鈴木農水相が打ち出す「需要に応じた生産」政策 減反強化へ転換、米価安定狙う
農林水産省は、コメ生産政策の大きな転換を進めている。鈴木憲和農水相は「需要に応じた生産」を原則として掲げ、減反政策の強化と法定化を検討している。12月23日の記者会見では「米を増産して下落時に所得補償するという立場は取り得ない」と述べ、生産調整による価格維持の方針を改めて強調した。
この方針転換は、前任の小泉龍司前農水相が掲げていた「増産政策」からの大きな方向転換となっている。前大臣が輸出拡大と生産量増加を重視していたのに対し、鈴木新大臣は生産者の経営安定と米価安定を優先する「生産者寄り」の姿勢を示している。
「需要に応じた生産」とは何か
「需要に応じた生産」という表現は一見、柔軟な農業政策に聞こえるが、その実態は現在の減反政策を強化するものである。流通経済研究所の研究員の説明によれば、この政策は単なる増産ではなく、価格暴落や価格高騰を防ぐため、供給と需要のバランスを取りながら生産量を調整するもの。
具体的には、輸出需要が増えればそれに合わせて増やすが、過剰生産による米価下落を防ぐために生産を制限するという考え方に基づいている。この方針は、小泉前大臣の前の時代から続いてきた施策とも共通する部分があるという。
減反政策の法定化で何が変わるのか
現在の減反政策の実態を理解するには、具体的な数字を見る必要がある。現在、日本国内で作れるコメは1000万トン程度だが、300万トンを減産し、主食用のコメ生産を700万トンに抑えることで米価を維持している。
鈴木農水相は来年産の主食用コメを30万トン以上減産することを表明している。農水省は減反を強化し、これを食糧法に盛り込んで法律として法定化しようとしている。この取り組みは、政策の恒久化を目指すものと見られている。
高市首相との認識のズレ
政策の方向性をめぐり、高市耕造首相と鈴木農水相の間に認識のズレが生じている可能性が指摘されている。高市首相が言及した「増産」は、輸出用や米粉用など主食用以外のコメ生産を増やし、全体的なコメ生産量を増やすというものと考えられる。
一方、鈴木農水相と農林族議員が推し進めようとしている「需要に応じた生産」は、実質的には現在の減反政策を推進するもので、主食用コメの生産量は増えず、米価の大幅な低下も見込まれない。このため、一部の識者からは「農水省が国民を欺く政策」という厳しい指摘も出ている。
米価高騰問題への対処
米価が記録的な高値となっている背景には、天候不順やコメ不足といった要因がある。農水省は当面の対策として「お米券」制度を導入し、消費者負担の軽減に当たっている。
しかし、鈴木農水相が取り組もうとしているのは、単なる一時的な価格対策ではなく、コメの供給と価格を長期的に安定させることを目的とした構造的な改革。減反政策の強化により、生産過剰による価格崩壊を防ぎながら、生産者の経営基盤を維持しようとしている。
農業政策の姿勢転換の背景
鈴木農水相の「生産者寄り」の姿勢転換には、複数の背景がある。前大臣が失言で辞任したこと、参議院選挙が控えていることなど、政治的なタイミングが影響している可能性がある。
前大臣は消費者向けの施策や流通対策を重視していたが、鈴木新大臣は「生産のところから解決していく」という意思を示している。農水省の職員からは「進め方は江藤前大臣の時のようなイメージ」という指摘も出ており、過去の政策運営との連続性が見られている。
今後の課題と展望
減反政策を法定化することで、農業政策に一定の安定性がもたらされる可能性がある。農水省は、生産から販売に至る各段階のコスト明確化と、コスト割れでの供給抑止を目指す「食料システム法」に基づく価格形成の取り組みも進めている。
一方で、「需要に応じた生産」という政策が実質的には減反強化を意味することについて、生産者や消費者の間で異なる受け止め方が出ている。農水省は今後、現場からの意見を聴きながら、令和9年度以降の水田政策の見直しを検討する方針を示している。
農業経営の持続可能性と消費者の負担のバランスをどう取るかが、今後の農政の大きな課題となる。鈴木農水相は「バランス感覚を持った現実路線の改革」を進める必要に迫られている。



