「私を止められるのは自分の道徳心だけ」 トランプ米大統領、NYタイムズ単独インタビューで示した“力と道徳”の世界観
アメリカのドナルド・トランプ大統領が、米紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューに応じ、自らの軍事権限や国際法への姿勢について踏み込んだ発言を行いました。「米軍最高司令官としての権限を制約するのは自分自身の道徳観だけだ」と語り、さらに「国際法は必要ない」とまで言い切った発言は、世界各国で大きな波紋を広げています。
この記事では、やや難しく聞こえるアメリカの安全保障や国際法の話を、できるだけやさしい言葉で整理しながら、このインタビューのポイントを丁寧に解説していきます。
インタビューの背景:長時間にわたる「本音」発言
トランプ大統領がインタビューに応じたのは、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」です。およそ2時間にわたるロングインタビューの中で、南米ベネズエラへの軍事行動や、中国・台湾情勢、グリーンランド問題など、幅広いテーマについて持論を展開しました。
とくに注目を集めたのが、
- 米軍最高司令官としての権限の「歯止め」をどう考えているのか
- 国際法をどう位置づけているのか
- 対ベネズエラ軍事作戦と、中国の台湾への姿勢との違い
- グリーンランドをめぐる発言
といった点です。以下、それぞれを順番に見ていきます。
「私を止められるのは自分の道徳観だけ」発言の意味
まず大きく報じられたのが、米軍最高司令官としての自らの権限についての発言です。インタビューの中で、記者から「世界中で米軍に軍事行動を命じるあなたの権限に、何か制約はあるのか」と質問されたトランプ大統領は、次のように答えました。
「確かに一つだけある。私自身の道徳観、つまり心だ。私を止められるのはそれだけだ」
つまり、議会や同盟国、国際機関などの外部要因ではなく、自分の内側にある「道徳心」こそが唯一の歯止めだ、という考えを示したことになります。 日本や欧州など、多くの民主主義国では、軍事行動には議会承認や憲法上の制約が強く働きます。そのため、この「自己の道徳観のみが制約」という言い方は、権力の集中やチェック機能の弱まりへの懸念として受け止められています。
一方でトランプ大統領は、自らを「平和の大統領」とも呼んでおり、「私は人々を傷つけようとしているわけではない」と強調しています。 自分の道徳観を拠り所にしながらも、軍事作戦を次々と指揮しているという、この「言葉」と「行動」のずれが、国際社会の警戒心を高める一因となっています。
「国際法は必要ない」発言と、その言い直し
さらに物議を醸したのが、国際法に関する発言です。インタビューの中でトランプ大統領は、次のように語りました。
「国際法は必要ない。私は人々を傷つけようとしているわけではないからだ」
国際法とは、国と国との約束事やルールの総称で、戦争の仕方や人権の保護、海や空の利用など、さまざまな分野をカバーしています。アメリカももちろん、この国際法の枠組みの中で行動することが原則となっています。
そんな中での「国際法は必要ない」という発言は、「アメリカは自分の判断で自由に軍事行動をとるつもりなのか」という不安を呼び起こしました。ただし、その直後、トランプ大統領は「国際法は順守する必要がある」と言い直し、さらに「それも、国際法の定義次第だ」と補足しています。
この「言い直し」からは、
- 伝統的な国際法の解釈に縛られすぎたくない
- アメリカ独自の判断基準を優先したい
といった本音がにじみ出ているとも受け取れます。一方で、国際社会からは、「ルールに基づく国際秩序」を軽視しているのではないかという批判も強まっています。
ベネズエラ軍事作戦と「現実の脅威」
今回のインタビューで、トランプ大統領はベネズエラに対する軍事作戦についても詳しく語りました。アメリカは、南米ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を標的とした電撃作戦を実施し、その後も軍事的圧力を強めてきました。
トランプ大統領は、ベネズエラ攻撃は「現実の脅威への対応」であり、中国による台湾侵攻の前例にはならないと説明しています。 つまり、
- ベネズエラへの攻撃は、アメリカにとって差し迫った危険に対処するための行動だ
- 中国が台湾に軍事侵攻する際の「モデルケース」ではない
と位置づけた形です。 この説明の裏には、「アメリカの行動を中国が真似るのではないか」という国際社会の懸念を和らげたい思惑もあると考えられます。
一方で、トランプ大統領は「アメリカによるベネズエラへの関与は数年単位で続く」との見通しも示しています。 短期的な作戦ではなく、中長期にわたる関与を視野に入れていることから、地域の不安定化や人道状況への影響を懸念する声も出ています。
中国・台湾問題への言及:「私が大統領の間はないだろう」
インタビューの話題は、アジアの安全保障にも及びました。記者が中国による台湾侵攻の可能性について尋ねると、トランプ大統領は次のように答えています。
「(台湾侵攻の可能性について)次の大統領の時には分からないが、私が大統領の間はないだろう」
この発言からは、
- 自らの在任中、中国による台湾侵攻は起こらないと見ている
- その理由として、自身の抑止力や外交力への自信をにじませている
といった姿勢が読み取れます。
さらにトランプ大統領は、「自分のベネズエラへの見方は、習近平国家主席の台湾への見方とは全く異なる」とも述べ、アメリカの軍事行動と中国の可能性のある行動を明確に区別しようとしています。
しかし、軍事力を背景にした一連の発言は、「力による支配」が世界に広がることへの懸念をかえって強めています。 台湾問題は日本とも地理的・安全保障的に近く、こうした発言は日本にとっても決して他人事ではありません。
グリーンランドへの「領有意欲」と心理的な意味
インタビューでは、北極圏に位置するデンマーク自治領グリーンランドについても触れられました。トランプ大統領は以前からグリーンランドへの関心を示しており、今回のインタビューでも領有への意欲をにじませています。
報道によると、アメリカ政府関係者らは、グリーンランド住民一人当たり1万〜10万ドル(約150万〜1500万円)の一時金を支払う案について協議したと伝えられています。 グリーンランド側にどう提示するのか、どのような条件と結びつけるのかなど、詳細は明らかになっていませんが、経済的な「提案」を通じて影響力を強める狙いがあるとみられます。
さらにトランプ大統領は、「グリーンランド領有は成功するために心理的に必要だと感じている」と述べています。 この言葉からは、単なる資源や地政学上の価値だけでなく、
- 「大国アメリカ」の象徴としての領土
- 自らのリーダー像や支持層へのアピール
といった「象徴的な意味合い」が、グリーンランド問題の背景にあることがうかがえます。
一方で、グリーンランドはNATO加盟国デンマークの自治領でもあります。そのため、NATOの維持とグリーンランド領有のどちらを優先するのかという質問に対し、トランプ大統領が「どちらかを選ばなければいけないかもしれない」と答えたことは、同盟関係よりも自身の戦略目標を優先する可能性を示唆するものとして受け止められています。
「平和の大統領」と軍事作戦の現実
興味深いのは、トランプ大統領が自らを「平和の大統領」と位置づけている一方で、実際には多くの軍事作戦を指揮しているという点です。
報道によれば、トランプ政権は、
- イランの核施設への攻撃
- イラク、ナイジェリア、ソマリア、シリア、イエメンへの攻撃
- 最近ではベネズエラへの攻撃
など、複数の地域で軍事行動を行ってきました。 こうした行動は、一部では「抑止のための力の行使」と説明されていますが、同時に各地での緊張を高め、市民への影響も避けられません。
トランプ大統領はノーベル平和賞の受賞を目指しているとも伝えられており、「平和」を掲げながら軍事力を積極的に用いるという、矛盾した構図が浮かび上がっています。
家族ビジネスと「道徳観」のズレ
インタビューでは、家族のビジネスについても言及がありました。トランプ大統領は、大統領に復帰してから、家族に国外でビジネスをさせることについて「何の問題も感じていない」と語っています。
さらに、
- 最初の任期中は家族にビジネスを禁じていた
- しかし、そのことは全く評価されなかった
- 「誰も気にしていないことが分かった」
と述べ、家族ビジネスの制限を緩める考えを示しました。
ここで浮かび上がるのが、冒頭の「私を止められるのは自分の道徳観だけだ」という言葉とのギャップです。利益相反を避けるという近代民主主義の基本原則よりも、「評価されるかどうか」で善悪を判断しているようにも見えるため、「その道徳観は本当に信頼できるのか」という疑問の声も出ています。
「his」というキーワードで見えるもの:一人のリーダーの「道徳」と世界
今回のニュースを、あらためてキーワード「his(彼の)」という視点から見てみると、トランプ大統領の発言には「彼自身の」価値観や感覚が強く反映されていることがよく分かります。
- his morality(彼の道徳観)が、軍事行動の唯一の歯止めだとされていること
- his view on international law(彼の国際法観)が、「必要ない」と「順守すべきだ」の間で揺れていること
- his sense of power and success(彼の成功観・権力観)が、グリーンランド領有を「心理的に必要」と感じさせていること
- his idea of peace(彼の平和観)が、「平和の大統領」を名乗りつつ軍事作戦を積み重ねる形で表れていること
こうした「his」が積み重なった結果として、アメリカの外交・安全保障政策が形作られ、世界情勢に大きな影響を与えています。民主主義においては、本来、国家の進路は議会や司法、メディア、世論など、複数のチェック機能によって決められるべきものです。
しかし今回のインタビューでは、「私」「私の道徳」「私の考え」といった一人のリーダーの内面が、政策の中心に据えられている様子がはっきりと浮き彫りになりました。 そのことが、多くの人にとっての不安や違和感につながっているとも言えるでしょう。
日本にとっての意味:遠い国の話ではない
アメリカ大統領の発言は、日本にとっても決して無関係ではありません。日本はアメリカと安全保障条約を結び、在日米軍が駐留しています。アメリカ大統領がどのような「道徳観」や「国際法観」を持っているかは、日本の安全保障環境にも直接影響します。
とくに、
- 台湾情勢は、日本の安全保障と地理的にも非常に近い問題であること
- 国際法の順守は、日本のような中規模国家が安全を確保するうえで重要な基盤であること
を考えると、今回のインタビューは、日本にとっても注意深く見守る必要がある内容だと言えます。
これからも私たちは、アメリカの動きにただ不安を覚えるだけでなく、
- 発言の背景にある考え方や価値観を冷静に読み解くこと
- 日本としてどのような外交・安全保障の姿勢をとるべきかを、自分たちの言葉で考えること
が求められています。


