ジローラモさんが挑む「泊まれる旧医院」プロジェクト 会津若松の築90年洋館が体験型宿泊施設に生まれ変わる

福島県会津若松市に残る築90年以上の歴史を持つ洋館「旧黒河内胃腸病医院」が、農業体験や地域文化に触れられる体験型宿泊施設として生まれ変わります。 このプロジェクトを手掛けるのは、バラエティ番組などでおなじみのタレント、パンツェッタ・ジローラモさんです。 施設は2026年5月下旬のオープンを目指して整備が進められており、すでにクラウドファンディングもスタートしています。

歴史ある「旧黒河内胃腸病医院」とは

今回再生される建物は、会津若松市中心部・中町にある旧黒河内胃腸病医院です。 昭和11年(1936年)に建てられた木造2階建ての洋館で、築90年以上の歴史を持つ建造物です。 延べ床面積は約250平方メートルで、市から歴史的景観指定建造物としても認められている、地域のランドマーク的な存在です。

かつてはその名の通り、地域の人々の健康を支える医院として活躍し、その後はオフィスやコワーキングスペースとして利用された時期もありました。 しかし近年は活用されない期間が続き、貴重な建物をどう生かしていくかが課題となっていました。 そうした中で、「宿泊」と「体験」を組み合わせた新たな役割を持たせるプロジェクトが立ち上がった形です。

プロジェクトを牽引するのはジローラモさん

この再生プロジェクトの中心人物となっているのが、イタリア出身のタレント、パンツェッタ・ジローラモさんです。 ジローラモさんは現在63歳で、テレビや雑誌での活動に加え、近年は地方創生や農業再生にも力を入れています。

会津との縁は、妻である貴久子さんの父親が会津美里町出身だったことがきっかけです。 そのご縁から2023年には、会津美里町で無農薬・無化学肥料の米「GIRO米」の生産をスタートし、農業を通じた地域貢献に取り組んできました。 約40年前に初めて会津を訪れた時と現在を比べ、人口減少や空き家の増加といった変化を目の当たりにし、「このまま大切な風景や建物が失われてほしくない」という思いを強めたといいます。

ジローラモさんは、「会津には大切にしたい素敵な風景や歴史的建造物が多く残っている。泊まることで地域と未来をつなぐ、新しい地方創生に挑戦したい」と語り、このプロジェクトを発案しました。 観光客として一時的に訪れるだけでなく、「滞在を通して地域と関わり続けてもらいたい」という願いが込められています。

運営を担う「Novaterra」と「SORRISO」の役割

施設の運営を担うのは、会津若松市に本社を置く株式会社Novaterra(ノバテッラ)です。 Novaterraは、ジローラモさんが共同代表・会長を務める会社「SORRISO(ソリーソ)」(本社・東京都)が設立した事業会社で、農業再生と地域創生をテーマに活動しています。

Novaterraは旧黒河内胃腸病医院を長期で賃貸し、宿泊施設としての改修・運営を一括して担います。 建物の歴史的価値を尊重しながら、安全性や快適性を高める改修を行い、長く愛される地域の拠点を目指しています。 単に建物を「宿」として整えるだけでなく、人と人、人と地域が出会い、つながる場に育てていくことが大きな目標です。

全8室の小さな宿で、会津の暮らしと文化を深く体験

新しい宿泊施設は、全8室の小規模な宿として整備されます。 最大約15人が滞在できる規模を想定しており、少人数でゆったりと過ごせる空間づくりが進められています。 客室や共用スペースには、会津地方の伝統工芸品や素材を積極的に取り入れる予定です。

たとえば、客室のインテリアには会津木綿などの伝統素材を用い、地元の工芸や文化をさりげなく感じられる工夫が盛り込まれます。 また、宿泊者同士が交流できる多目的なリビングスペースも整備される計画で、旅の出会いが自然に生まれるような設計を目指しています。

施設のコンセプトは、「泊まることで、暮らし・文化・農業に触れる宿」。 単に寝泊まりするだけではなく、会津の自然や人々の生活、歴史にじっくりと向き合える滞在体験を提供します。

田植えから味噌づくりまで 多彩な体験プログラム

この宿の大きな特徴は、農業体験・食文化体験・歴史文化体験を組み合わせた、多彩なプログラムが用意されている点です。 宿泊者は、季節や興味に合わせてさまざまな体験を選ぶことができます。

  • 農業体験:田植えや稲刈り、野菜の収穫といった農作業を、地元の農家と一緒に体験できます。
  • 食文化体験:味噌づくりに挑戦したり、会津漆器を使った食事を通じて、会津ならではの食文化に触れることができます。
  • 歴史・文化体験:鶴ヶ城や周辺の商店街を巡るガイドツアーなどを通して、城下町・会津若松の歴史や暮らしを学べます。

これらのプログラムでは、地元の農家や職人、商店主が講師や案内役として登場します。 そのため、教科書やガイドブックでは味わえない、「生きた地域の知恵」に触れられるのが魅力です。観光スポットを“見る”だけでなく、地域の人々と“話し”、一緒に“作る”体験を通じて、会津との距離がぐっと近づきます。

観光から「関係」へ 地方に求められる新しい拠点

このプロジェクトが目指しているのは、単なる観光施設ではありません。 キーワードとなっているのは、観光を意味する「Visit」から、関係性を意味する「Relation」へのシフトです。 つまり、「一度行って終わり」の場所ではなく、「何度も訪れ、関わり続けたくなる場所」をつくろうとしているのです。

日本各地で人口減少や空き家の増加が進むなか、会津若松も例外ではありません。 空き家となった歴史的建造物を放置すれば、老朽化や景観の悪化が進んでしまいます。一方で、それらを丁寧に再生し、新たな役割を持たせることができれば、地域の財産を次世代に引き継ぐことができます。

この宿は、インバウンド(訪日客)や国内旅行者にとっての拠点であるだけでなく、移住や二拠点生活、農業への参加に関心を持つ人たちを惹きつける場にもなり得ます。 一度泊まって終わりではなく、「また田植えの時期に戻ってこよう」「今度は家族を連れて来たい」と思ってもらえるような関係性を生み出すことが目標です。

ジローラモさんは、「地方には、まだまだ可能性があります。農業を守り、空き家を活かし、人が集まる場所をつくる。その第一歩を、会津から始めたい」と語り、このプロジェクトを新しい地方創生モデルのひとつとして位置づけています。

クラウドファンディングで支援を呼びかけ

プロジェクトでは、改修費用や設備投資の一部をまかなうため、クラウドファンディングも実施されています。 2026年2月16日からスタートし、目標金額は500万円と設定されています。

集まった支援金は、旧黒河内胃腸病医院を全8室の宿泊施設として再生するための改修費用のほか、農業体験や食文化体験などを安心して楽しめる環境づくりに充てられます。 歴史的価値の高い建物としての魅力を損なわないよう配慮しながら、安全性や快適性を高め、長く愛される拠点となるよう丁寧な整備が進められます。

クラウドファンディングのページでは、プロジェクトの背景や施設のコンセプト、具体的な改修内容などが写真や図面とともに紹介されており、「泊まることで地域と未来をつなぐ」というメッセージが強調されています。

「泊まること」そのものが地域への参加になる宿へ

この宿は、「泊まること自体が、地域への参加になる」という新しい発想のもとに計画されています。 宿泊料金や体験プログラムの参加費は、地元の農家や職人、商店街などに還元され、地域全体の経済循環を生み出すことを目指しています。

宿に滞在し、田んぼや畑で土に触れ、地元の方々と一緒に食卓を囲み、商店街を歩く。その一つひとつの時間が、会津の暮らしを支える力につながっていきます。宿泊者にとっては「特別な旅の思い出」となり、地域にとっては「将来につながる出会い」となる、そんな関係づくりが期待されています。

歴史ある洋館を舞台に、ジローラモさんたちが始めるこの挑戦は、地方の空き家問題や人口減少に直面する多くの地域にとっても、ひとつのヒントとなるかもしれません。 会津の風景と文化を守りながら、新しい人の流れを生み出そうとするこの取り組みが、どのような形で実を結んでいくのか、今後の展開にも注目が集まります。

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