タンス預金13兆円減少の衝撃~年金暮らしの高齢者が直面する現実

日本全国で「眠っているお金」として知られてきたタンス預金が、この1年半で劇的に減少しています。2023年1月には過去最大の60兆円にまで膨らんでいたタンス預金が、2025年7月には約47兆円にまで落ち込んだのです。その減少幅は実に13兆円。30年以上かけてコツコツと増え続けてきたタンス預金が、わずか半年で一気に減少に転じたこの現象の背景には、何が隠れているのでしょうか。

なぜタンス預金は減り始めたのか

タンス預金とは、銀行に預けずに自宅や会社の金庫に保管している現金のことを指します。昭和の時代から多くの日本人が、銀行に預けるよりも自宅で現金を管理することを好んできました。しかし、その流れが2024年を境に大きく変わり始めたのです。

専門家が指摘するタンス預金減少の背景には、大きく4つの要因があります。

第一は、金利の上昇です。2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除して以来、「金利のある世界」が復活しました。これにより、定期預金や個人向け国債に資金を移す人が増えたと推測されています。銀行に預ければ少しでも利息がつく時代になったことで、自宅で保管するメリットが薄れたわけです。

第二は、物価高の進行です。食料品や日用品の価格が上がり続けることで、タンス預金を切り崩して生活費に充てざるを得ない世帯が増えました。さらに、インフレが進むと現金の価値は相対的に下がります。「お金をそのまま持っていても損をする」という認識が広まり、株式や投資信託、金などの資産に換える動きも活発になったのです。

第三は、新紙幣の発行です。2024年7月に新しい紙幣が発行されました。古いお札は今後も使用できますが、「いつか使えなくなるのでは?」という心理的な不安から、金融機関に預け入れた人が多かったと考えられています。過去にも、紙幣の刷新時にはタンス預金が一時的に減少する傾向が見られてきました。

第四は、強盗リスクの増加です。近年、広域にわたる強盗事件が多発したことも影響しているでしょう。自宅に現金を置いておくリスクが高まり、安全な場所として銀行に預け直す動きがあったと推測されます。

年金暮らしの高齢者を襲う現実

こうした状況の中で、特に深刻な影響を受けているのが、年金暮らしをしている高齢者たちです。「大掃除で発覚した『タンス預金』消滅」という事例は、決して他人事ではありません。

資産が約2,000万円という、慎ましく暮らす72歳の年金妻が、大掃除の際にこれまでタンス預金として自宅に保管していた現金が、いつの間にか減少していることに気づいた話があります。このケースは、単なる個人の問題ではなく、日本全体で起きている構造的な問題を象徴しているのです。

高齢者がタンス預金を選んできた理由は、金融機関への不信感もありました。実は、1990年代には北海道拓殖銀行や山一証券などの大手金融機関の破綻を経験しており、「銀行に預けていても安全ではない」という認識が高齢世代に深く根付いていたのです。そのため、自分たちの資産は自宅で管理するほうが安心だと考えてきました。

しかし、タンス預金には隠れたリスクが満載です。

タンス預金が抱える深刻なリスク

インフレによる価値の目減りは、時間とともに加速します。現在100万円を自宅に保管していても、10年後には実質価値は約82万円相当に低下し、20年後には約67万円相当にまで落ち込むとされています。数字上の100万円は変わりませんが、「買える物の量」が激減してしまうのです。銀行や国債で運用していれば金利がついたかもしれませんが、タンス預金は「確実に価値が目減りする資産」なのです。

災害リスクも無視できません。津波や洪水で金庫ごと流されたり、火災で燃えてしまったりする可能性があります。銀行に預けていれば、通帳や印鑑を失くしても、本人確認ができれば預金は1円も減りません。ペイオフ制度で1,000万円までは完全に保護されます。しかし、燃えたタンス預金は誰にも補償してもらえないのです。

認知症による口座凍結のリスクもあります。口座名義人が認知症と診断されると、銀行口座が凍結され、お金が引き出せなくなる恐れがあります。一方、タンス預金の場所を本人が忘れてしまえば、それはもう引き出すことができない「消滅した資産」になってしまいます。

詐欺の餌食になるリスクもあります。「旧札は使えなくなる、回収して新札に交換します」という詐欺師の手口が横行しています。タンス預金の存在が知られることで、こうした詐欺師との接点を持つリスクが高まるのです。

相続時のトラブルと脱税リスク

さらに、相続時には深刻な問題が発生します。相続人が保管場所を知らないタンス預金は、故人が亡くなった後も発見されずに眠ったままになることもあります。発見されたとしても、相続税申告の際に申告漏れとなるリスクがあり、後々のトラブルの原因になりやすいのです。

相続トラブルに発展する可能性も高いです。タンス預金が相続人全員に共有されていない場合、「そんなお金があったのか」という疑問から相続争いに発展することもあります。

専門家からの助言~今からできること

ファイナンシャルプランナーたちは、今からでも遅くないと指摘しています。タンス預金を保有している高齢者は、以下のような対策を検討すべきです。

第一は、銀行への預け替えです。金利が上昇している今、定期預金に預けることで、インフレのリスクを少しでも軽減することができます。ペイオフ保護も受けられるため、安全性が大幅に向上します。

第二は、国債への投資です。個人向け国債なら、国が発行する安全な資産として、インフレ対策もできます。

第三は、相続対策です。タンス預金の存在を家族に明確に伝え、保管場所と金額をまとめておくことが重要です。相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。

第四は、詐欺対策です。「旧札は使えなくなる」といった詐欺に騙されないためにも、正確な情報を得ることが大切です。実際には、旧札はずっと使えます。

変わる日本人のお金観

タンス預金の減少は、単なる統計数字の変化ではなく、日本人のお金に対する考え方が大きく変わり始めたことを示しています。

かつて、金融機関への不信感から自宅での現金管理を選んできた高齢世代も、今や金利の上昇やインフレの進行、そして新紙幣発行に伴う心理的な不安から、銀行への預け替えを検討し始めています。

「ない、ない、どこにもない!」という悲壮な叫びが、多くの高齢者の家庭で響き渡らないためにも、今こそ正確な知識に基づいた資産管理が求められています。タンス預金に頼る時代は終わり、安全で効率的な資産運用の時代へと移行していくことが、誰もが豊かな老後を迎えるための必須条件となるのです。

今、家族で話し合うべきこと

この機会に、親世代と子世代が一緒に資産管理について話し合うことが重要です。タンス預金の有無、その金額や保管場所、そして今後の資産運用方針について、透明性を持って共有することが、家族全体の経済的安定につながるのです。

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