南太平洋の島国ツバル、国民の9割がオーストラリア移住に応募―深刻化する海面上昇と国家存続の危機
南太平洋に浮かぶ小さな島国ツバルの人々が、国土の水没リスクを前に“国ごと”新しい土地へ移住しようとしている。2025年7月末、ツバルの推定人口約9,400人のうち、なんと約9割に当たる8,750人がオーストラリアへの特別移住ビザ「ファレピリ連合条約」(2023年に締結)の初回抽選に応募したことが明らかになった。この数字は、ツバル人口の8割を超える規模であり、最終的な応募締切前には多くの市民が殺到した様子もうかがえる。
なぜこれほど多くの人々が応募したのか?
その背景にあるのは、地球温暖化に伴う海面上昇によるツバル国土の水没リスクだ。国連によれば、このまま温暖化が進めば、2100年までにツバルの95%以上が海に沈む可能性があると指摘されている。実際、すでに高潮や海岸浸食の被害が深刻化しており、農業や生活基盤が脅かされている。
こうした不穏な未来を前に、オーストラリア政府は2023年、ツバルと「ファレピリ連合条約」を締結。毎年最大280人を、永住権を伴う特別移住ビザで受け入れる仕組みを作った。初年度(2025年)の応募期限が近づくにつれ、多くのツバル国民が“最後のチャンス”を求めて応募に殺到。最終的に8,750人が申し込んだことで、抽選倍率は31倍という厳しいものとなった。
抽選の仕組みと今後の展望
オーストラリア政府は、7月25日から来年1月にかけて抽選を実施し、当選した世帯が永住ビザを申請できる。初回抽選には、なんと人口の9割超が応募したため、当選の確率は非常に低い。在ツバル高等弁務官事務所なども「初回で漏れた人も今後機会がある」と説明しているが、それでも不安を抱える人の多さがうかがえる。
また、ツバル政府や現地のコミュニティでも、「家族で一緒に移住したい」「子どもに安全な未来を」「できるだけ早く、安全な場所へ」といった声が相次いでいる。応募締切直前には、島内のインターネットカフェや行政窓口が混雑するなど、深刻な状況を物語るエピソードも伝えられている。
世界的に見ても例のない集団移住計画
ツバルは国連に加盟する独立国の一つであり、国家として存亡の危機に直面している。オーストラリア政府の受け入れ制度は、国家としての生存戦略の一つであり、国際社会でも大きな注目を集めている。
この制度をめぐっては、「自主的な移民政策」「他国に“国民の移動”を委ねる新しい国際協力モデル」と評価する声もある一方で、「温暖化の被害を受ける国をどのように守るべきか」「先進国の責任はどこまで及ぶのか」という議論も活発だ。
国民の声、そして島国の意志
取材によれば、ツバルの人々は「島を離れたくない」という気持ちと、「このままでは生きていけない」という切実な思いの間で揺れているという。ある住民は「ここが自分の国。でも、子どもたちの未来を考えると、移住もやむを得ない」と語る。また、「文化や伝統を継承できるのか」「離島とオーストラリア本国での生活格差」などの不安の声も途切れない。
日本国内でも、「ツバルの危機は他人事ではない」「地球規模の気候変動対策の必要性」といった意見が広がっている。この出来事は、単なる国の“移動”ではなく、グローバルな課題としての気候変動にどう向き合うか、という私たちへの問いかけでもある。
- 応募人数:8,750人(ツバル人口の約9割)
- 抽選倍率:約31倍(定員280人)
- 抽選期間:2025年7月25日~2026年1月
- 背景:地球温暖化に伴う海面上升、国土の95%以上の水没リスク
- 制度提供国:オーストラリア(1年280人、永住権付特別移住ビザ)
深刻な現実と希望をつなぐ道
今回の大量応募は、ツバルの人々が単に“海外移住”を望んだのではなく、「いのちと生活」「文化と未来」を守るための必死の選択であることが伝わってくる。今後、当選した人がオーストラリアで新しい生活を築いていく一方で、ツバルという国家や文化の行方にも世界の注目が集まり続けるだろう。
オーストラリアや国際社会からのさらなる支援、そして日本のような先進国も含めた温暖化対策の強化が、これ以上被害が広がらないための不可欠な歩みとなる。ツバルの現状は、地球規模の気候問題がもはや待ったなしであることを、私たちに強く訴えかけている。
なお、今回の制度を通じてツバルの方々に少しでも未来への希望がつながることを、そして国際社会全体で気候変動問題に真剣に向き合う契機となることを、強く願いたい。