孫正義氏の長女・川名麻耶氏がバイオベンチャー「スパイバー」を支援へ 経営危機を救う事業支援契約を締結
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の長女で、ブランディング企業「BOLD」の代表取締役CEO・川名麻耶氏が、バイオベンチャー企業「スパイバー」との事業支援契約を締結したことが話題となっています。12月23日に発表されたこのニュースは、経営危機に直面していた日本のユニコーン企業を救う動きとして注目を集めています。
事業支援契約の内容と背景
スパイバーは、遺伝子組換え技術を使って構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」を開発するバイオベンチャーです。川名氏率いるBOLDとの間で事業支援に関する契約を締結し、2026年上期をめどに所定の条件が整い次第、本格的な事業支援を実施する予定となっています。
この契約では、BOLDがブランディングと投資を通じて、スパイバーの事業継続と成長、価値創出を進めることが想定されています。単なる資金援助ではなく、経営資源の効率的な再配分や営業戦略の見直しなど、総合的なサポートを提供する形態になっているのが特徴です。
経営危機の背景
スパイバーは、かねてから経営難に直面していました。2024年12月期の決算では、米国で計画していた量産設備がコスト増などの理由で中止となり、280億円の特別損失を計上する事態に陥っています。さらに深刻なのは、過去の大型資金調達に対する返済期限が差し迫っていた点です。
決算公告によれば、2025年12月28日を返済期限とする約350億円の借入金が存在し、「継続企業の前提に重要な疑義」という会計上の警告が付されていました。つまり、このまま対策を講じなければ、企業の継続が困難になる状況に陥る可能性があったのです。
川名麻耶氏が孫正義氏の長女であることを公表した理由
注目すべき点は、川名氏があえて孫正義氏の長女であることを公表した点です。通常であれば、個人の出自は公開する必要がないものですが、川名氏は敢えてこれを明かしました。
川名氏は、この決断について「企業売却やIPOといった短期的なキャピタルゲインを前提とせず、世界のバイオベンチャーシーンを代表する企業として育て上げるための本質的な取り組みに集中できる立場であること」を伝えるためだと述べています。つまり、長期的視点でスパイバーを支援する強い意思を示すとともに、銀行団や債権者に対して返済期限の延長交渉を進めやすくするための戦略的判断だったと考えられます。
川名麻耶氏のプロフィールと専門性
川名氏は、ゴールドマン・サックス証券などの大手金融機関を経て、2019年12月にBOLDを設立しました。金融や投資の専門知識を持ちながら、ファッション産業のイノベーションに強い関心を持つ経営者です。
現在、立命館大学の客員研究員・教授を務めるほか、Design Future JapanとAiロボティクスの社外取締役を兼任しており、複数企業の経営に関わっています。スパイバーの関山和秀・代表執行役とは、慶応幼稚舎の出身者同士という共通点も存在します。
スパイバーへの支援の意義
川名氏がスパイバーの支援に乗り出した背景には、同社の技術に対する深い信念があるようです。川名氏は、ブリュード・プロテインについて「日本を代表し世界を変える可能性のある技術」と評価しており、「長期的に支えて育てていくべき」という使命感を持っていると述べています。
さらに、川名氏は「私自身が長年抱いてきたファッション産業のイノベーション構想との高い親和性がある」とも述べており、単なる金銭的支援ではなく、戦略的なコンサルティングを通じた経営支援を行う姿勢を示しています。
現在、スパイバーの技術はファッション業界でも注目を集めており、トヨタやボンマックスといった大手企業との協業実績があります。しかし、生産体制が発展途上段階にあり、「世界的評価と社会実装の足並みが揃わない部分があった」と川名氏は指摘しています。
今後の展望と経営改革の内容
川名氏の支援の下では、スパイバーは複数の経営課題に取り組むことになります。具体的には、生産キャパシティの拡大、設備投資の最適化、経営資源の効率的な再配分、営業戦略の再設定が掲げられています。
これらの改革を通じて、スパイバーは「経済的持続性を保有する形での成長」を実現することが目標とされています。つまり、単に赤字を減らすのではなく、持続可能な黒字化を目指す経営改革が期待されているのです。
2026年上期からの本格支援開始に向けて、現在は所定の条件クリアのための準備が進められています。スパイバーが今年末の返済期限を乗り越え、長期的な企業成長を実現できるかどうかが、今後の大きな注目点となります。
日本のバイオベンチャーの未来を象徴する動き
この事業支援契約は、単なる企業救済ではなく、日本発のバイオテクノロジーを世界レベルで育成していくという大きな意義を持つ動きともいえます。スパイバーのような先端技術を持つベンチャー企業が経営難に陥った際に、長期的視点で支援する投資家や経営者の存在は、日本の産業競争力維持に不可欠です。
川名氏による支援が成功すれば、スパイバーが名実ともに「世界のバイオベンチャーを代表する企業」へと成長する可能性があります。これは、日本の技術開発力と経営手腕が国際舞台でどの程度通用するのかを示す重要なケーススタディとなるでしょう。




