TSMCも注目する日本の“縁の下の力持ち”たち――イビデン、ディスコ、東広島がつなぐ半導体ニッポンの現在地
世界の半導体産業を語るとき、必ず名前が挙がるのが台湾のTSMC(台湾積体電路製造)です。
そして今、そのTSMCが強く信頼を寄せる日本企業や日本の地域が、静かに大きな存在感を示しています。
本記事では、
- エヌビディアとTSMCが認める岐阜・大垣の電子部品メーカー「イビデン」
- 50年前の初代ダイシングソーから最新機までを展示した「ディスコ」の技術の歩み
- 世界有数の企業が集積する「広島県・東広島市」の半導体クラスター
この3つのニュースを手がかりに、「TSMCと日本」の今を、やさしい言葉で紐解いていきます。
エヌビディアとTSMCが信頼を寄せる岐阜・大垣のイビデンとは
まず紹介したいのが、岐阜県大垣市に本社を構える電子部品メーカーイビデンです。
イビデンは、パソコンやサーバー、スマートフォンなどの“頭脳”となる半導体を支える半導体パッケージ基板で、世界シェア約5割を握ると言われる企業です。
注目されているポイントは大きく2つあります。
- AI半導体最大手エヌビディア向けに、パッケージ基板を独占供給していること
- 世界最大の半導体製造企業TSMCからも、技術力を高く評価されていること
エヌビディアは、生成AIや自動運転などに使われる高性能GPUで、今や世界の半導体業界を牽引する存在です。そのAI半導体を載せる「土台」となるパッケージ基板を独占的に供給しているのがイビデンであり、日本が誇る“隠れた世界シェアNo.1企業”とも紹介されています。
半導体パッケージ基板とは?――チップを支える「見えない主役」
半導体パッケージ基板というと、少し難しく感じるかもしれません。
イメージとしては、「半導体チップ(IC)」と「パソコンやサーバーの基板」をつなぐ中間の土台です。
半導体チップは非常に小さく、壊れやすく、そのままでは扱えません。そこで、
- チップを保護する
- チップから外部への電気信号を取り出しやすくする
- 熱を逃がしやすくする
といった役割を持つ「パッケージ」に封入されます。そのパッケージの“基礎”として使われるのが、イビデンが得意とするパッケージ基板です。
近年では、パフォーマンスを高めるために、ワイヤーを使わずチップを直接実装するフリップチップ方式が広がっており、イビデンはこの分野でも先行しているとされています。
AIサーバーやデータセンター向けの大規模なパッケージでは、高密度配線や放熱性能など、非常に高度な技術が必要とされ、そのニーズに応えている点がエヌビディアやTSMCから高く評価されています。
TSMCジャパン3DIC研究開発センターとイビデンの関わり
TSMCは、日本政府の誘致もあり、日本国内での研究開発・生産体制を強化しています。その一例が、茨城県つくば市に設置された「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」です。
このセンターでは、
- 複数の半導体チップを積み上げる3次元実装(3DIC)技術の研究
- それに対応する新しいパッケージ技術の開発
などが進められています。3次元実装は、チップを平面に並べる従来の手法に対して、「縦方向」にも積み上げることで、より高性能で省スペースな半導体を実現しようとするアプローチです。
この研究開発センターには、日本の装置・材料メーカー22社がパートナー企業として参加していますが、その中にイビデンも名を連ねています。記事によれば、イビデンの参加はTSMCからの「指名」によるものであり、TSMCがイビデンの技術力を高く評価していることが示されています。
世界最大級の半導体受託製造企業であるTSMCでさえ、「3次元実装の研究開発を進めるうえでイビデンの協力が欠かせない」といった文脈で紹介されており、日本のパッケージ基板技術が世界の最先端を支えていることがわかります。
スマホからデータセンターへ――イビデンの戦略シフト
イビデンはかつて、スマートフォン向けのパッケージ基板も手がけていましたが、競争激化と低採算を理由にこの分野からは撤退しました。かわって、今後は
- パソコン向け
- データセンター向け
といった、より高付加価値な分野に注力する方針が示されています。
5Gの普及に続き、2030年頃には6Gの実用化も見込まれています。また、メタバースや生成AIといった新しいサービス・アプリケーションが広がることで、データセンターの需要は今後も拡大すると予想されています。こうした流れの中で、TSMCやエヌビディアといった世界的企業と連携しつつ、日本のパッケージ基板技術がさらに重要性を増していくと考えられます。
ディスコが見せた「50年の歩み」――初代ダイシングソーと最新機の展示
次のニュースは、半導体製造工程の中でも「切る」工程を担う装置メーカー、ディスコ(DISCO)に関する話題です。
ディスコは、シリコンウエハーからチップを切り出すダイシングソーや、ウエハーを薄く削るグラインダなどで知られる企業で、世界的なシェアを持っています。
ニュースでは、同社が約50年前の「初代ダイシングソー」の実物と、最新のダイシングソーを並べて展示した様子が紹介されています。初代機は、当時主に電卓や時計向けICの加工に使われていたものであり、現在の半導体と比べると、チップサイズや回路の微細さなどは大きく異なります。
それでも、「ウエハーを精密に切り分ける」という基本的な役割は変わっておらず、この50年間で
- 加工精度の向上
- 対応できる材料の多様化
- 生産効率の飛躍的な改善
といった進化を遂げてきました。
TSMCをはじめとする世界の半導体メーカーの生産ラインには、こうした日本の加工装置が数多く導入されており、「日本の装置メーカーなくして世界の半導体は成り立たない」と言われるゆえんになっています。
TSMCと日本の装置メーカーの関係
TSMCが日本に研究開発拠点を置く背景には、イビデンのようなパッケージ基板メーカーだけでなく、ディスコのような装置メーカーの存在もあります。
3次元実装や先端プロセスを進めていくには、
- ウエハーを薄くする研削・研磨技術
- 高精度でチップを切り出すダイシング技術
- 特殊材料を扱う加工技術
など、多様な日本発の技術が不可欠です。
ディスコが自社の歴史を振り返りつつ、現在の最新機を展示していることは、日本の半導体製造装置産業が長年積み重ねてきた技術の深さを、改めて可視化する試みとも言えます。
世界有数の企業が集まる東広島――半導体集積地としての「なぜ?」
三つ目のニュースは、広島県東広島市が半導体関連企業の集積地として注目されている、という話題です。
東広島には、世界的な半導体メーカーや自動車関連企業、材料・装置メーカーなどが立地しており、「なぜここに?」と疑問を抱く人も少なくありません。
その背景には、いくつかの要因があるとされています。
- 交通アクセスの良さ:広島空港や高速道路へのアクセスが比較的良く、物流面でのメリットがある
- 研究環境:広島大学などの高等教育機関が近く、人材や研究連携の面で強みがある
- 産業集積の相乗効果:既存の工場や関連企業があることで、新たな投資や工場誘致が進みやすい
こうした条件が組み合わさり、東広島は日本有数の半導体クラスターとして発展してきました。
TSMC自身は熊本県を中心に製造拠点を置いていますが、日本全体で見れば、九州、東北、関東、そして中国地方の東広島など、複数の半導体拠点が相互に連携することで、生産・開発・材料供給・装置供給といったサプライチェーン全体が強化されつつあります。
TSMCが日本に期待するもの、日本がTSMCから学ぶもの
今回の3つのニュースをつなげてみると、TSMCと日本の関係がいくつかの層で見えてきます。
- イビデンのような素材・基板メーカーが、3DICや高性能パッケージでTSMCと密接に連携していること
- ディスコのような装置メーカーが、TSMCを含む世界中の半導体工場で欠かせない存在になっていること
- 東広島のような地域クラスターが、半導体産業全体を支えるインフラになっていること
TSMCが日本に期待しているのは、単に「工場用地」や「補助金」だけではなく、
- 長年培われた精密加工技術
- 高品質な材料・基板
- 信頼性の高い装置とエンジニアリング力
といった、ものづくりの底力そのものだと言えるでしょう。
一方で、日本側にとっても、TSMCと組むことで、
- 世界最先端の製造ノウハウ
- 3DICなど新しい設計・製造コンセプト
- グローバルなサプライチェーンへの参画機会
を得ることができ、相互にとってメリットのある関係が築かれつつあります。
「見えないところ」で世界とつながる日本の半導体産業
半導体というと、「TSMC」「エヌビディア」といった大企業の名前が先に浮かびがちですが、その裏側では、
- 岐阜・大垣のイビデンのようなパッケージ基板メーカー
- 50年にわたってダイシング技術を磨き続けるディスコのような装置メーカー
- 世界有数の企業を引きつける東広島のような地域
が、「見えないところ」で確かに世界とつながっています。
TSMCが日本で研究開発や生産を進めるほど、日本の技術や地域の価値が改めて浮かび上がってきています。
今回取り上げたニュースは、その一端をわかりやすく示してくれる事例と言えるでしょう。
今後も、こうした“縁の下の力持ち”たちに注目しながら、TSMCと日本の半導体産業の動きを追っていくことが大切になりそうです。




