累積赤字62億円で営業終了へ――「イマーシブ・フォート東京」が残したもの
東京・お台場の屋内型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が、2026年2月28日をもって営業を終了することが発表されました。
没入型エンターテインメントという新しい分野に挑戦した施設でしたが、累積赤字が約62億円規模に達し、事業として継続することが難しいと判断された形です(赤字額は各種報道による数値)。
この記事では、営業終了の背景や「失敗の理由」、そして同じく話題となっている北海道の大型テーマパーク「ジャングリア」に向けられた「寿命もって2年」という厳しい見方との共通点について、やさしく整理していきます。
イマーシブ・フォート東京とはどんな施設だったのか
イマーシブ・フォート東京は、東京・お台場のヴィーナスフォート跡地を活用して開業した、国内最大級のイマーシブ(没入型)エンターテインメント施設です。
- 所在地:東京都江東区青海(旧パレットタウン/ヴィーナスフォート跡地)
- 開業日:2024年3月1日
- 運営会社:刀イマーシブ合同会社(マーケティング会社「刀」の子会社)
- 業態:物語の世界に観客が入り込み、キャストと一緒に物語を進める「没入体験」を中心としたテーマパーク
通常のテーマパークのように「アトラクションに乗る」「ショーを見る」というよりも、お客さん自身が物語の登場人物として参加するのが特徴でした。
ドラマやゲームの世界に入り込んだような濃い体験ができることから、開業前から大きな話題を集め、「世界最先端のイマーシブ体験」を掲げた意欲的なプロジェクトでした。
なぜわずか2年で営業終了になったのか
営業終了の一番の理由は、想定していたビジネスモデルと、実際の需要とのギャップでした。
運営会社や各種報道が説明しているポイントを整理すると、次のようになります。
ライト体験を前提にした「広い箱」が仇に
運営会社の説明によると、当初の事業計画では、以下のような前提が置かれていました。
- 大人数を一度に収容できる「ライトな体験」が売上の中心になる想定
- そのため、広大な延床面積を活かし、一度に多くの来場者をさばける構造にしていた
ところが、実際に蓋を開けてみると、人気が集中したのは
少人数・予約制・時間単価の高い「ディープな体験」でした。
- 1グループあたりの人数が限られる
- キャストの数も多く必要
- 回転率を上げにくい
こうした特性から、どうしても「一度に大勢を入れて稼ぐ」モデルとは相性が悪いのです。
このため、運営側は開業2年目となる2025年に、ディープな体験を中心とするよう業態を大幅に転換しました。
しかし、そこには大きな構造的問題が残ります。
ディープ体験中心の「最適な事業モデル」から見ると、施設規模が明らかに大きすぎるという点です。
これは、インフラ・人件費・維持費などの固定費が過大になりやすいという意味で、収益化を難しくしました。
累積赤字62億円に至った「敗因」の構造
報道ベースの試算では、イマーシブ・フォート東京の累積赤字は約62億円にのぼるとされています(ここでの金額は各種ニュースで報じられた数値をもとにしています)。
なぜそれほどの赤字が積み上がったのか、ポイントを整理すると次の通りです。
- 大型屋内施設ゆえの高い固定費
旧ヴィーナスフォートの建物を活用したとはいえ、冷暖房・照明・保守など、大型商業施設並みのランニングコストが発生します。 - ディープ体験の「高コスト体質」
俳優・スタッフを多く配置し、演出・衣装・舞台装置なども作り込む必要があり、1人あたりの提供コストが高くなります。 - 来場者数の伸び悩みとキャパのミスマッチ
少人数制の体験に需要が偏ったことで、施設全体としての「席数」を埋めきれない時間帯やエリアが出やすくなりました。 - リニューアル投資の負担
2025年3月のリニューアルでは、システムやコンテンツの大幅な見直しが行われました。この追加投資が短期間で回収できなかった可能性が高いと見られます。
森岡毅CEOは、この決断について「未踏の領域に挑戦して貴重な知見を得たが、財務面を含め計画との乖離が大きく、事業期間を繰り上げて終了する苦渋の決断をした」とコメントしています。
つまり、コンセプトとしては手応えがあったものの、スケールと収益のバランスを取ることができなかった、というのが実態でした。
「ジャングリアの寿命もって2年」と言われる理由
一方で、北海道に開業した大型テーマパーク「ジャングリア」について、「寿命もって2年ではないか」という厳しい見方が一部で語られています。
このフレーズは、ネット上や一部の論評などで使われているもので、公式な見通しではありません。ただ、その背景には、イマーシブ・フォート東京とよく似た構造的な懸念があると指摘されています。
ここでは報道や公開情報から読み取れる「2年で寿命」と言われる根拠を、あくまで客観的に整理します。
1. 大規模投資と集客ハードルの高さ
ジャングリアは、広大な敷地と多くのアトラクションを備えた大型テーマパークとして開発されています。
その分、初期投資や維持管理費、人件費などの固定費は非常に高い水準になると考えられます。
こうした大型施設の場合、
- 年間数百万人規模の集客
- リピーターを含めた安定的な来場者数
が確保されないと、採算ラインに届きにくいと言われます。
ネット上で「寿命もって2年」と語られる背景には、
- 開業直後の「話題性」が落ち着く頃(=約2年後)に、集客が急減するのではないか
- そのときに固定費を賄えなくなり、事業として継続が難しくなるのではないか
といった懸念があると見られます。
これは、開業景気の反動で売上が落ち込む「オープン効果終了後」のリスクを指摘していると言えます。
2. 立地・アクセス面のハンデ
ジャングリアは北海道のリゾート地に位置するため、首都圏や関西圏からは飛行機や長距離移動が前提になります。
ディズニーリゾートやUSJのように「日帰り・週末で気軽に行ける」立地ではないことから、
- リピーターをどこまで確保できるか
- 国内外の観光需要が安定して続くか
といった点について、慎重な見方が出ています。
観光需要の変動や円安・物価高の影響も含めて、長期的な集客の予測が難しいというのが、「2年で採算性が試される」という議論の土台にあります。
3. コンテンツ投資とアップデートの負担
大型テーマパークを継続的に運営するには、新アトラクションやイベントなどの継続的な投資が欠かせません。
開業時のコンテンツだけで数年持たせるのは難しく、飽きられない工夫が必要です。
しかし、イマーシブ・フォート東京の事例でも見たように、コンテンツ刷新には多額のコストと時間がかかります。
このため、
- 2年ほど運営してみて、投資ペースと収益のバランスを見直す
- 十分な収益が見込めなければ、大規模アップデートを見送る、あるいは事業全体の見直しに踏み切る
という判断が迫られる可能性がある――と推測されているのです。
その「見直しのタイミング」として、開業から約2年というスパンが意識されていると考えられます。
4. イマーシブ・フォート東京との共通点
「ジャングリアの寿命もって2年」と語られるとき、しばしば引き合いに出されるのがイマーシブ・フォート東京です。両者には、次のような共通点があると指摘されています。
- 大規模な初期投資をともなう新業態のテーマパーク
- 開業時の話題性は大きいが、その後の継続的な集客は未知数
- 固定費が高く、ビジネスモデルの前提が崩れると一気に赤字が拡大しやすい
イマーシブ・フォート東京の営業終了が、開業から実質「2年」で幕を閉じる形になったことで、
「新しいテーマパーク事業は、まず最初の2年で『勝ちパターン』を作れるかどうかが勝負」という認識がより強まったと言えます。
その文脈で、「ジャングリアも2年が正念場」「寿命もって2年」という言葉が使われているのです。
イマーシブ・フォート東京の「敗因」から見える教訓
イマーシブ・フォート東京の累積赤字62億円という結果は、大きなインパクトを持って受け止められています。
一方で、森岡CEOは「得られた知見をもとに、より進化したイマーシブ体験を追求する」とコメントしており、これを次へのステップと位置づけています。
この事例から見えてくる教訓を、あえてシンプルにまとめると、次の3点です。
- 需要の中心を、できるだけ早く・正確に見極めること
ライト体験を前提にした広い施設は、ディープ体験偏重の実需とは噛み合いませんでした。 - 「箱の大きさ」と「最適な体験の形」を合わせること
ディープ体験中心のモデルでは、大箱よりもコンパクトな施設のほうが経済合理性を確保しやすいと考えられます。 - 初期の設計ミスをリカバーするには、時間とコストがかかること
開業2年目での大規模リニューアルは英断でもありましたが、結果的には赤字拡大の一因ともなりました。
こうした教訓は、ジャングリアを含む今後のテーマパーク計画にとっても、決して他人事ではないでしょう。
特に、「大規模な箱を作る前に、本当に必要なスケールかどうかを見極めること」は、多くの事業で共通する重要なポイントです。
「2年で終わる」のではなく「2年で検証される」時代へ
イマーシブ・フォート東京の営業終了と、「ジャングリアは寿命もって2年」という厳しい見立ては、
「大型エンタメ施設のビジネスモデルは、開業から最初の2年でシビアに検証される時代になった」という流れを象徴しているようにも見えます。
もちろん、ジャングリアが本当に2年で終わると決まっているわけではなく、そのような公式発表もありません。
むしろ、イマーシブ・フォート東京のような先行事例から学び、最初の2年で収益モデルを固められるかどうかが、今後の事業の成否を左右すると言えるでしょう。
イマーシブ・フォート東京の挑戦は、財務的には大きな赤字という結果に終わりますが、
没入型エンターテインメントという新しい価値を、日本のマーケットに実証したという意味では、決して無駄ではありませんでした。
この経験が、次世代のテーマパークやエンターテインメント施設のより持続可能な設計へとつながっていくことが期待されます。



