エジプトで1万年以上前の岩絵発見!古代交易路に残された人類の歴史
エジプト観光考古省および同省の考古最高評議会は2026年2月13日、南シナイ半島のウム・アラク高原で1万年以上前に描かれた岩絵を含む大規模な遺跡を発見したと発表しました。この発見は、古代エジプトの歴史を解き明かす極めて重要な成果として注目を集めています。
古代交易路の要所で見つかった自然のシェルター
今回発見された遺跡は、南シナイ県にある銅やトルコ石で有名なセラビット・エル・カディム遺跡から北東約5キロに位置しています。この地域は太古の昔から重要な交易路として知られており、古代の人類の活動の中心地だったと考えられています。
遺跡の特徴は、自然が作り出した独特の構造にあります。岩陰は東側斜面に沿って100メートル以上にわたり、崖が内側にえぐられてできた自然のシェルターとなっており、奥行きは2~3メートル、入口付近の天井高は約1.5メートルです。このような恵まれた環境は、古代の人々にとって理想的な生活拠点だったのでしょう。
先史時代から中世まで続く人類の足跡
最も注目すべき点は、この遺跡に描かれた岩絵の多様性です。壁面と天井部には赤色や灰色の顔料で描かれた狩猟を行う人物や動物、幾何学的な図形など、様々な岩絵が確認されました。最古のものは紀元前1万年~紀元前5500年頃に描かれたとされており、初期の狩猟採集社会の生活と密接に関連する可能性が高いと見られています。
興味深いことに、岩絵は先史時代の絵に限られていません。ナバテア人による碑文やアラビア語系の文字など、古代から中世にかけて描かれた図や文字も数多く確認されているのです。このことは、この遺跡が非常に長い期間にわたって利用され続けていたことを示しています。
長きにわたる利用の証拠
遺跡からはさらに、エジプト中王国時代や3世紀のローマ時代の道具や陶器の破片も発見されています。これらの出土品から、この遺跡が単なる一時的な住居ではなく、監視所や集会、休憩の場として長きにわたって利用されていたと考えられています。古代から中世にかけて、多くの人々がこの地を訪れ、その足跡を岩に刻み込んでいったのです。
人類の芸術的発展を記録した野外博物館
考古最高評議会の考古保存記録部長であるヒシャーム・エルレイシー博士は、この遺跡の重要性を強調しています。調査団はこの遺跡を「新たに特定された遺跡の中でも特に歴史的、芸術的に並外れた価値を持つ最も重要な遺跡の1つ」と評価しており、その岩絵について次のように語っています。
「年代的・技術的に多様性に富む岩絵は、先史時代からイスラム時代に至るまでの人類の芸術的・象徴的表現の発展を記録した野外自然博物館だ」。つまり、この遺跡は単なる考古学的遺産ではなく、人類が数千年の間にどのように自らの思想や世界観を表現してきたかを物語る、生きた歴史書なのです。
古代交易ネットワークの全容を解き明かす手がかり
シナイ半島における重要な交易路の存在は、古代エジプトの経済活動の広がりを示しています。実は、エジプト王ラムセス3世も同様の地域で活動を展開しており、陸路と海路の両方から使節団を派遣し、金や象牙の産地として知られるアフリカのプント国、シナイ半島にあるトルコ石鉱山、およびイスラエル南部ティムナにある銅鉱山を対象に、交易路を拡大していたことが知られています。
今回の発見は、古代エジプトの交易ネットワークがどの程度の規模であり、どのような形で機能していたのかを理解するための重要な手がかりとなります。
今後の研究に期待
エルレイシー博士は、遺跡の保護に加え、碑文や岩絵の研究と分析は今後とも続けられると述べています。これからの詳細な調査を通じて、描かれた各図柄の正確な年代や、それぞれが何を意味していたのかについて、より深い理解が得られることが期待されます。
1万年以上の年月を経て、今なお鮮烈に残る岩絵たち。ウム・アラク高原の発見は、古代の人々がこの地でどのような生活を営み、何を思い、何を信じていたのかを知る上で、貴重な道標となるでしょう。人類の歴史は、文字が発明される以前から、このような形で記録されていたのです。


