今年最もホットな種牡馬・リアルスティールを訪ねて――なぜ今、これほどまでに注目されるのか

日本競馬界で、いま最も熱い視線を集めている種牡馬の一頭がリアルスティールです。2025年シーズンには種付け頭数が自身のキャリアハイを更新し、2026年の種付け料はスタリオン内最高額の500万円に設定されるほどの人気ぶりとなりました。芝・ダートを問わず産駒が躍動し、JRAの種牡馬ランキングでも上位に食い込むなど、その評価は一気に“トップ級”へと駆け上がっています。

この記事では、リアルスティールという馬の現役時代の足跡から、種牡馬として再評価されるに至った背景、そして2026年の種付け料をめぐる動きまでを、やさしい言葉で丁寧にひも解いていきます。

リアルスティールとはどんな馬? 現役時代の実績と血統背景

まずは、リアルスティールという競走馬がどのような存在だったのかを振り返ってみましょう。

リアルスティールは、日本で15戦3勝、UAEで2戦1勝という戦績を残しました。勝ち星の数こそ多くはないものの、その内容は非常に濃いもので、以下のようなビッグレースで輝きを放ちました。

  • 2016年 ドバイターフ(G1・メイダン1800m)優勝
  • 2017年 毎日王冠(G2・東京1800m)優勝
  • 2015年 共同通信杯(G3・東京1800m)優勝
  • 2015年 皐月賞(G1)2着
  • 2015年 菊花賞(G1)2着
  • 2016年 天皇賞(秋・G1)2着
  • 2018年 ドバイターフ(G1)3着 ほか

三冠競走のうち皐月賞と菊花賞で2着、さらに天皇賞・秋でも2着と、あと一歩のところでG1タイトルに届かないレースも多く、「善戦マン」のイメージを持つファンも少なくありませんでした。しかし、海外G1であるドバイターフを制した実力馬であり、日本の中距離~中長距離路線を長く賑わせた存在と言えます。

血統面では、父が名種牡馬ディープインパクト、母父がStorm Catという、いわゆる「黄金配合」と呼ばれる組み合わせです。このディープインパクト×Storm Catの配合からは、リアルスティールのほか、キズナなど複数のG1馬が誕生しており、日本競馬を牽引する血統パターンとして知られています。

さらに、三代母のMiesqueは英仏1000ギニーやBCマイル連覇などG1・10勝を挙げた世界的名牝であり、その繁殖成績もKingmamboなどを出した超一級品です。また、リアルスティールの全妹には、優駿牝馬やBCフィリー&メアターフ、香港Cなどを制したラヴズオンリーユーがいます。華麗な牝系・父系を併せ持つ、まさに“世界級の良血馬”と言えるでしょう。

「過小評価」の種牡馬入りから始まった物語

そんなリアルスティールが種牡馬としてスタッドインしたのは、安田記念(6歳時)後の怪我による引退がきっかけでした。ところが、華やかな血統と海外G1制覇という実績にもかかわらず、初年度種付け料は200万円と、比較的控えめな価格設定でのスタートとなりました。

背景には、「G1勝ちは海外1勝のみ」「国内ではタイトルにあと一歩届かないレースが多かった」といったイメージや、同時期にデビューした他のディープインパクト後継種牡馬との比較など、さまざまな要因が重なっていたと見られます。

それでも、産駒がデビューした初年度から2歳重賞勝ち馬を送り出し、JRAのファーストシーズンサイアーランキング2位と健闘しました。しかし、近い世代の有力新種牡馬と比べると「決定打に欠ける」と受け止められる面もあり、その評価はやや慎重なものでした。

加えて、本来なら種牡馬としての人気がピークとなるはずの供用5シーズン目(2023年)が、種付け頭数の面で低調に終わってしまいます。この結果を受け、リアルスティールは社台スタリオンステーションからブリーダーズスタリオンステーションへ繋養先が移動することになりました。

ある種、「追放」に近い形と見る向きもあり、当時は“伸び悩むディープインパクト後継”と評されることさえありました。しかし、この流れが一転する転機が、すぐその後に訪れます。

フォーエバーヤングの大活躍がもたらした「再評価の波」

リアルスティール再評価の象徴となったのが、2世代目産駒フォーエバーヤングの大活躍です。2023年末、フォーエバーヤングは全日本2歳優駿を圧巻の内容で勝利し、その存在を一気にアピールしました。

続くシーズンには、フォーエバーヤングが世界の舞台で大活躍し、日本調教馬として前人未到の領域に踏み込んだことで、リアルスティールという種牡馬への評価は一気に高まります。一部の血統評論家からは、リアルスティールを「ようやく多くの人から一流種牡馬と認められるようになった」存在と評する声も上がりました。

この「フォーエバーヤング効果」は、馬産界の空気を一変させました。ノーザンファームを中心にリアルスティール再評価の流れが生まれ、結果として2024年シーズン(供用6年目)の種付け頭数がキャリアハイとなったのです。

それまでやや冷静だった繁殖牝馬の送り手たちが、「今こそリアルスティールに付けたい」と考えるようになり、質・量ともにこれまでで最も充実した配合が実現した形と言えるでしょう。

2025年のリーディングで存在感を示すリアルスティール

産駒の勢いは数字にも現れています。JRAが集計する2025年の種牡馬リーディングでは、リアルスティールは総賞金16億2471万円で8位にランクインしています。

ランキング上位には、キズナ、ロードカナロア、キタサンブラック、ドゥラメンテ、エピファネイアといった日本を代表する種牡馬たちの名が並びますが、その中に堂々とリアルスティールの名前が入っていること自体が、現在の評価の高さを端的に示していると言えるでしょう。

さらに、ファンの間では「リアルスティールは芝で45勝、ダートで43勝を挙げる“万能種牡馬”」という声もあり、芝・ダートいずれのカテゴリーでもコンスタントに勝ち星を積み上げている点が高く評価されています。「種牡馬界の大谷翔平」といった比喩が使われるのも、その二刀流ぶりゆえでしょう。

配合面で見えるリアルスティールの特徴と長所

血統・配合の観点から見ると、リアルスティールにはいくつかの興味深い特徴があります。

まず、先ほど触れたように、父ディープインパクト×母父Storm Catという組み合わせは、「黄金配合」として知られます。このパターンは、リアルスティール自身やラヴズオンリーユー、キズナなど複数のG1馬を送り出しており、日本における成功パターンのひとつです。

血統分析では、「Sir Ivor≒Terlingua」によって「Nasrullah×Princequillo」血脈のしなやかさが最大限に引き出されていると評価されており、スピードとスタミナのバランス、そして柔らかいストライドを伝える血統として注目されています。

また、配合の傾向を見ると「自身の長所をさらに強調する配合」よりも、「自身の短所をうまく補う配合」がハマりやすいと指摘されています。これは、リアルスティールが持つメンタル面の強さや勝負根性を、少し硬めのスピード血統やパワー型の牝馬に乗せることで、バランスの良い産駒が出やすいというイメージにもつながります。

興味深いのは、「Storm Catのクロス(近い世代での重ね合わせ)はアベレージこそ高くないものの、打点(大物)が出る可能性は十分ある」とされている点です。ダート路線を狙う場合には、そこまで嫌う必要はなく、むしろ大きな一発を期待できる配合として捉える見方もあります。

さらに、Hennessyのラインとの相性が良いというデータも報告されています。これは、同じディープインパクト後継のキズナにも見られる傾向であり、今後の配合戦略においても重要なヒントとなりそうです。

血統評論家の中には、リアルスティール産駒の特徴として「インテンシティ(前へ向かうベクトルの強さ)」を挙げる人もいます。単なる闘争心というより、「相手を抜きにいく意思」や「勝ちに行く前向きさ」が強いタイプが多く見られ、それがレースでの安定した走りや勝負強さに結び付いていると分析されています。

社台とブリーダーズ――繋養先移動の裏側と“思惑”

リアルスティールの物語を語るうえで避けて通れないのが、社台スタリオンステーションからブリーダーズスタリオンステーションへの移動です。供用5年目(2023年)の種付け頭数が伸び悩んだ結果、いわば「主役級の座」から外れるような形での移動となりました。

この動きについて、一部の論考では「追放という表現もできる」としつつも、その後のフォーエバーヤングの活躍を受けて、社台サイドが再びリアルスティールをどう扱うのかに注目が集まっていると指摘しています。

とくに、種付け料の見直しという点では、「リアルスティールこそ、今いちばん値上げしたい種牡馬なのではないか」という見方も紹介されています。実際、2025年の時点で種付け料は500万円に設定されており、繋養先のスタリオンの中で最高額となっています。

こうした動きからは、かつて「伸び悩み」と見られていたリアルスティールが、今や“引く手あまた”の人気種牡馬へと変貌していることがうかがえます。「フォーエバーヤングという大物がいる“今”こそ、再び社台に戻すならベストタイミング」という見方もあり、今後の動向は引き続き注目を集めそうです。

2026年の種付け料はどうなる? ホットな種牡馬としての現在地

リアルスティールの2025年シーズンの種付け料は500万円で、これは繋養先スタリオン内での最高額となっています。フォーエバーヤングの世界的活躍や、芝・ダート両面での産駒の安定した成績を受け、馬産地における評価はかなり強気なものとなりました。

2026年の種付け料については、2025年シーズンの産駒成績や、さらにその先の大舞台での結果など、さまざまな要素が影響すると考えられます。ただ、現時点で重要なのは、「リアルスティールがすでにトップレンジの種牡馬として扱われている」という現在地です。

種付け料の設定は、単に人気や話題性だけでなく、産駒の成績・血統の希少性・今後の期待値などを総合して決まります。その意味で、500万円という数字は、リアルスティールが「一過性のブームではなく、継続的な結果を期待できる種牡馬」として認められている証と言えるでしょう。

リアルスティール産駒はどんなタイプを狙えるのか

これからリアルスティールに注目したいファンや、配合に関心のある方に向けて、産駒の傾向をもう少しやさしく整理してみます。

  • 芝・ダートの二刀流
    芝・ダートのどちらでも勝ち星を重ねており、極端な偏りが少ない“万能型”と評価されています。
  • 距離の融通性
    父ディープインパクト譲りの中距離適性に加え、母系のスピードやパワーを活かして、マイル~中距離、さらにはダート中距離でも活躍馬が出ています。
  • 勝負根性・前向きさ
    血統評論家の間で「インテンシティが強い」と表現されるように、前へ前へと進む姿勢の強いタイプが多いとされます。
  • 配合の工夫で大物狙いも
    Storm CatクロスやHennessyのラインとの相性など、「当たれば大きい」配合パターンも見いだされており、今後も新たな大物誕生が期待されています。

このように、リアルスティールは「どこかに特化した尖ったタイプ」というより、総合力に優れた万能型種牡馬としての色彩が強いと言えます。だからこそ、配合相手の牝馬の個性に応じて、さまざまな方向性の産駒が期待できるのが魅力です。

「ホットな種牡馬」として、これから何を見ていけばよいか

リアルスティールが「今年最もホットな種牡馬」と評される背景には、

  • フォーエバーヤングを筆頭とする産駒の世界的な活躍
  • 2024年の種付け頭数キャリアハイという馬産地の熱量
  • 2025年リーディング上位に食い込む安定した成績
  • 500万円というトップレンジの種付け料設定

といった複数の要因が重なっています。

今後注目したいポイントとしては、

  • フォーエバーヤング以外からもG1級のスターがどれだけ出てくるか
  • 芝・ダート、国内外問わず、どのカテゴリーで主力級が増えていくか
  • ディープインパクト後継の中で、どのような“ポジション”を確立していくか

といった点が挙げられます。

すでにリアルスティールは、「ディープインパクトの後継として成功した種牡馬」の一角に名を連ねつつありますが、その評価を不動のものにできるかどうかは、これからデビューする世代、そして2歳~3歳路線での活躍次第と言えるでしょう。

いま競馬ファンが注目すべきは、「リアルスティール産駒が重賞に出てきたとき、その走りがどのような色を見せるのか」「母系によってどんな個性が引き出されているのか」といった点です。レース結果だけでなく、パドックでの雰囲気や走法、距離適性の出方などを見ていくと、リアルスティールという種牡馬の“顔つき”が、より立体的に見えてくるはずです。

種牡馬としてのキャリアは、まだ中盤戦に差し掛かったところ。ここから先、どれだけ多くの名馬たちがリアルスティールの名を血統表に刻むのか――その物語は、まさに今、進行形で紡がれています。

参考元