岩手・久慈と秋田・大館で相次ぐ「豚熱」確認 野生イノシシから広がるリスクとは

岩手県と秋田県で、野生のイノシシから相次いで「豚熱(とんねつ)」が確認されました。
いずれも人に感染する病気ではありませんが、養豚農家にとっては大きな脅威となる家畜の伝染病であり、地域の畜産や私たちの食生活にも影響しかねない問題です。
この記事では、久慈市と大館市で確認された事例を中心に、「豚熱」とはどのような病気なのか、どのような対策が取られているのか、そして私たち市民が気を付けるべきポイントを、やさしく解説します。

岩手県・久慈市で野生イノシシ1頭から豚熱を確認

岩手県久慈市では、市内で捕獲された野生イノシシ1頭から豚熱の感染が確認されました。 県は、野生イノシシにおける感染状況を把握するため、捕獲・死亡した個体の検査を継続して行っています。

豚熱は、ここ数年、全国各地で野生イノシシを介して拡大しており、岩手県でも令和4年4月に初めて感染が確認されて以降、野生イノシシの感染確認が継続しています。 久慈市内でも、これまでに複数の感染個体が確認されており、市では市民に対し、感染拡大防止への協力を呼びかけています。

久慈市は、野生イノシシでの豚熱陽性が確認されたことを受けて、岩手県と連携しながら、野生イノシシへの経口ワクチン散布など、感染拡大を抑えるための対策を進めています。

秋田県・大館市でも野生イノシシの豚熱が今年度7例目

秋田県大館市でも、市内で捕獲された野生イノシシ1頭から豚熱が確認されました。これは、秋田県内で今年度7例目となる野生イノシシの豚熱感染確認であり、累計では25例目となっています(県内累計としての数字)。

県は、野生イノシシにおける感染が今後もさらに増加する可能性があるとして警戒を強めており、養豚農場への注意喚起や、ハンターや山林関係者への情報提供を行っています。

大館市では、これまでも周辺地域を含めて野生イノシシの豚熱検査が続けられてきましたが、新たに感染が確認されたことで、周囲の養豚場へのウイルス侵入リスクが改めて懸念されています。

「豚熱」とはどんな病気? 人には感染しないの?

ここで改めて、「豚熱」とはどのような病気なのかを簡単に整理しておきましょう。

  • 豚やイノシシに感染するウイルス性の病気で、旧称は「豚コレラ」です。
  • 発熱や元気消失、食欲不振、出血などの症状を起こし、致死率が高い家畜伝染病として知られています。
  • 人には感染しないことが確認されており、感染した豚やイノシシの肉や内臓を食べても、人の健康に影響はありません。

岩手県や山梨県など各自治体の公式情報でも、豚熱ウイルスは人に感染しないことが明確に示されており、食品としての安全性も確認されています。 そのため、今回の岩手県久慈市や秋田県大館市での野生イノシシの感染確認は、「人への健康被害」ではなく、「養豚業への影響」が主な懸念点となります。

なぜ野生イノシシの豚熱が問題なのか

「人にうつらないなら安心では?」と思われるかもしれませんが、野生イノシシでの豚熱拡大が問題視される理由は、主に次の点にあります。

  • 野生イノシシがウイルスの“運び役”となり、養豚場で飼育されている豚に感染を広げてしまうおそれがある。
  • 一度養豚場で発生すると、多くの場合、殺処分など大きな被害が生じ、農家の経営や地域の畜産に深刻な影響を与える。
  • 汚染された糞や土が、靴底・衣類・車両のタイヤなどを介して移動し、別の地域へウイルスが運ばれる可能性がある。

山梨県の情報では、豚熱ウイルスは感染した野生イノシシの糞にも含まれ、土に混ざった状態で他の場所に運ばれる可能性があるとされています。 同様のリスクは全国共通であり、岩手県も、野生イノシシを介した養豚農場への侵入リスクを下げることを対策の柱としています。

岩手県が進める主な対策

岩手県では、国内で野生イノシシの豚熱感染が広がっている状況を受け、早期から組織的な対策に取り組んできました。

主な対策は次の通りです。

  • 野生イノシシの検査:死亡個体や捕獲されたイノシシを対象に、豚熱ウイルスの有無を継続的に検査。
  • 経口ワクチンの散布:野生イノシシに対して、餌に混ぜたワクチンを山中などに散布し、野生個体の感染拡大を抑制している。
  • 養豚場へのワクチン接種:県内の全養豚農場を対象に、豚熱ワクチンの接種を進め、農場内での発生リスクを減らしている。
  • 感染確認区域の設定:豚熱が確認された地点から半径10キロメートル圏内を「感染確認区域」とし、情報共有や注意喚起を強化。

特に、野生イノシシへの経口ワクチン散布は、野外で暮らすイノシシの間でのウイルス循環を抑える上で重要な取り組みです。 ワクチンは、国の食品安全委員会により安全性が評価されており、人への影響はないとされています。

秋田県・大館市周辺でも警戒強まる

秋田県でも、岩手県と同様に、野生イノシシの豚熱検査やワクチン対策が進められています。大館市で確認された事例は、今年度7例目・累計25例目と、すでに一定数の感染が確認されている状況であり、県は引き続き感染頭数が増える可能性を念頭に対策を続けています。

大館市周辺は、山林と農地が近接する地域も多く、野生イノシシと農地との距離が近いことが、感染拡大のリスク要因にもなります。そのため、猟友会などによる捕獲と検査の継続、ワクチン散布、養豚農家への衛生管理徹底の呼びかけといった対策が重要となっています。

市民が気を付けるべきポイント

豚熱は人に感染しないとはいえ、私たち市民の協力も感染拡大防止には欠かせません。山梨県や岩手県が示している注意点を踏まえると、日常生活で意識したいポイントは次の通りです。

  • 野生イノシシの死体を見つけても、決して触らないこと。
  • 発見した場所と頭数を、市役所や県の担当窓口に速やかに連絡する。
  • 山や畑、野外での作業後は、靴底や車のタイヤに付着した土をよく落とすこと。
  • キャンプやバーベキューなどで生ごみを山中に捨てない。イノシシを引き寄せる原因となる。
  • 養豚場で働いている、あるいは出入りする人は、衣服や靴の消毒、シャワーなど衛生管理を徹底する。

特に、靴底や車のタイヤに付いた土を介してウイルスが運ばれる可能性がある点は、山梨県の情報でも強調されています。 ちょっとした心がけが、結果的に地域全体を守ることにつながります。

養豚農家への影響と不安

豚熱が確認されるたびに、最も大きな不安を抱えるのは養豚農家です。もし養豚場で豚熱が発生した場合、多くの豚を殺処分せざるを得なくなり、経済的損失は計り知れません。 また、出荷停止や風評被害により、地域全体の畜産業が打撃を受けるおそれもあります。

そのため、行政は、野生イノシシの監視・対策に加え、養豚農家向けの情報提供や衛生対策の支援にも力を入れています。 例えば、ワクチン接種プログラムの策定や、家畜防疫の勉強会、万が一の発生時に備えた埋却地の事前調査など、発生前からの備えが各地で進められています。

イノシシとの共存とリスク管理

日本各地で、野生イノシシの生息域と人の生活圏が重なり始めていることも、豚熱問題の背景にあります。農作物被害や交通事故、住宅地への出没など、イノシシに関するニュースは年々増えています。

今回の久慈市や大館市での豚熱確認も、こうした「イノシシと人との距離の近さ」の中で起きている出来事です。完全にイノシシを排除することは現実的ではありませんが、ワクチン・検査・衛生管理・情報共有といった対策を重ねることで、リスクをできる限り低く抑えることができます。

市民一人ひとりが、「野生イノシシには近づかない」「見つけたら通報する」といった基本的なルールを守ることも、長い目で見れば、地域の畜産と暮らしを守る大きな力になります。

まとめ:不安をあおらず、正しい知識で冷静に対応を

岩手県久慈市と秋田県大館市で、相次いで野生イノシシから豚熱が確認されました。秋田県では今年度7例目、累計25例目と、すでに一定の感染が蓄積されている状況で、今後も感染確認が増える可能性があります。

一方で、豚熱は人には感染しないこと、肉や内臓を食べても健康に影響はないことは、国や各自治体が繰り返し発信している重要なポイントです。 不必要に不安を高めるのではなく、正しい知識に基づいて、できる対策を淡々と続けていくことが求められています。

野生イノシシの動きや感染状況の把握、ワクチン散布、養豚場での防疫体制強化など、行政と関係者の取り組みは続いています。 私たち市民も、山や畑に入ったあとの靴底の土を落とす、野生イノシシやその死体には近づかない、見つけたら通報する――といった小さな行動で、この問題に参加することができます。

「イノシシ」と「豚熱」をめぐるニュースは、決して遠いどこかの話ではなく、地域の農業と食を守るための大事なサインです。冷静に状況を見守りながら、一人ひとりができる協力を考えていきたいですね。

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