三重県「外国籍職員の採用取りやめ」検討とは?――広がる波紋をわかりやすく解説
三重県が、県職員の採用において外国籍の人の新規採用をやめる方向で検討していることが、大きな議論を呼んでいます。県の方針に対して、弁護士や法律家の団体が「差別」「排外主義の助長」だと強く反対しているほか、県内の市長からも懸念の声が上がっています。
この記事では、できるだけやさしい言葉で、
- 三重県が何を検討しているのか
- なぜ「差別」「排外主義」と批判されているのか
- 伊勢市長・名張市長など県内自治体の反応
- 今後私たちの暮らしや地域社会にどんな影響があるのか
を整理してお伝えします。
三重県が検討している「外国籍職員の採用取りやめ」とは
三重県の一見勝之(いちみ かつゆき)知事は、2025年12月下旬の記者会見で、県職員の採用において「国籍要件」を復活させる検討をしていると表明しました。
現在、三重県は1999年度以降、多くの職種で「日本国籍であること」という条件を外し、外国籍の人も県職員として採用してきました。 そのため、医療職などを中心に、実際に外国籍職員が働いています。
ところが今回、県は
- 県の情報が国外に流出する可能性がある
- 安全保障や機密情報の保護の観点から見直しが必要
といった理由を挙げて、外国籍の県職員の新規採用を取りやめる方向で検討を始めました。
早ければ、2026年夏以降の採用試験から、外国籍の人が受験できない形になる可能性も指摘されています。
「国籍要件」とは?
国籍要件とは、公務員の採用試験などで「日本国籍を持っている人に限る」と条件をつけることを指します。
もともと、日本の地方公務員には、
- 法律に基づいて権力を行使する仕事(例:警察官、一部の行政職)
- 重要な政策決定に関わる仕事
などには日本国籍が必要とされ、それ以外の業務では、国籍を問わず採用を広げていく流れがありました。
三重県もその流れに沿って、1999年度から多くの職種で国籍要件をなくし、「多文化共生」のモデルとして注目されてきた側面があります。
弁護士・法律家団体が「差別」「排外主義の助長」と抗議
こうした三重県の動きに対し、弁護士会や法律家団体が反対の声明を出しています。声明では主に、次のような点が問題視されています。
- 「外国籍であること」を理由に一律に採用の道を閉ざすことは、外国人に対する差別にあたるおそれがある
- 「情報漏えいの危険性」を国籍と結びつけることは、特定の国籍の人を潜在的な危険人物とみなす発想であり、偏見や差別を助長する
- こうした方針は排外主義(外国人を排除する考え方)を後押しし、社会の分断につながる
特に、「排外主義を助長する」という表現は、
- 法の下の平等
- 人種・国籍による差別の禁止
といった日本国憲法や人権の基本原則に反し、社会に悪影響を与えると強く懸念していることを示しています。
一見知事は「排外主義は取らない」と説明
一見知事は、記者会見などで
- 「排外主義は取らない」
- 「差別や誹謗中傷は許されない」
と述べ、差別を容認する姿勢ではないことを強調しています。
そのうえで、
- 安全保障や情報漏えいリスクの観点から、一部の職種で国籍要件を設けるのは必要
と説明しています。
ただし、「安全保障」や「情報漏えい」という言葉は非常に重く、曖昧なまま国籍要件を広く復活させると、事実上、外国籍の人を広範囲に排除することにつながるのではないかという疑問が出ています。
伊勢市長「そもそも守秘義務がある」 見直しは考えず
三重県内の自治体からも、県の方針に対する懸念や反対の声が上がっています。
伊勢市の市長は、報道に対し、
- 公務員には国籍に関係なく守秘義務がある
- それを前提に仕事をしているので、「外国籍だから情報漏えいの危険が高い」とは言えない
- 伊勢市としては、外国人職員の採用見直しは「考えていない」
と述べています。これは、「安全保障」や「情報漏えいリスク」を、国籍と安易に結びつけるべきではないという考え方です。
つまり、情報管理のルールや守秘義務の徹底は、国籍を問わず全ての職員に対して行うべきであり、その運用の問題を「国籍」で解決しようとするのは筋違いではないか、という視点です。
名張市長「多文化共生に逆行」 方針を変える考えはなし
同じく三重県内の名張市の北川裕之市長も、県の動きに対して明確に懸念を表明しました。
北川市長は、1月8日の新春記者会見で、
- 三重県の国籍要件復活の検討は「多文化共生に逆行するもの」だと批判した
- すでに県に対して、「この見直しはいかがなものか」と意見を伝えたと明かした
- 名張市としてはこれまで通り外国籍職員の採用を続ける方針であり、見直す考えはないと述べた
名張市では、消防職を除き、1999年から国籍要件を設けずに職員を採用しており、現在も外国籍の職員が在籍しています。 一方で、公権力を行使する部署や管理職への登用については、一定の制限を設けて運用していると説明しています。
つまり名張市は、
- 多文化共生を重視しつつ
- 公権力行使など一部の業務には慎重に対応する
という、バランスを取りながら外国籍職員を受け入れてきたといえます。
伊賀市長「社会に新たな分断と不信感」 県に撤回を求める
また、伊賀市の稲森稔尚市長も、三重県の動きに対して、強い懸念を示しています。
伊賀市は、今年から外国人を対象とする採用枠を新設し、多文化共生に積極的に取り組んでいる自治体です。
稲森市長は、県の動きについて、
- 「多文化共生の地域づくりの歩みを覆すもの」
- 「社会に新たな分断と不信感をもたらす」
と強く批判し、検討の撤回を求めています。
ここでいう「分断」とは、
- 日本国籍か外国籍かで、人を分けてしまう
- 「外国籍だから信用できないのでは」という目線が社会に広がる
といった事態を指しています。こうした空気が広がれば、地域で暮らす外国籍住民や、その家族・子どもたちが不安を感じやすくなることも懸念されます。
なぜここまで問題が大きくなっているのか
三重県の検討は、一見すると「県の安全保障」や「機密情報の保護」を重視する、という話に見えます。しかし、
- 国籍を理由に一律に採用の道を閉ざすことが、差別につながるおそれがある
- 国籍と「情報漏えいの危険性」を結びつける発想が、外国人不信や排外主義を助長するおそれがある
- これまで三重県や市町が積み重ねてきた多文化共生の取り組みに逆行する
といった点が、多くの人権団体・法律家・自治体の懸念につながっています。
特に、公務員にはもともと厳格な守秘義務が課されており、それに違反すれば国籍に関係なく処罰の対象です。伊勢市長が指摘したように、「そもそも守秘義務がある」という前提を踏まえれば、
- 情報管理のルールや体制を見直す
- 職員への教育・研修を強化する
といった方法もありえます。それにもかかわらず、最初から「外国籍だから危ない」と線を引くことは、公平性の観点から疑問が残ると言えるでしょう。
県民アンケートと今後の行方
三重県は、2026年1月から、無作為に抽出した1万人の県民を対象に、外国人職員の採用継続に関するアンケート調査を実施するとしています。
これは、
- 国籍要件復活の検討について、県民がどう考えているか
- 外国人職員の採用を続けるべきかどうか
などをたずね、県民の意見を踏まえて最終的な方針を決めるためのものだと説明されています。
一方で、名張市長や伊賀市長のように、「多文化共生に逆行する」「社会に分断をもたらす」と懸念する首長もおり、県内でも考え方の違いがはっきりしてきました。
今後、
- 県がどのような範囲で国籍要件を復活させるのか
- アンケート結果や、市町・専門家の意見をどこまで政策に反映するのか
- 他の自治体が三重県に追随するのか、それとも距離を置くのか
といった点が、大きな焦点となってきます。
私たちにとっての「多文化共生」とは
今回の三重県の議論は、単に「採用条件をどうするか」という技術的な問題にとどまらず、
- 外国籍の人とどう共に暮らしていくのか
- 多様な人が一緒に働く社会をどうつくるのか
という、地域社会のあり方そのものを問い直す問題でもあります。
外国籍の人が公務員として働くことには、
- 多様な文化的背景や言語能力を生かし、行政サービスをより充実させられる
- 地域に暮らす外国籍住民の声を、行政に直接届けやすくなる
といった大きなメリットがあります。
一方で、機密情報の管理や安全保障の観点から、特定の職種には一定の国籍要件を設ける必要がある、という議論もありえます。 大切なのは、
- どの職務に、どのような理由で国籍要件が必要なのか
- それは本当に「国籍」でしか守れないものなのか
- 情報管理や教育、組織運営の改善で対応できないのか
といった点を、具体的かつ丁寧に検証することです。
また、法律家団体が指摘するように、「外国籍だから危ない」といった漠然としたイメージで制度を作ってしまうと、
- 外国籍住民への不信感
- 職場や学校での差別・いじめ
など、社会全体にさまざまな悪影響が広がるおそれがあります。
今後の議論に必要なこと
三重県の今後の判断は、
- 県内の外国籍職員や、その家族
- 将来、三重県で働きたいと考えている外国籍・日本国籍の若者
- 多文化共生を進めてきた市町や地域団体
にとって、大きな意味を持つものです。
この問題を考えるうえで、
- 「安全保障だから仕方ない」と一言で済ませないこと
- 国籍を理由とした線引きが、どのようなメッセージを社会に与えるのか想像すること
- 当事者である外国籍住民や、現場で働く職員の声を丁寧に聞くこと
が大切だといえるでしょう。
三重県は「多文化共生」の先進的なモデルとしても注目されてきました。 だからこそ、今回の議論は、三重県だけでなく、日本全国の自治体や企業、そして私たち一人ひとりにとって、「多様な人と共に生きる社会」をどうつくるのかを考えるきっかけになっています。



