ベトナムで暮らす日本人が減少傾向にある一方、ホーチミン市にはFDIが大幅流入 ― 「人」と「お金」の動きから見る最新ベトナム事情
ベトナムは、日本企業にとって長年「生産拠点」「新たな市場」「パートナー国」として重要な位置を占めてきました。
ところが最近の統計を見ると、ベトナムに長期滞在する日本人(在留邦人)の数は減少傾向にあります。一方で、ホーチミン市を中心とした外国直接投資(FDI)の流入は大きく増加しており、国としての投資魅力はむしろ高まっているといえます。
この記事では、最新の公表データをもとに、ベトナム在留邦人の動向とホーチミン市へのFDI増加、そして「より高いレベルからの国際投資の魅力」という観点から、現在のベトナムを分かりやすく整理してお伝えします。
1.ベトナム在留邦人は1万6636人、国別15位に ― 数年ぶりの低水準
日本の外務省が公表した「海外在留邦人数調査統計」の最新版によると、2025年10月1日時点でベトナムに在留する日本人は1万6636人でした。
この数字は、前年から4.4%減少しており、国・地域別の在留邦人ランキングでは15位となっています。
外務省統計では、世界全体の在留邦人総数は129万8170人と、前年比0.39%増で微増しているのに対し、ベトナムは逆に減少している点が特徴的です。
さらに、過去の推移を見ると、ベトナムの在留邦人は、2010年代後半から2020年頃にかけて増加傾向にあり、ピーク時には2万2000人前後に達していました。
ところが近年は、2022年以降減少に転じ、2025年の1万6636人はここ9年間で最も少ない水準と報じられています。
2.ホーチミン市とハノイ市に約9割が集中 ― 都市別の分布
在留邦人の都市別の分布を見てみると、ベトナムに暮らす日本人の多くが、従来通り南部の経済中心地ホーチミン市と、首都ハノイに集中しています。
- ホーチミン市:9249人(前年比5.0%減、第25位)
- ハノイ市:5853人(前年比3.6%増、第30位)
この2都市だけで、ベトナム在留邦人全体の約90.8%を占めており、日本人の生活・ビジネスが、いかに大都市に偏在しているかが分かります。
ホーチミン市は依然として最大の集積地ですが、前年より人数を減らしており、ハノイは微増という対照的な動きが見られます。
なお、より長いスパンでみると、2024年10月1日時点では在留邦人は1万7410人で、前年から8.1%減という大幅な減少が確認されていました。
そこからさらに2025年にかけて1万6636人と減少しているため、ベトナム在住日本人は数年連続で縮小傾向にあるといえます。
3.なぜベトナム在留邦人は減っているのか ― 背景にある要因
在留邦人減少の理由について、統計自体は詳しい内訳や原因を示しているわけではありません。
一方で、在留邦人動向を解説した民間の分析や、近年のビジネス環境の変化を踏まえると、いくつかの要因が考えられます。
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長期滞在者の減少と永住者の比率変化
一部の分析によると、ベトナムでは「長期滞在者(駐在員など)が減り、永住者の比率が高まっている」という傾向が指摘されています。
いわば、企業の駐在員として一定期間滞在する人が減り、現地に根を下ろして暮らす人が相対的に増えているとも解釈できます。 -
ポスト・パンデミック期の再編
2020年前後のパンデミックを経て、アジア各国では、出張や短期赴任のスタイルが変化しました。
オンライン会議やリモートワークが定着したことで、「現地に長く駐在しなくても対応できる業務」が増えた結果、海外駐在員全体が見直されていることも一因と考えられます。 -
企業の拠点戦略の見直し
アジア全体で見ると、ベトナムに限らず、中国や東南アジア諸国間で生産拠点・地域統括拠点の再配置が進んでいます。
その過程で、ベトナム拠点の「人員規模」や「役割」を見直し、駐在員を減らす動きが一部企業で起きている可能性があります。 -
円安や生活コスト、教育環境などの個人要因
円安の進行により、海外生活コストが相対的に上昇したことや、子どもの教育環境、日本への帰国のしやすさなど、個々の事情も影響していると考えられます。
こうした点は統計では直接示されていませんが、多くの在住者の声として語られているテーマです。
いずれにしても、「在留邦人の減少=ベトナムの魅力が低下」とは必ずしも言い切れません。
次に見るように、外国企業からの投資マネーという別の指標では、むしろベトナムへの期待は高まり続けているからです。
4.ホーチミン市のFDI流入が大幅増 ― 2025年は83.7億USDに
ベトナム経済の指標として非常に重要なのが、FDI(外国直接投資)です。FDIは、工場建設や現地法人設立、設備投資といった「長期的なビジネス関与」を示す、いわば「国への信任票」のような存在です。
2025年、ベトナム南部最大の都市であるホーチミン市では、FDI流入額が大幅に増加し、年間で約83.7億USDに達したと報じられています(ニュース内容の条件より)。
ホーチミン市はすでにベトナム最大の経済都市として、製造業、サービス業、IT、スタートアップなど、多様な産業を抱えています。
そこに、さらに80億ドル超規模の新規投資が流れ込んだことは、同市のビジネス環境が世界の投資家から高く評価されていることの表れです。
FDIの増加には、いくつかの背景が考えられます。
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安定した経済成長と人口規模
ベトナムは近年、GDP成長率が比較的高い水準で推移し、約1億人規模の人口を擁する「成長市場」です。
若年人口が多く、労働力が豊富であることは、多くの外国企業にとって魅力的な要素です。 -
投資環境の整備とインフラ開発
政府は工業団地の整備、インフラ投資、投資優遇策などを進めており、ホーチミン市周辺では物流網や交通インフラの整備が段階的に進行しています。
これにより、生産・輸出の拠点としての利便性が高まっています。 -
サプライチェーンの再構築
米中関係や地政学的リスクの高まりを背景に、企業は生産拠点を複数国に分散させる「チャイナ・プラスワン」戦略を進めてきました。
ベトナムはその受け皿として長年注目されており、ホーチミン市は南部の輸出拠点として重要な役割を担っています。
このように、「日本人駐在員は減っているが、ベトナムへの投資マネーは増えている」という、一見逆行するような現象が起きているのが現在の特徴です。
5.「より高いレベルからの国際投資の魅力」とは何か
ここで、ニュース内容3にある「より高いレベルからの国際投資の魅力」という言葉を、ベトナムの状況に当てはめて整理してみます。
従来、ベトナムへの投資は「低コストの生産拠点」としての位置づけが中心でした。
しかし近年は、それに加えて、以下のような「質的に高いレベルの投資」が重視されるようになっています。
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高付加価値産業への投資
製造業の中でも、電子機器、部品、ハイテク産業など、より高度な技術を必要とする分野への投資が増えています。
ITサービス、ソフトウェア開発、スタートアップ支援といった、知識集約型・サービス型の投資も拡大しています。 -
サステナビリティやESGを重視した投資
環境への配慮や労働環境の改善など、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家が増えています。
省エネ設備や再エネ関連プロジェクトなど、「持続可能な成長」を支える投資が注目されています。 -
長期的パートナーシップ型の投資
単なる生産委託ではなく、地元企業と技術・ノウハウを共有しながら共同開発を行うなど、「一緒に育っていく」関係を前提とした投資が重視されています。
これにより、現地の人材育成や産業基盤の強化にもつながります。 -
デジタル化・スマートシティ関連の投資
ホーチミン市をはじめとする大都市圏では、スマートシティ構想やデジタルインフラ整備に向けた動きも進んでいます。
ここには、日系を含む多国籍企業のIT・通信・インフラ投資が関与しており、「都市の質」を高める投資として注目されています。
こうした流れを踏まえると、ベトナムは「安い労働力の国」という段階から、「高度な人材と市場を持つ投資先」へと評価を高めつつあると言えます。
それが、「より高いレベルからの国際投資の魅力」という言葉に込められた意味だと理解できるでしょう。
6.日本とベトナムの関係:在留邦人減少でも、つながりは多層的に
ここまで見ると、「日本人が減っているのに本当に関係は深まっているのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、日越関係は、人の数だけでは測れない多層的なつながりを持っています。
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日本に住むベトナム人は増加傾向
日本側の統計では、在日ベトナム人は、近年大きく増加しており、在留外国人の国籍別ランキングでも上位を占めています。
2024年中だけでも、ベトナム人の在留数は3万5000人以上増加したとされ、日本社会で存在感を高めています。 -
ビジネス・観光・留学など多様な往来
仕事、観光、留学、技能実習、特定技能など、さまざまな形で日本とベトナムの間を行き来する人は多く、往来の形態は年々多様化しています。
在留邦人統計は「長期滞在・永住者」を中心に把握する性格があるため、短期出張者や頻繁な往来の実態は、また別の数字で現れます。 -
政府間・企業間のパートナーシップ
日本とベトナムは、投資協定や経済連携などの枠組みを通じて、長年にわたり協力関係を深めてきました。
インフラ、エネルギー、製造業、教育、医療など、多くの分野でプロジェクトが進行しています。
このように、ベトナム在住の日本人が減っているからといって、両国の関係が後退しているわけではありません。
むしろ、関係の形が「駐在員中心」から、「投資・人材・知識・技術」が複雑に行き交う多層的な関係へと変化しているとも見て取ることができます。
7.これからベトナムとどう向き合うか ― 生活と投資の両面から
最後に、今回のニュースから見えてきたポイントを、生活の視点と投資・ビジネスの視点に分けて、やさしく整理してみます。
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生活の視点:在留邦人は減少しているものの、ホーチミン市・ハノイ市には依然として多くの日本人が暮らしており、日系企業、日本人学校、医療機関、飲食店など、生活インフラは一定程度整っています。
今後も、「短期滞在や頻繁な出張を組み合わせる働き方」が増えれば、統計上の在留者数以上に、ベトナムと関わる日本人は多くなる可能性があります。 -
投資・ビジネスの視点:ホーチミン市をはじめ、ベトナムへのFDI流入は堅調で、むしろ増加傾向にあります。
低コスト生産だけでなく、高付加価値産業、デジタル、ESG、スマートシティなど、より高度な領域での投資機会が広がっている点に注目したいところです。
ベトナムは、これからも日本にとって重要なパートナーであり続けるでしょう。
ただし、その関わり方は、駐在員の数や在留邦人の統計だけでは測れない、「質の変化」を伴った新しい段階に入りつつあります。
今後も、在留邦人統計とFDI動向という「人」と「お金」両方の視点から、ベトナムの姿を丁寧に見ていくことが大切です。




