東京農業大学「大根踊り」に揺れる波紋――ローアングル撮影とSNS投稿自粛要請の背景
箱根駅伝の名物として長年親しまれてきた東京農業大学の応援パフォーマンス「大根踊り」が、いま新たな局面を迎えています。大学側が、SNS上に投稿された動画や写真の「謝罪と削除」を異例のかたちで呼びかけ、特にローアングル撮影など、学生を傷つけかねない行為に強い懸念を示したためです。
本記事では、この問題の経緯や背景、現場の学生の思い、そして私たちが何に気をつけるべきかを、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。
「大根踊り」とは?箱根駅伝を彩る東農大の伝統応援
まず、今回の騒動の中心となっている「大根踊り」について簡単にふり返ってみましょう。
- 東京農業大学の応援団が披露する伝統的な応援パフォーマンス
- 両手に大きな大根を持ち、独特の振り付けで踊る姿が特徴
- 正式名称は「青山ほとり」だが、通称として「大根踊り」の名で広く知られている
- 箱根駅伝の沿道応援や大学のさまざまな行事で披露されてきた
箱根駅伝の往路スタート地点・東京・大手町では、この「大根踊り」が毎年のように観客の注目を集め、東京農業大学のシンボル的存在となってきました。 観衆からは、「見ると元気が出る」「これぞ箱根の風物詩」といった声も多く、大学のファンのみならず一般視聴者にも親しまれてきた応援です。
2025年箱根駅伝での盛り上がりと、その後の「削除要請」
東京農業大学は、2025年の箱根駅伝で2年ぶりに本戦出場を果たし、大きな話題を呼びました。
- 第102回箱根駅伝に出場し、総合18位と健闘
- 大手町のスタート地点では、久しぶりに「大根踊り」が披露され、復活を喜ぶファンから声援が送られた
- 復路の世帯平均視聴率は30%超と報じられ、全国的な注目度も高かった
ところが、その盛り上がりの余韻が冷めないうちに、大学側は公式X(旧Twitter)や公式サイトを通じて、SNS上の「大根踊り」関連投稿について「お詫びと削除のお願い」を発表しました。
大学の声明では、次のような点が強調されました。
- 学生保護の観点から、応援活動やその様子の無断撮影および無断でのSNS投稿を禁止している
- 箱根駅伝当日の沿道でも、禁止事項を明記した注意書きを掲示し、現場での呼びかけも行っていた
- 全ての投稿が「悪質」とは考えていないが、投稿全般の削除をお願いしたい
- 多くの人に愛されている伝統だが、担い手がいなくなれば、箱根駅伝でも各種行事でも披露できなくなってしまうという危機感
この「謝罪と削除要請」は、多くの視聴者にとっては予想外の対応であり、SNS上でも大きな議論を呼ぶことになりました。
問題視された「ローアングル撮影」とは
今回、大学側が特に問題として挙げているのが、「ローアングルからの撮影」です。
ローアングル撮影とは、被写体を下からの角度で撮る方法ですが、応援団やチアリーダーのようにスカートや短いボトムスの衣装を着ている学生を、意図的に下から撮影することで、性的な意図が疑われるケースが問題視されています。
報道によると、東京農業大学は以前から、応援活動に関する禁止事項の中に、「ローアングルからの撮影」を明記し、学生を守るための注意喚起を行ってきました。
しかし、2025年の箱根駅伝でも、実際には次のような行為が見られたとされています。
- 沿道での応援の様子を、無断で動画や写真に撮影
- それらをSNS上に投稿し、多くのコメントがつく状況になった
- 中には、ローアングルから撮影したとみられる映像や、性的な目的が疑われるような悪質な投稿も含まれていた可能性がある
こうした撮影や投稿は、学生たちの尊厳を損ない、深刻な精神的ダメージを与えるおそれがあります。実際、大学側は、こうした投稿に対するコメントや反応によって、「精神的に深く傷つき、以降の応援活動から離脱した学生もいる」と明かしています。
コメントでショックを受けたチア学生たち
J-CASTニュースの取材によると、「大根踊り」には応援団だけでなく、チアリーダーの学生も参加しており、その一部の学生が、ネット上のコメントに深く傷つく事態が起きていました。
- 2024年の箱根駅伝や地域イベントなどでも、無断撮影やSNS投稿が確認されていた
- それらの投稿についたコメントやリアクションが、学生の心を大きく傷つけた
- その結果、応援活動から離れざるを得なくなった学生もいたと、大学は説明している
大学側は、2025年の箱根駅伝でも同様の被害が起きることを強く懸念し、実際に無断投稿があった投稿者に対しては、個別に削除依頼を行ったとしています。 このとき大学は、なぜ削除をお願いするのか、その背景にある学生への影響も丁寧に説明し、投稿者も最終的には削除に応じたといいます。
こうした経緯を踏まえると、今回の一斉の「削除要請」は、単に大学のイメージを守るためというより、学生ひとりひとりを守るための苦渋の決断であったことが見えてきます。
大学の公式声明が伝えた「危機感」
東京農業大学が公式サイトと公式Xに掲載した声明には、学生への配慮とともに、伝統をなんとか守りたいという強い危機感がにじんでいます。
声明では、まず、大根踊りがどれだけ多くの人に愛されているかへの感謝が示されました。 そのうえで、次のような点が丁寧に説明されています。
- 大根踊りは、日々練習に励む学生たちの努力で成り立っている
- 無断撮影や無断投稿は、学生の心身の安全やプライバシーを損なうおそれがある
- 全ての投稿が悪意に満ちたものだとは考えておらず、多くは好意的なものである
- しかし、悪質な投稿はその一部であっても、学生の心を大きく傷つけてしまうため、一律に削除をお願いせざるを得ない
- このままでは「担い手がいなくなってしまう」とし、活動の継続が危ぶまれる状況であること
特に、「担い手がいなくなると、箱根駅伝のみならずさまざまな行事等でも披露できなくなってしまう」という文言は、学生が安心して応援できる環境が失われつつある現状への危機感を端的に示しています。
SNS上で広がった受け止め方と議論
大学の呼びかけが報じられると、SNS上ではさまざまな反応が相次ぎました。
- 「悪質な投稿があったのだろう」「ローアングルという文言でだいたい想像できる」といった、大学側の事情をおもんばかる声
- 「チアカメ(チアリーダーばかりを撮る人)排除が目的では」とする指摘
- 「撮る側が悪いのは当然だが、ユニフォームや服装を見直すべきではないか」といった意見
- 一方で、「大根踊りを続けてほしい」「伝統が途絶えるのは悲しい」と、応援文化の継続を願う声も多かった
こうしたコメントからは、多くの人が学生を守る必要性を理解しつつも、同時に伝統の応援がこのまま続いてほしいと願っていることがうかがえます。
スポーツ応援と「性的目的の撮影」問題の広がり
今回の東京農業大学の対応は、決してこの大学だけの特別な問題ではありません。近年、さまざまなスポーツシーンで、選手や応援団に対する性的目的の撮影が社会問題化しています。
- 高校野球・甲子園では、チアリーダーを狙った盗撮まがいの撮影が問題となり、ハーフパンツの着用義務や、カメラワークの見直しなどが進められてきた
- 各種競技でも、スタンドの観客やチアリーダーを執拗に撮影し、SNSに投稿する行為が問題視されている
こうした背景もあり、東京農業大学の姿勢は、専門家からは「学生を守るための防衛策」として評価する見方もあります。 応援団やチアリーダーは、あくまで選手を支える立場であり、本人たちが望まないかたちで「見せ物」にされるべきではないという考え方が、徐々に社会に共有されつつあります。
「戻ってきた」箱根駅伝と、応援の意味
今回の騒動が起きた箱根駅伝では、東京農業大学の選手たちも、それぞれの区間で懸命な走りを見せていました。他大学ではありますが、同じ大会のニュースとして、前田和摩選手と吉岡大翔選手といった3年生エースたちが「お互い戻ってきたね」と声をかけ合いながら2区を走り抜いたという報道もあり、箱根駅伝そのものが、多くの選手・関係者にとって特別な舞台であることがあらためて伝えられました。
沿道の応援や、大学ごとの応援スタイルは、そうした選手たちを支え、大会全体を盛り上げる大切な存在です。東京農業大学の「大根踊り」も、まさにその一部として、長年にわたり箱根路を彩ってきました。
だからこそ、大学側は「マナーが守られないなら伝統が続けられなくなる」というジレンマを抱えています。 応援する人も、応援される人も、そしてそれを見る人も、みんなが気持ちよくいられる環境をどう守っていくかが、いま問われているといえます。
私たちに求められる「撮らない・拡散しない」という配慮
今回の東京農業大学の呼びかけは、単に「SNSに投稿するな」という命令ではなく、「学生たちが安心して活動できるように、協力してほしい」というお願いでもあります。
私たち一人ひとりにできることとして、次のようなポイントが挙げられます。
- 大学や主催者が「撮影禁止」「SNS投稿禁止」と明示している場面では、そのルールを尊重する
- 応援団やチアリーダー、選手個人を、許可なくクローズアップして撮らない
- 特に、ローアングル撮影のように、相手に不快感や羞恥心を与える可能性のある撮影は、絶対に行わない
- すでにSNS上に出回っている動画・写真でも、不適切だと感じたら拡散しないという判断をする
- 大学などから削除のお願いがあった場合には、できるだけ速やかに対応する
こうした小さな配慮の積み重ねが、応援文化を守り、学生たちの笑顔を守ることにつながっていきます。
伝統を守るために――「大根踊り」のこれから
東京農業大学の「大根踊り」は、多くの人々にとって、箱根駅伝の思い出と強く結びついている応援です。 しかし、その陰で、無断撮影や心ないコメントに傷つき、応援から離脱した学生たちがいたという事実は、見過ごしてはならない重い現実です。
大学は、「大根踊り」をなくしたいわけではなく、むしろ続けていきたいからこそ、今回のような厳しい呼びかけに踏み切っています。 そのためには、学生を守るルールの徹底と、私たち観客や視聴者側の理解・協力が欠かせません。
応援する側も、される側も、そしてその様子を楽しむ側も、お互いを思いやりながら、「楽しい」だけでなく「安心できる」応援文化を一緒につくっていくことが求められています。
今後、「大根踊り」がどのような形で箱根駅伝や大学行事に登場していくのかは、まだ見通せません。ただ、ひとつはっきりしているのは、この伝統を未来へつなげていけるかどうかは、大学や学生だけでなく、それを見守る私たち一人ひとりのマナーと意識にかかっているということです。



