川尻達也氏、「ブレイキングダウン」ジャッジ&解説を辞退 ――「さすがに看過できない」「度を超えてる」と語った真意

元PRIDEファイターで、現在は解説者やジム運営者として活動する川尻達也氏が、「BreakingDown(ブレイキングダウン)」のジャッジおよび解説を辞退したことを、自身のYouTubeチャンネルで明かしました。
動画の中で川尻氏は、ブレイキングダウンの18大会前日会見で起きた「やるべしたら竜」選手のくも膜下出血事故をめぐり、「さすがに看過できない」「エンターテインメントの度を超えてる」と強い言葉で運営への疑問と距離を置く決断を語りました。

ブレイキングダウンとは何か――人気と物議をかもす“1分格闘イベント”

まず前提として、川尻氏が関わってきた「ブレイキングダウン」とはどのようなイベントなのかを簡単に整理しておきます。
ブレイキングダウンは、YouTuberで総合格闘家の朝倉未来氏が発案した、日本の格闘技イベントです。特徴は「1分1ラウンド」の超短期決戦ルールで、オーディションや試合の模様がYouTubeなどで配信され、多くの話題を呼んできました。

運営会社の代表取締役社長は朝倉未来氏で、2023年2月から就任しています。
同じく格闘技界やビジネス界で知られる溝口勇児氏がCOO(最高執行責任者)として国内事業を担当するなど、インフルエンサーと実業家が組んだ新しいタイプの興行として急成長してきました。

一方で、その過激な演出や、オーディション・会見の場で起きる乱闘、暴力的な振る舞いがたびたび物議をかもしてきたのも事実です。
エンターテインメント性と安全性・倫理性のバランスをどう取るかは、これまでも議論の対象となってきました。

「やるべしたら竜」選手がくも膜下出血 前日会見での張り手が原因に

今回、川尻達也氏が辞退を決断する直接のきっかけとなったのは、ブレイキングダウン18の前日会見で起きた出来事でした。

会見の場で、出場予定選手の江口響選手が、対戦相手の「やるべしたら竜」選手に対して張り手を見舞い、竜選手は転倒。
その後、竜選手はくも膜下出血を発症したと報じられました。くも膜下出血は命にかかわることもある重大な脳の病気であり、「単なる“演出”では済まないレベルの事態」と受け止める人も少なくありません。

この出来事を知った川尻氏は、ブレイキングダウン運営に対して二つの質問を投げかけたといいます。

  • 「やるべしたら竜選手を今後どうするのか」――選手本人への補償やケア、出場機会などを含めた今後の対応
  • 「今後そういったことが起きないようにどうすればいいのか」――再発防止策、安全管理の見直し

つまり川尻氏は、たんに「危ないから嫌だ」と距離を置いたわけではなく、「選手の安全を守る仕組み」と「運営としての責任ある姿勢」を確認しようとしていたことになります。

返答が得られず「もういいかな…」 解説・ジャッジ辞退の決断

川尻氏の説明によると、これらの問いかけに対して、年明け後もしばらく返答がなかったといいます。
「年明けて、3日ぐらい経っても返答がない」状況に、川尻氏は「もういいかな…と思って、今後お断りします」と、自ら運営側に連絡を入れたと明かしています。

この時点で、川尻氏の立場は「ブレイキングダウンの解説者・ジャッジ」から、完全に離れる方向へと固まりました。
動画の中で川尻氏は、辞任の理由について次のように語っています。

  • 「僕はエンターテインメントだと思ってブレイキングダウンと付き合ってた」
  • 「めっちゃ楽しめてたんだけど」
  • 「さすがに看過できないというか、もうエンターテインメントの度を超えてる」

ここから読み取れるのは、川尻氏が当初はブレイキングダウンのコンセプトを理解し、楽しみながら関わっていたという点です。
しかし、選手が重い怪我を負うような事態が起き、その後の運営の対応が見えないことで、「これはもう楽しむだけでは済まされない」「自分が関わり続けるのは難しい」と感じるに至ったと考えられます。

運営側からの返答と、その後のやり取り

その後、ブレイキングダウン運営からも返答はあったとされています。
報道によれば、運営側は川尻氏に対して、次のような趣旨のメッセージを送ったといいます。

  • 「真摯に受け止めて協議していきます」
  • 「無理にお願いするつもりもありません」
  • 「明確にした上で、また連絡させていただきます」

さらにその後、今後の方針についても協議が行われたと報じられており、一定の対応をとろうという意志は示された形です。
ただし、川尻氏はすでに「辞退」という決断に気持ちが傾いており、このやり取りを経ても解説・ジャッジ復帰には至っていません

最初は「試合オファー」から始まった関係 「ジャッジなら…」で参加へ

川尻氏がブレイキングダウンに関わるようになったきっかけは、運営側の溝口勇児COOからのオファーだったといいます。
当初は試合出場の打診がありましたが、川尻氏は「さすがに試合はできない」としてこれを断りました。

その代わりに提示されたのが「ジャッジならどうか」という役割で、ここから川尻氏は2022年12月から解説・ジャッジとしてイベントに携わるようになりました。
元PRIDEファイターとしての経験と視点から、試合の解説や判定に関わり、視聴者やファンからも一定の支持を集めてきました。

つまり、ブレイキングダウンと川尻氏の関係は、運営側からの信頼に基づいたオファーから始まり、約3年近くにわたって継続してきたものです。
その関係をあえて断ち切る決断をしたことは、今回の出来事を川尻氏が非常に重く受け止めていることの表れとも言えます。

「あれは傷害事件だからね」 暴力性と“肯定しているように見えること”への懸念

川尻氏は今回の一件について、「あれは傷害事件だからね」とも述べています。
前日会見の場で、一方的な張り手により相手がくも膜下出血を起こしたという事実を、「演出」や「盛り上げ」の一言で済ませるべきではないという立場をはっきりさせた形です。

また、自身がブレイキングダウンに関わり続けることについて、次のようなイメージ上のリスクも口にしています。

  • 「俺にもジムがあるし、肯定しているように見えるのも嫌だった」
  • 「さすがにキツくなってきた」
  • 「ブレイキングダウンの印象が良くないから怖さもあった」

川尻氏は、現役引退後は自身のジムを運営しており、地域の子どもから大人まで、格闘技を通じて人を育てる立場にもあります。
その立場から、「暴力沙汰が目立つイベントに関わり続けることが、自分のジムや生徒たちにどう影響するか」を慎重に考えざるを得ない状況になっていたと語っています。

「ジムの場所を借りられなくなるかも」 現実的なリスクへの言及

さらに川尻氏は、より現実的なリスクにも言及しました。

  • 「今はジムの場所を借りてるけど、再契約する時に“あなたはブレイキングダウンと関わっているので貸せません”と言われる恐怖はあった」
  • 「これ以上、暴力沙汰になった時に関わるのはリスクがある」

ここには、「ブレイキングダウンに関わる人」というレッテルが、不動産契約や地域との関係にも悪影響を及ぼすかもしれないという不安が表れています。
格闘技ジムの運営は、地域社会との信頼関係や、物件オーナーとの契約が欠かせません。その中で、暴力的なイメージが強い興行との関わりは、プラスにもマイナスにも働きうる要素です。

川尻氏は、そのマイナス面が大きくなりつつあると感じ、「これ以上の関与はリスクが高い」と判断したと言えるでしょう。

「エンタメ」と「安全」の線引き 今回の辞退が投げかける問い

今回の川尻達也氏のジャッジ&解説辞退は、単に一人の解説者の離脱というだけでなく、格闘技イベントにおける“エンタメ性”と“安全性”のバランスに大きな問いを投げかけています。

ブレイキングダウンは、その過激さ刺激的な演出によって、多くの視聴者を惹きつけてきました。
しかし、選手が大きな怪我を負う事態、しかも試合本番ではなく“前日会見”という場で起きたとなると、「どこまでが許される演出なのか」「運営はどこまで責任を負うのか」という問題が浮かび上がります。

川尻氏の「さすがに看過できない」「エンターテインメントの度を超えてる」という言葉は、その線引きが危険な領域に踏み込んでいるという警鐘とも受け取れます。
また、「あれは傷害事件」という表現からは、単に「盛り上げの一環」として片づけてしまうことに対する強い違和感と危機感がにじんでいます。

今後のブレイキングダウンと格闘技界への影響

ブレイキングダウンはこれまでも、負傷者やトラブルが出た際に、治療費の支援やクラウドファンディングなどで対応してきた事例があります。
しかし、今回のように競技経験が豊富で影響力もある元トップファイターが、「距離を置く」と明言したことは、イベント全体のイメージや今後の運営方針に少なからず影響を与える可能性があります。

一方で、運営側は「真摯に受け止めて協議していく」とコメントしており、安全管理の見直しや再発防止策の強化に踏み出すきっかけになる可能性もあります。
エンターテインメントとしての魅力を保ちながら、どこまで選手の安全と倫理性に配慮できるか――。それはブレイキングダウンだけでなく、現代の格闘技イベント全般に共通する課題だと言えます。

今回の決断を通じて、川尻達也氏は、自身の立場や信念、そして「格闘技はあくまでスポーツであり、人を傷つけるためのものではない」というメッセージを、静かではありますがはっきりと示した形となりました。
ブレイキングダウンがこのメッセージをどう受け止め、どのような変化を見せていくのか。今後の動向が注目されています。

参考元