鈴木農水大臣に問われるコメ政策の転換点――高騰する米価、膨らむ在庫、不満高まる産地
コメの価格が記録的な高水準で推移し続ける一方で、「コメ不足」と言われた状況は一転し、現在は在庫が膨らみ始めていると指摘されています。にもかかわらず、店頭価格はなかなか下がらず、産地では「農家をなめるな」という強い不満の声も上がっています。
こうした中で、コメ政策の舵取り役である鈴木憲和農林水産大臣(以下、鈴木農水大臣)の発言や対応に注目が集まっています。コメの「高騰」と「在庫」、そして「農家」と「消費者」の間に広がる溝――この複雑な構図を、できるだけやさしい言葉で整理してみます。
高止まりするコメ価格――「すぐには下がらない」と鈴木農水大臣
まず、いまのコメ価格の状況から見ていきましょう。最新の小売価格では、コメ5キロあたり平均約4250円と、5週ぶりに再び値上がりに転じ、過去最高水準に迫っています。家計を預かる消費者にとっては、主食の値上がりは大きな負担です。
鈴木農水大臣は記者会見で、
- コメの価格は「マーケットの中で決まっていくもの」であり、政府として高い・安いと評する立場にはない
- ただし、「今の価格では購入が厳しい」という声があることは認識している
- 「今すぐに価格がドンと下るのは現実的には難しい」とし、少なくとも短期的な急落は見込みにくいとの見方を示した
と述べています。つまり、鈴木農水大臣は市場原理を尊重しつつも、消費者の負担感は理解している、というスタンスです。
「需要に応じた生産」と減反強化――農家から噴き出す不満
一方で、産地の農家からは、今の政策に対して強い不満が噴き出しています。その背景にあるキーワードが、鈴木農水大臣が繰り返し強調する「需要に応じた生産」という方針です。
鈴木農水大臣はテレビ番組で、
- 「自由に主食用米を作ってくださいと言えば、本当に暴落する」
- 価格が暴落すれば、特に大規模農家が離農し、安定供給ができなくなる
- 「コメの安定供給と安定価格を実現するのは国の責任だ」
と発言しています。表向きは「増産」を掲げつつも、実際には主食用米の生産を抑える方向に政策が動いている、との指摘もあります。
シンクタンクの分析によると、
- 本来なら1000万トン生産できるコメを、約300万トン減産して700万トンに抑える「減反」政策が続いている
- 鈴木農水大臣は、来年産の主食用米を30万トン以上減産する方針を示している
- この結果、主食用米の値段は下がらないと専門家は分析している
とされています。表向きは「需要に応じた生産」、しかし実態としては価格維持を目的とした減反強化ではないか、との批判があるのです。
米価が空前の高騰となる中で、減反廃止後に「自由に作れるはず」と期待していた産地では、「結局また作付けを抑えろと言われるのか」「農家をなめるな」という怒りが噴き出している構図です。
「コメ不足」から一転、「在庫が膨らむ」構図
ここで不思議なのは、かつて「コメ不足」と言われていたのに、今は在庫が膨らんでいるという指摘が出ている点です。
農水省の発表によれば、今年産のコメは前年より約10%、69万トン増産されています。本来であれば、供給が増えれば価格は落ち着くはずです。しかし現実には、
- JAなどが在庫を抱え込み、出荷を絞ることで価格を高水準に保っているのではないか、という分析
- 農水省が備蓄米として買い上げる政策が、結果的に在庫の山を支え、価格維持につながっているとの指摘
が出ています。つまり、「コメ不足」と言われた後に一気に増産したものの、市場に十分に出回らないまま在庫として積み上がっている可能性があるのです。
一方で、鈴木農水大臣は「今はコメの供給量は十分」だと説明しており、政府としては深刻な物量不足は起きていないとの立場です。
おこめ券で家計支援?――「価格は下がらない」中での苦肉の策
高騰するコメ価格への対策として、政府が打ち出したのが「おこめ券」の配布です。これは、物価高騰対策の一環として自治体などが活用できる支援策と位置づけられています。
鈴木農水大臣は会見で、
- おこめ券は消費者支援策として想定している
- ただし、具体的な配布時期などは明言していない
と述べました。また、ANNニュースの取材に対しては、
- 自治体がおこめ券を選んでも、「コメの価格への影響はほぼない」との認識を示した
- 理由として、今は供給量が十分であり、またおこめ券で他の食料品も購入できる点を挙げている
と説明しています。
一方で、専門家からは、
- おこめ券は高止まりした米価を下支えする効果を持つのではないか
- 生産調整と価格操作で米価を上げたうえで、さらに税金でおこめ券(例:1人あたり3000円)を配る構図は、「マッチポンプ」ではないか
といった辛辣な批判も出ています。コメ券の原資として数千億円規模の財政負担が必要になるとの試算も示されており、「誰のための政策なのか」が問われています。
鈴木農水大臣のねらい――「価格暴落防止」と「稼げる農業」
では、鈴木農水大臣は何を重視しているのでしょうか。大臣の発言を丁寧にたどると、次の二つの柱が浮かび上がります。
- コメ価格の暴落防止と安定供給
- 輸出拡大による「稼げる農業」への転換
鈴木農水大臣は、
- 「自由にコメを作れば価格が暴落する」「大規模農家の離農で安定供給ができなくなる」として、生産抑制(減反)の必要性を繰り返し強調
- 日本の農政の反省点として、「生産力が上がったときに輸出を考えなかったこと」を挙げ
- 現在は円安などで輸出環境が整ってきたとして、「輸出拡大による稼げる農業」を目指す方針を示している
と説明しています。
一方、高市首相は国会で、
- 「国内主食用、輸出用、米粉用など、多様なコメの増産を進める」と発言
していますが、専門家はこれを「増産に見せかけた減反強化策だ」と分析し、主食用米の価格はむしろ上がり続けると予測しています。
「適正な価格づくり」とは何か――農家と消費者、両方を支えるには
コメの価格高騰を受けて、テレビなどでは「農産物の適正な価格づくり」が議論されています。「適正な価格」とは、
- 農家が暮らしていけるだけの十分な収入を得られ
- 同時に、消費者にとっても無理のない価格であること
が理想です。しかし現状では、
- 米価は過去最高水準で、消費者は負担増に苦しみ
- 一部の地域や農家は、減反や価格操作の中で自由な経営がしづらいと不満を募らせ
- 在庫は膨らむ一方で、将来の供給不安への懸念も消えていない
という、どちらの側にとってもすっきりしない状態が続いています。
今、求められているのは、
- 「価格を下げろ」「上げろ」と単純に言うのではなく、農家の経営と消費者の生活の両方をどう守るかという視点
- 減反や在庫の運用が、本当に国民全体の利益になっているのか、丁寧に検証すること
- 輸出や米粉用、飼料用などへの多様な需要の開拓を、現場の実情に即して進めること
です。そして、その舵取り役としての責任が、いま鈴木農水大臣に重くのしかかっています。
鈴木農水大臣に向けられる期待と課題
鈴木農水大臣は、
- 「コメの安定供給と安定価格を実現するのは国の責任」と明言し
- 一方で、「価格は市場が決める」として過度な直接介入は避ける姿勢
- 消費者向けにはおこめ券などの支援策を提示し
- 長期的には輸出拡大で「稼げる農業」を目指すとしています
しかし、
- 主食用米のさらなる減産方針
- 膨らむ在庫と下がらない店頭価格
- 「農家をなめるな」という現場からの強い不満
を見ると、政策の説明や現場との対話が、まだ十分とは言えない側面もあります。
今後、
- 減反と価格維持に頼らない、持続可能なコメ政策をどう描くのか
- 在庫や備蓄の運用を、もっと透明で納得感のある形にできるか
- 農家の「足腰」を鍛え直しながら、消費者の家計も守るバランスをどうとるのか
が、大きな焦点になっていくでしょう。
コメは日本人の食卓の「ど真ん中」にある存在です。その価格と供給をめぐる問題は、単なる経済ニュースではなく、私たち一人ひとりの暮らしに直結しています。鈴木農水大臣の一つひとつの発言と政策判断が、今後の日本の食と農業のあり方を大きく左右していくことになりそうです。


