日本の10年国債利回りが17年ぶりの高水準に達したことを背景に、個人向け国債が注目を集めています。特に「変動10年型」は、半年ごとの利率見直しにより市場金利の上昇を反映しながらも、最低0.05%の金利下限保証により安全性が確保されています。

100万円を10年間預ける場合の利息比較では、定期預金との差が顕著に現れます。ただし、現在のインフレ環境下では、名目利息率がインフレ率を下回る可能性があることに注意が必要です。

退職金を手にした中高年世代にとって、個人向け国債は安全性と利回りのバランスが取れた魅力的な投資選択肢となっています。今後、日銀が金利引き上げを実施すれば、さらに利回りが上昇する可能性もあり、個人向け国債への関心はしばらく続くと考えられます。

参考元