太陽系の外からやってきた「3I/ATLAS」――3番目の恒星間天体をめぐる最新成果

太陽系の外から飛来した恒星間天体「3I/ATLAS(アトラス彗星)」は、2017年のオウムアムア(1I/ʻOumuamua)、2019年のボリソフ彗星(2I/Borisov)に続く、人類が確認した3つ目の恒星間天体です。
2025年に発見されて以来、世界中の天文台や宇宙機がこの珍しい来訪者を追いかけてきました。

この記事では、話題になっている以下の3つのニュースを軸に、3I/ATLASとはどんな天体なのか、いつ・どのように観測されてきたのかを、やさしく解説します。

  • 太陽接近時に2機の探査機が同時に撮影した結果
  • 公式発見前の画像の中に隠れていた3I/ATLASの再発見
  • ヴェラ・C・ルービン天文台が2025年6月に捉えていた証拠

3I/ATLASとは? ― 「3番目の恒星間天体」であり「彗星」

3I/ATLAS(別名 C/2025 N1 (ATLAS))は、その名前が示す通り、「3番目(3)」の「恒星間天体(I:Interstellar object)」として分類された彗星です。
発見は2025年7月1日。チリ・コキンボ州リオ・ウルタドに設置されたATLAS(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System:小惑星地球衝突最終警報システム)の望遠鏡による観測から見つかりました。

特徴をまとめると、次のようになります。

  • 起源:太陽系外(銀河系の薄い円盤または厚い円盤由来と考えられる)
  • 分類:非周期彗星・恒星間天体(3I)
  • 発見日:2025年7月1日(ATLASによる観測)
  • 正式命名:2025年7月2日、小惑星センターが「3I/ATLAS」として公表
  • 太陽最接近:2025年10月29日、約1.35天文単位(地球と火星軌道の間)
  • 木星への接近:2026年3月中旬に約0.36天文単位まで接近すると予測されていた

同じ恒星間天体でも、オウムアムアは「小さく細長い小天体」、ボリソフは「典型的な彗星」的な姿でした。
3I/ATLASはボリソフと同じく彗星型で、氷や塵からなる核の周囲にガスの雲(コマ)や尾が形成されることがわかっています。

発見の経緯 ― ATLASが捉え、小惑星センターが「3I」と命名

2025年7月1日、ATLASの望遠鏡が、他の星々に対してわずかに動く微かな天体を捉えました。
軌道計算の結果、この天体は太陽の重力に縛られた楕円軌道ではなく、太陽系の外から入ってきてまた外へ出ていく双曲線軌道であることが判明します。

翌日、2025年7月2日21時31分(協定世界時)、小惑星センター(MPC)が電子回報にてこの天体の発見を正式発表。
発見を報告したATLASの名前と、「3番目の恒星間天体」を表す3Iを組み合わせて、3I/ATLASという名称が正式に与えられました。

わずか数日で「これは太陽系外から来た天体だ」と判明したことで、世界中の研究機関や天文台、そして各国の宇宙機関が一斉に観測を開始しました。

ニュース1:2機の宇宙機が太陽最接近前後の3I/ATLASを同時撮影

もっとも注目を集めている話題のひとつが、太陽接近時に2機の宇宙機が3I/ATLASをほぼ同時に撮影し、その画像が公開されたというニュースです。
これにより、地上からは見えにくい角度や波長での情報が得られ、彗星としての性質やガス放出のようすが詳しく調べられました。

公開された画像から分かった主な点は次の通りです。

  • コマ(ガスの雲)の広がり:太陽に近づくにつれてガスや塵が勢いよく放出され、核の周りに明るい雲が広がっている様子が確認された。
  • 尾の方向と長さ:太陽から押し流されるように尾が伸び、太陽風や放射の影響を強く受けていることが分かった。
  • 活動の活発さ:太陽から1.3天文単位前後という、決して「極端に近い」とは言えない距離にもかかわらず、かなりはっきりした彗星活動が見られた。

地球周辺や火星周回軌道、木星へ向かう途中など、それぞれ異なる場所にいる探査機からの観測が組み合わさることで、3I/ATLASを立体的にとらえたようなデータが集まりました。
NASAの火星探査機メイブン(MAVEN)による分光観測では、彗星から噴き出す水素が検出されたと報告されています。これは、彗星内部に水(H2O)などの揮発性物質が豊富に含まれていることを示す重要な証拠です。

さらに、ヨーロッパの木星探査機JUICEの科学カメラ「JANUS」が撮影した画像からも、太陽系の外からやってきたこの彗星が、太陽に温められて活発にガスを放出していることが分かりました。
これら複数の宇宙機による同時観測は、恒星間彗星の「生の姿」を様々な角度から記録した、非常に貴重なデータセットとなっています。

ニュース2:公式発見前の画像の中に「隠れていた」3I/ATLAS

もうひとつの注目ニュースが、「公式発見の前に撮られていた画像から3I/ATLASが見つかった」というものです。
これは、天文学でプレカバリー(precovery)と呼ばれる手法で、後から軌道が分かった天体を、過去の画像の中から探し出す作業です。

3I/ATLASの場合も、発見後に精密な軌道計算が行われ、「いつ・どこに写っていたはずか」が特定されました。そして、さまざまな望遠鏡のアーカイブ画像を調べた結果、次のような事実が明らかになっています。

  • NASAのTESS(トランジット系外惑星探索衛星)のデータに、2025年5月7日〜6月3日の期間、3I/ATLASが写っていた。
  • このとき3I/ATLASは太陽から約6.4天文単位も離れていたにもかかわらず、彗星活動を示していた可能性がある。

太陽から6天文単位を超える距離は、土星軌道に近いほどの遠さです。
そのような場所でもすでにガスを放出していたとすれば、3I/ATLASは非常に揮発性の高い物質を多く含んでいる可能性があります。

こうしたプレカバリーの成功により、3I/ATLASの軌道はより正確に求められ、どのような速度と方向で太陽系に飛び込んできたのか、より詳しい議論ができるようになりました。
また、長期間にわたる活動の変化を追うことで、「恒星間で長い時間を過ごした氷」が太陽の熱を受けてどのように振る舞うかを研究できるようになりました。

ニュース3:ヴェラ・C・ルービン天文台が2025年6月に捉えていた3I/ATLAS

3つ目のニュースは、ヴェラ・C・ルービン天文台の観測です。
この天文台は、アメリカ・チリに建設された次世代の大規模サーベイ望遠鏡で、広い空を繰り返し撮影して、暗い天体や変化する現象を捉えることを目的としています。

ルービン天文台は、正式な科学運用を前に行われていた科学検証観測(テスト観測)の期間中、2025年6月21日〜7月3日のデータの中に、偶然3I/ATLASを写していました。
この観測は、ATLASによる公式な発見の前後をカバーしていて、3I/ATLASが太陽系の中へ入ってくる時期の様子をとらえています。

このルービン天文台のデータには、次のような価値があります。

  • 発見直前の軌道・明るさの情報が得られる。
  • 天体の活動の立ち上がり(どのタイミングで急に明るくなり始めたか)を追跡できる。
  • 広い視野と高感度を活かして、尾や淡いコマの広がりも解析できる。

ルービン天文台のようなサーベイ望遠鏡は、今後も新たな恒星間天体の発見に大きな役割を果たすと期待されています。3I/ATLASのケースは、その可能性を実例として示すものになりました。

地上望遠鏡による詳細観測:すばる望遠鏡・ジェミニ北望遠鏡など

宇宙機だけでなく、地上の大型望遠鏡も3I/ATLASを詳細に観測しました。特に重要なのは、ハワイのジェミニ北望遠鏡すばる望遠鏡の観測結果です。

ジェミニ北望遠鏡 ― ほんのり緑色に輝くコマ

ハワイ・マウナケア山にあるジェミニ北望遠鏡は、2025年11月26日に3I/ATLASを撮影しました。
公開された画像では、彗星のコマがほんのり緑色に輝いている様子が分かります。

彗星の緑色は、主にC2(二原子炭素)C2H2などの分子が、太陽からの紫外線を受けて発光することで生じます。
これは、3I/ATLASが太陽系内の一般的な彗星とよく似た成分を含んでいることを示しており、「他の星の周りで生まれた氷のかたまり」が、私たちの彗星とどれくらい似ているのかを比較する手がかりになりました。

すばる望遠鏡 ― 水(H2O)の存在を示す観測

同じくマウナケア山にある国立天文台のすばる望遠鏡は、3I/ATLASの周囲に広がるガスの成分を詳細に解析しました。
その結果、コマの中には水(H2O)由来の成分が含まれていることが確認されています。

これにより、3I/ATLASは「水を多く含む氷の彗星」であり、太陽系外で形成された水の氷の組成を直接調べることができる貴重なサンプルであることが分かりました。
3I/ATLASの水の性質を、太陽系内の彗星と比較することで、他の恒星系での物質循環や惑星形成の過程についてもヒントが得られます。

多波長観測:XRISMが捉えた40万kmに及ぶX線の広がり

JAXAのX線天文衛星XRISM(クリズム)も、この恒星間彗星の観測に参加しました。XRISMは、3I/ATLASの周囲に約40万kmにわたって淡く広がるX線を捉えています。

彗星からX線が出るのは、主に彗星から噴き出した中性ガスと太陽風中の高エネルギー粒子が衝突する現象によるものです。
この観測により、3I/ATLASの周囲では、太陽風との相互作用がかなり広い範囲に及んでいることがわかりました。

光学、赤外線、X線など、さまざまな波長での観測が組み合わさることで、

  • コマと尾の大きさ・形
  • 含まれるガスの成分
  • 太陽風との相互作用の強さ

などを総合的に理解できるようになっています。

なぜ3I/ATLASは重要なのか ― 「他の星の周りで生まれた彗星」の素顔

3I/ATLASがこれほど多くの注目を集めるのは、単に「珍しいから」だけではありません。
科学的な重要性は、主に次の3点に集約されます。

  • 他の恒星系で形成された物質を直接調べられる
    3I/ATLASは、太陽系ではない別の恒星系で形成され、長い時間をかけて銀河を漂ってきたと考えられます。その「氷」や「塵」の成分を調べることで、他の星の周りでの惑星形成や、物質の分布を推測する手がかりになります。
  • 銀河空間を漂う小天体の歴史が分かる
    長い間、星と星の間の冷たい空間を旅してきた結果、表面がどのように変化したのか、太陽系内の彗星と比べてどこが違うのかを知ることができます。
  • 将来の「恒星間探査」へのステップ
    もし今後、恒星間天体に接近探査機を送る計画が具体化したとき、3I/ATLASのような天体の性質をあらかじめ知っておくことは極めて重要です。

おわりに ― 「3I/ATLAS」の観測は今後の恒星間天体研究の基準に

3I/ATLASの登場によって、私たちは3つの恒星間天体を観測したことになります。

  • 1I/ʻOumuamua(オウムアムア)
  • 2I/Borisov(ボリソフ彗星)
  • 3I/ATLAS(アトラス彗星)

なかでも3I/ATLASは、

  • 複数の宇宙機が太陽接近時に同時観測を行い
  • 発見前の画像(TESS、ルービン天文台など)からもデータが見つかり
  • 地上の大型望遠鏡(すばる、ジェミニ北など)やX線衛星(XRISM)による多波長観測が実現した

という点で、非常にデータの豊富な恒星間天体となりました。
これから3I/ATLASの観測データが詳しく解析されることで、「他の星の周りで生まれた彗星」がどんな性質を持ち、私たちの太陽系の彗星とどこが似ていてどこが違うのか、徐々に明らかになっていくでしょう。

3I/ATLASは、もう二度と太陽系に戻ってくることはありません。しかし、その軌跡と残されたデータは、長い時間をかけて、私たちに多くのことを教えてくれるはずです。

参考元