「どちらを伝えるべきか」迷い続ける就活生たち——LGBTQ+と発達障害の”二重マイノリティ”が直面する現実

トランスジェンダー男性でADHDを持つ26歳の山田さん(仮名)。就職活動中、面接のたびに同じ悩みに直面していました。「発達障害のことを伝えるべきか、それとも性自認についても説明すべきか」——その判断を迫られ続けたのです。結局、両方を理解してくれる企業に出会うまでに、30社以上の選考を受けることになったという山田さんの経験は、現代日本の就活における深刻な課題を浮き彫りにしています。

二重マイノリティとは何か

山田さんのように2つのマイノリティ属性を併せ持つ状況を「二重マイノリティ(ダブルマイノリティ)」と呼びます。これは単なる学術用語ではなく、日本の労働市場で実際に多くの人々が直面している現実です。LGBTQ+と発達障害の組み合わせはその一例ですが、他にも障害を抱えながら経済的に困窮している人、慢性疾患を抱えつつ精神的な困難を経験している人など、様々なパターンが存在します。

この状態にある人々が就職活動で直面する困難は、単一のマイノリティ属性を持つ人々の課題とは異なるものです。より複雑で、より多くの選択肢の中で葛藤を強いられるのが特徴となっています。

企業の対応にばらつきがある現状

二重マイノリティの当事者が就職活動で直面する第一の困難は、企業側の対応の不統一です。発達障害については障害者雇用枠が整備されており、法的に定められた合理的配慮を得やすいという制度的な枠組みが存在します。

一方、LGBTQ+としてのあり方への理解や対応は、制度化が進んでおらず、企業によって対応が大きく異なるのが実情です。この非対称性が、当事者たちに深刻なジレンマをもたらしています。面接官の反応を見ながら、どこまで自分をオープンにするかを判断せざるを得ない状況に追い込まれるのです。

当事者たちが選んだ三つの道

二重マイノリティの当事者たちは、この困難に直面する中で、自分たちなりの対応方法を模索してきました。その方法は大きく三つのアプローチに分けられます。

段階的なカミングアウト

ノンバイナリー(男性と女性のどちらにも当てはまらないと認識する人)でASD(自閉スペクトラム症)を持つ佐藤さん(仮名・24歳)が選んだのが、段階的なカミングアウトという戦略です。入社時には発達障害のみを開示し、職場で信頼関係を築いた後に、性自認について少しずつ伝えていったのです。

佐藤さんは「最初から全てを理解してもらうのは難しいと感じた」と語っています。半年かけて上司との関係を構築し、業務でも成果を出してから、ようやく性自認について話すことができました。このアプローチが機能した背景には、信頼関係があれば、相手は理解しようとしてくれるという確信がありました。

両方をオープンにする道

レズビアンでADHDを持つ田中さん(仮名・28歳)は、全く異なるアプローチを選択しました。理解のある企業を探し、LGBTQ+としての立場と発達障害の両方をオープンにして働く道を選んだのです。

「隠し続けるストレスで体調を崩した経験から、最初から全てを伝えることにした」と田中さんは説明しています。このアプローチには勇気が必要ですが、面接では両方の配慮について具体的に話し合い、入社後も定期的に上司と面談の機会を設けるという丁寧な対応が実現しています。田中さんは「オープンにできる環境では、本来の力を発揮できる」と実感しているとのことです。

片方に限定する判断

一方、障害者雇用枠で働くゲイ男性の鈴木さん(仮名・30歳)は、より現実的なアプローチを採用しています。職場での合理的配慮は発達障害のみに限定し、性的指向についてはプライベートに留めているのです。

「職場には業務に関わることだけ伝えれば十分」という鈴木さんの判断は、日本の現在の労働環境における、ある種の妥協でもあり現実的な選択でもあります。すべてをオープンにすることが常に最善とは限らないという、複雑な現状を象徴しています。

社会全体に求められる対応

こうした多様な背景を持つ人々が安心して働くためには、社会全体の意識改革と制度整備が必要不可欠です。

支援体制の構築

日本でも一部の取り組みが始まっています。2021年には東京・新宿に、日本初となるLGBTQ+など多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」が開設されました。専門の相談員を配置し、多様な性にまつわる困難や悩みにもきめ細かく対応しています。

このような支援機関の存在は、LGBTQ+と発達障害の両方を持つ人の存在を想定した、包括的なサポート体制の可能性を示しています。

企業側に求められること

企業側にも、重要な責任があります。人事担当者や産業医、相談窓口が多様性に関する基本知識を持ち、偏見なく対応できることが重要です。近年は、LGBTQ+と障害の両方に対応した転職支援サービスも登場しており、この分野の認識が少しずつ広がっています。

しかし、こうした動きはまだ限定的です。より多くの企業が、二重マイノリティを含むすべての労働者の多様性を受け入れる文化を醸成する必要があります。

「その人らしさ」を尊重する社会へ

山田さんが30社以上の選考を経て理解のある企業に出会うまでに費やした時間と心労は、現在の日本社会における多様性受容の限界を物語っています。同時に、当事者たちが自分なりの方法を模索しながらキャリアを築いている事実は、変化への希望を示唆しています。

多様性支援とは何か——それは単なるスローガンではなく、実践的な理念です。それは、一人ひとりの「その人らしさ」を尊重し、複雑な背景を理解することです。二重マイノリティとして働くことは、確かに困難を伴います。しかし、その困難を社会全体で共有し、解決していく過程こそが、より包括的で公正な労働環境の構築につながるのです。

今、日本の企業と社会には、そうした覚悟と行動が求められています。

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