豊洲市場のマグロがつなぐ年末年始――初競りと食卓の物語
東京・江東区にある豊洲市場は、日本の「魚の台所」として、年末年始も大きな注目を集めています。なかでも毎年話題になるのが、新年恒例のマグロの初競りと、それに向けて全国から届くマグロの動きです。
この記事では、豊洲市場で行われる「熱いマグロの競り」、2026年の始まりを彩る「新春 初競り鮪フェア」、そして正月用に行われた年内最後のマグロ水揚げという、3つのニュースをつなぎながら、私たちの食卓にマグロが届くまでの流れを、やさしくひもといていきます。
豊洲市場とは? 築地から受け継いだ「日本一の魚市場」
豊洲市場は、かつての築地市場の機能を引き継ぎ、2018年にオープンした東京都中央卸売市場です。日本各地や海外から届く魚介類が集まり、仲卸業者や買い出し人によって取引され、全国の鮨店や飲食店、スーパーマーケットへと送られていきます。
その中でも、毎年お正月に行われるマグロの初競りは、ニュースや新聞、インターネットで大きく報じられる、まさに「新春の風物詩」です。2025年の初競りでは、青森県大間産のクロマグロが2億700万円という高値で落札され、史上2番目の価格となりました。このような高値は、単なる商品としての価値だけでなく、「一年の景気を占う」「商売繁盛を願う」といった縁起の意味合いも強く込められています。
マグロの値打ちを決める、豊洲市場の「熱い競り」
マグロの競りは、まさにプロの目と経験がぶつかり合う真剣勝負の場です。まだ暗い早朝、巨大なマグロが並ぶ冷えた売り場で、買い手たちは一本一本を念入りに確認していきます。
- 尻尾の断面を見て、脂の乗りや色合いをチェック
- 身の締まり具合や鮮度を確認
- 産地や大きさ、漁法などの情報も総合的に判断
そのうえで、競り人の掛け声とともに、次々と値段がついていきます。特に「一番マグロ」と呼ばれる、その年で最も高値のマグロは、全国のメディアが殺到するほどの注目の的です。
2000年代前半までは、初競りで1,000万円を超えること自体が珍しかったマグロですが、2013年には初めて1億5,540万円という価格がつき、1億円の大台を突破しました。その後も価格は高止まりし、2019年には豊洲市場移転後初の初競りで、過去最高となる3億3,360万円を記録しています。
こうした「桁違い」の価格は、純粋な市場価格というよりも、「話題づくり」や「ブランドの発信」としての意味合いも大きく、落札した企業や飲食店は、そのマグロを通じて自社の存在を国内外にアピールしています。
「一番マグロ」を落札してきたONODERA GROUP
豊洲市場の初競りで、近年特に名前が挙がるのがONODERA GROUPです。同グループは、高級鮨店「銀座おのでら」などを展開し、2018年と2021年から2025年まで、合計5年連続・通算6回にわたって「一番マグロ」を落札してきました。
この実績により、「一番マグロといえばONODERA」というイメージが定着しつつあり、海外店舗を含めたブランド力の向上にもつながっています。そして2026年の新年に向けても、豊洲市場の初競りで仕入れたマグロを使った企画が発表されています。
2026年の始まりを彩る「新春 初競り鮪フェア」
ONODERA GROUPの株式会社ONODERAフードサービスと、老舗日本料理店の株式会社なだ万は、それぞれが運営する店舗で、2026年の年明けに「新春 初競り鮪フェア」を開催すると発表しました。
フェアでは、毎年1月5日に豊洲市場で行われる新春マグロの初競りで競り落とされた「初競りマグロ」を、一般の利用客向けに提供します。初競りのマグロは、「無病息災」「商売繁盛」を願う縁起物として古くから親しまれており、新しい一年のスタートにふさわしい食材として、多くの人に喜ばれています。
「銀座おのでら」で味わう初競りマグロ
「銀座おのでら」の一部店舗では、2026年1月5日から「新春 初競り鮪フェア」を開始します。
フェア限定の特別メニューとして、マグロ仲卸の「やま幸」による本マグロを使った、赤身とトロを同時に楽しめる「初競りマグロ二貫セット」が用意されます。
- 初競りマグロ二貫セット(トロ・赤身):1,240円(税込)
- ※「廻転鮨 銀座おのでら 境町店」のみ1,160円(税込)
価格はあくまで一例ですが、「初競り」という特別なマグロを、比較的手の届きやすい価格帯で楽しめるよう工夫されています。もちろん、提供数には限りがあり、商品はなくなり次第終了となります。
「なだ万」で楽しむ懐石仕立ての初競りマグロ
一方、日本料理の老舗「なだ万」でも、2026年1月6日から順次、全国のレストランで「新春 初競り鮪フェア」を展開します。
なだ万では、ランチタイムを中心に、初競りマグロを盛り込んだ特別メニューが用意されています。
- 【ランチ限定】新春「初競りまぐろ特別メニュー」
・5,000円(税サ込)/3,500円(税サ込) - 【ランチ限定】新春「初競りまぐろ丼 ~味噌汁付き~」
・4,000円(税サ込)
また、「鮨 銀座おのでら なだ万高輪プライム店」「鮨 銀座おのでら なだ万新宿店」などの共同ブランド店舗では、両社のコラボレーションによる「新春初競りまぐろ 鮨 食べ比べ」(2,026円・税サ込)といったメニューも提供されます。
こちらも、入荷状況に応じて順次提供されるため、各店舗とも売り切れ次第終了となります。
なぜ初競りマグロは「縁起が良い」のか
毎年1月5日に豊洲市場で行われる新春マグロの初競りは、単なる市場取引を超えた、年頭の行事となっています。
- 新年最初の大きな取引であること
- 高値での落札が「景気の良さ」「商売繁盛」の象徴とされること
- マグロ自体が、お祝いの席やごちそうの定番であること
こうした理由から、初競りのマグロには、「一年の健康」「商売の繁栄」「家庭の円満」など、さまざまな願いが託されています。そのため、飲食店側も「縁起物をお客様と分かち合う」という思いでメニューを企画しており、今回の「新春 初競り鮪フェア」も、その流れの中に位置づけられます。
2026年の初競りスケジュールと豊洲市場
豊洲市場の公式情報によると、2026年も、毎年恒例どおり1月5日に水産物部で初競りが行われる予定で、生鮮マグロの競りは午前5時過ぎから始まります。
この初競りで落札されたマグロが、その日のうちから順次、銀座や日本橋、全国各地の飲食店や量販店へと運ばれ、さまざまな形で提供されることになります。
また、スーパーマーケットチェーンの東武ストアなども、豊洲市場の「まぐろ初競り」に参加し、落札したマグロを新春の目玉商品として販売する予定を発表しています。さらに、角上魚類では、2026年1月5日に「初荷の国産 生本まぐろ解体実演販売」を全店で行うとし、市場から届いたばかりのマグロを、解体ショーとともに販売する企画を準備しています。
このように、豊洲市場の初競りマグロは、全国のスーパーマーケットや鮮魚店にも波及し、一般家庭の食卓へ届く「新春の主役」となっているのです。
年末の動き:正月向け「今年最後のマグロ水揚げ」
一方で、お正月の食卓を支えるマグロは、年末からすでに準備が進んでいます。三重県・尾鷲市の漁港では、正月用の刺身や寿司ネタとして使われるマグロを確保するため、「今年最後のマグロ水揚げ」が行われました。[ニュース内容3]
年内最後の水揚げは、多くの産地で「締めくくり」の意味を持ちます。漁港では、漁師たちが一年の安全と豊漁に感謝しつつ、最後のマグロを丁寧に陸揚げします。そのマグロはすぐに選別・出荷され、豊洲市場をはじめとする各地の卸売市場へと送られていきます。
豊洲市場では、こうした全国各地から届いたマグロが年末まで活発に取引され、年越しや正月用の刺身、鮨ネタとして、飲食店や量販店に渡っていきます。つまり、私たちが大晦日や三が日に口にするマグロの多くは、こうした「年内最後の水揚げ」によって支えられているのです。
豊洲市場と産地をつなぐ「見えないリレー」
ここまで見てきたように、年末年始のマグロをめぐっては、次のような「リレー」が行われています。
- 年末:三重・尾鷲をはじめ全国の漁港で「今年最後のマグロ水揚げ」
- 年末~正月前:豊洲市場などに出荷され、正月用として取引
- 1月5日早朝:豊洲市場で新年最初のマグロ初競り
- 初競り当日以降:
・「銀座おのでら」「なだ万」などで初競りマグロフェアとして提供
・スーパーマーケットや鮮魚店で「初荷マグロ」として販売
こうした流れの中で、豊洲市場は、全国の産地と消費者を結びつけるハブ(中継拠点)としての役割を果たしています。ニュースで「豊洲市場の初競り」「三重・尾鷲の最後の水揚げ」とそれぞれの出来事が報じられていても、実際には一本の線でつながっているのです。
私たちが楽しめる「初競りマグロ」のかたち
では、一般の私たちは、この「初競りマグロ」や年末年始ならではのマグロを、どのように楽しめるのでしょうか。
- 飲食店で楽しむ
「銀座おのでら」や「なだ万」などの店舗では、コース料理や寿司の一部として、初競りマグロをあしらった特別メニューが用意されています。普段はなかなか口にできない希少な部位や、高級な本マグロのトロ・赤身を、一度に楽しめる内容になっています。 - スーパーマーケット・鮮魚店で楽しむ
東武ストアや角上魚類などのチェーンでは、豊洲市場や各地の市場から届いた初荷マグロを使い、解体ショーや特売を実施します。自宅でお刺身や手巻き寿司にして、家族でゆっくり味わうのも楽しみ方のひとつです。 - ニュースやデータで楽しむ
nippon.comなどでは、築地・豊洲市場の初競りマグロの最高価格の推移がまとめられており、2001年以降のデータから、価格の上昇や話題になった年の様子を振り返ることができます。数字の変化を眺めるだけでも、「今年は景気が良さそうだ」「話題づくりに力を入れているな」といった感想が自然と湧いてきます。
豊洲市場のマグロが映し出す、日本の年末年始
年の瀬には、三重・尾鷲のような漁港で今年最後のマグロ水揚げが行われ、漁師たちが一年を振り返ります。年が明ければ、豊洲市場でマグロの初競りが行われ、多くの人が「今年はどんな値段がつくだろう」と期待を寄せます。
そして、そのマグロは、
- 高級鮨店「銀座おのでら」のカウンターで
- 老舗「なだ万」の懐石料理として
- 街のスーパーマーケットの鮮魚コーナーで
- 家庭の食卓の手巻き寿司として
それぞれの場所で、新しい一年の始まりを祝う一皿となっていきます。
豊洲市場のマグロをめぐる動きは、単に「高いマグロが落札された」というニュースにとどまらず、産地の努力、流通のしくみ、飲食店の工夫、そして私たち消費者の楽しみ方が、複雑に絡み合ったひとつの物語です。
年末年始にマグロを口にする機会があれば、その一切れが、「三重・尾鷲の漁港」から「豊洲市場の競り場」、そして「銀座おのでら」「なだ万」などを含む全国の店先へとつながる、長い旅のゴールであることを、少しだけ思い出してみてください。きっと、いつもより一段とおいしく感じられるはずです。




