松本潤主演『19番目のカルテ』――「静かな日曜劇場」が示した新境地と課題
TBS系日曜劇場『19番目のカルテ』は、俳優・松本潤さんがキャリア30年目にして初めて医師役に挑んだ話題作として、この夏大きな注目を集めました。
一方で、放送終了後には「チャレンジングだったが数字としては伸び悩んだ」と分析されるなど、その“成果”と“課題”の両面が語られています。この記事では、ドラマの内容や評価、共演者との関係性などを整理しながら、松本さんの「新境地」がどのような意味を持ったのかを、やさしく振り返っていきます。
「19番目のカルテ」とはどんなドラマだったのか
『19番目のカルテ』は、富士屋カツヒトさんの漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作とするヒューマン医療ドラマです。
物語の舞台は、日本の医療に新たに設けられた「総合診療科」。脳外科や眼科など、臓器ごとに18の診療科があるなかで、「19番目」として生まれた新たな領域を描いています。
主人公は、総合病院に赴任してきた総合診療医・徳重晃(松本潤)。
徳重は、特別なゴッドハンドを持つ天才医師ではなく、患者の生活背景や心情を丁寧にくみ取りながら、最善の診断とケアを探っていく医師として描かれます。
「病気ではなく、人を診る」というコンセプトのもと、問診を重視し、患者一人ひとりの物語に寄り添う姿がドラマの核になっていました。
日曜劇場といえば、サスペンス性の高い展開や、権力争い、大逆転劇など“濃い味”のエンターテインメントをイメージする視聴者も多い枠です。ところが本作は、派手な手術シーンや院内のドロドロした対立をあえて排し、静かで丁寧な会話劇を中心に構成されていました。この“静かな日曜劇場”という挑戦が、本作の最大の特徴であり、新しさだったと言えます。
松本潤が見せた“受けの芝居”という新境地
本作で多くのメディアが注目したのが、松本潤さんの演技スタイルの変化です。
これまで松本さんは、カリスマ性のあるエリート弁護士(『99.9-刑事専門弁護士-』)や天下人徳川家康(『どうする家康』)など、強い個性やリーダーシップを発揮する役柄で知られてきました。
ところが、『19番目のカルテ』で演じた徳重晃は、強烈なカリスマではなく、患者の言葉に耳を傾け、相手の感情を受け止める“受けの演技”が求められる役柄。
日曜劇場の公式サイトに寄せたコメントで、松本さんは「このドラマをきっかけに『総合診療科』というものを知る方も多いのではないでしょうか。僕が演じる徳重は、『総合診療』という新たな分野に、これからの日本の医療が変わっていく未来を感じながら患者さんと向き合っていきます」と語っています。
実際、ドラマ第1話では、原因不明の身体の痛みに苦しむ患者を前に、徳重が時間をかけて不安をほぐし、心を通わせながら診断へと導いていく姿が印象的に描かれました。
同じく主演のそばで物語を紡いだ小芝風花さんは、第1話の感想として「患者と徳重が、心が通じ合って手を取り合うシーンに、うるうるしました」とコメント。
涙を誘う“派手な号泣シーン”ではなく、静かに感情が満ちていくような場面が中心だったことからも、松本さんが新たな演技の方向性に挑戦していたことが分かります。
視聴率・配信の数字から見えた「評価」と「壁」
一方で、興味深いのは本作の数字面です。
『19番目のカルテ』は、「日曜劇場」枠としては比較的控えめな結果にとどまったと報じられています。記事によれば、全話平均視聴率は10.2%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)、配信サービス「TVer」でのお気に入り登録数の最高値は95.2万とされ、「同枠としては低調な数字に終わってしまった」と分析されています。
もちろん、単純に視聴率だけで作品の価値を測ることはできません。ただ、従来の“ハラハラドキドキの日曜劇場”に慣れた視聴者の一部にとっては、静かな医療ドラマという路線がインパクトに欠けて映った可能性も指摘されています。
記事では、サスペンス要素やドロドロした権力争いを持たない作品性について、「日曜劇場にしては地味な印象だった」と評されており、そこが「新しさ」であると同時に、「数字面での課題」にもなったとみられています。
「静かな日曜劇場」という挑戦の意味
ドラマの制作サイドは、当初からこの作品を「心が温かく優しくなるドラマ」と位置づけていました。
スペシャル舞台挨拶で松本さんは、「日曜劇場では、ハラハラドキドキしたり、大逆転があったりするドラマが多い中、この作品は、音楽も主題歌も含めて心が温かく優しくなる、そんなドラマになったと思います」と語っています。
つまり、『19番目のカルテ』は、いつもの“攻めのエンタメ”とは違う日曜劇場をあえて提示する試みでもあったと言えるでしょう。
患者の人生や家族に寄り添い、医師と患者が丁寧に言葉を交わすドラマは、今のテレビドラマ界では必ずしも主流ではありません。その中で、「総合診療医」という地味に見えがちな現場に光を当てたことは、テーマ性として高く評価できるポイントです。
とはいえ、週末夜9時の日曜劇場という大枠で放送する以上、「物語の起伏をどこまで作るか」というバランスの難しさもあったと考えられます。
“静かさ”ゆえの良さと、“ドラマとしての見せ場”の両立。そのバランスをめぐる試行錯誤が、本作ならではのチャレンジだったと言えるのかもしれません。
小芝風花の存在感と「もっと見たかった」声
作品の評価のなかでしばしば語られるのが、小芝風花さんの起用と“生かし方”です。
小芝さんは、徳重とともに総合診療科で働く医師・滝野みずきを演じ、物語の大きな柱の一つとなりました。
第1話を視聴した際には、前述のように「患者と徳重が、心が通じ合って手を取り合うシーンに、うるうるしました」とコメントし、作品の優しさや温度感に共鳴している様子が伝えられています。
一方、ドラマ全体を振り返る一部の記事では、「小芝風花をもっと生かせたのではないか」「彼女の魅力や成長物語を、より深く掘り下げる余地があったのでは」といった指摘も見られます。
人気と実力を兼ね備えた若手女優である小芝さんのポテンシャルを考えれば、「彼女の回」「彼女の視点」で描くエピソードを増やすことが、ドラマにさらなる厚みをもたらした可能性はたしかにありそうです。
「放送回数」の短さというハンデ
『19番目のカルテ』は、最終回となった第8話が9月7日に放送されました。
近年の連続ドラマでは10話前後の構成が多いなかで、本作は全8話と比較的コンパクトなスケジュールで完結しています。
この「少ない話数」が、物語構成に影響を与えた可能性も指摘されています。
総合診療医という新しい領域の説明、患者一人ひとりの人生の掘り下げ、そして主人公をはじめとする主要キャラクターたちの背景・成長を描くには、どうしても時間が必要です。
限られた放送回数のなかで、患者エピソードに比重を置けば置くほど、レギュラー陣の個人エピソードは絞らざるを得ず、「まだ見ていたかった」「もっと続いてほしかった」と感じた視聴者も少なくないでしょう。
記事でも、「放送回数が足りなかった」という趣旨の指摘がなされており、これは“静かな日曜劇場”というテーマと同じくらい、本作を語るうえで重要なポイントになっています。
キャスト陣の化学反応と「同期飲み」ショット
数字や構成の課題が語られる一方で、キャスト陣のチーム感は、視聴者から温かく見守られました。
ドラマの主要メンバーである小芝風花さん、清水尋也さん、羽谷勝太さんらが「同期飲み」の席で撮影した乾杯ショットが公開されると、SNSやファンの間で「みんないい笑顔」「仲の良さが伝わる」と話題になりました(ニュース内容2)。
画面の外でもお互いを支え合いながら作品づくりに向き合っていた様子は、作品そのものの“優しさ”ともどこか重なって見えます。
また、スペシャル舞台挨拶には松本さん、小芝




