スペイン政府、Airbnbに過去最大級の罰金 無許可物件広告で約6,400万ユーロの制裁
スペイン政府が、民泊仲介大手Airbnb(エアビーアンドビー)に対し、無許可の観光用賃貸物件を大量に掲載していたとして、約6,410万ユーロ(約65億円)の罰金を科しました。
この罰金は、スペインの消費者保護当局がこれまでに科した制裁の中でも史上2番目の規模とされ、同国が違法な短期賃貸の取り締まりを一段と強化している象徴的な事例となっています。
何が問題になったのか:6万5,000件超の「無許可」物件
スペイン消費者権利省の発表によると、Airbnbは6万5,000件を超える短期賃貸物件を、スペインの規制に反した形で掲載していたと指摘されています。
- 多くの物件で営業許可番号(ライセンス番号)が記載されていない
- 物件の所有者が個人か法人か明記されていないケースも多数存在
- 一部は、地方自治体の条例などで観光向け賃貸が禁止されたエリアに位置している可能性があるとされています。
スペインでは、観光客向けの短期賃貸住宅について、多くの自治体で「登録番号の表示」や「用途地域の制限」などのルールが定められており、これに違反した物件は「違法物件」または「無許可物件」として扱われます。
当局は、Airbnbがこうした無許可物件を大量に広告し、プラットフォーム上で予約可能な状態にしていたことが、今回の巨額罰金につながったと説明しています。
スペイン政府の狙い:住宅危機と観光公害への対策
スペイン政府や地方自治体は、ここ数年、民泊などの短期賃貸が住宅不足や家賃高騰の一因になっているとして、規制を強めてきました。
当局は、Airbnbなどのプラットフォーム型サービスを通じた短期賃貸が、次のような問題を引き起こしていると主張しています。
- 観光客向けに住宅が転用されることで、地元住民向けの賃貸住宅が減少
- 人気観光地で家賃が急激に上昇し、住民が住み続けにくくなる
- 一部エリアで、観光客の増加により騒音・混雑・生活環境の悪化が発生
スペイン消費者権利省のパブロ・ブスティンドゥイ消費者大臣は、今回の措置について、「観光目的の短期賃貸事業における杜撰な管理と違法性を根絶し、住民の住宅賃貸を容易にし、消費者の権利を守ることが目的だ」とコメントしています。
つまり、今回の罰金は単にAirbnbを狙い撃ちにしたものではなく、住宅危機への対策と観光公害(オーバーツーリズム)への抑制という、より広い政策の一環といえます。
Airbnbに命じられた「掲載削除」命令
スペイン政府は罰金に加え、Airbnbに対し、規則に違反したと判断された6万5,000件以上の物件をプラットフォームから削除するよう命じました。
削除対象となった物件の多くは、
- 営業許可番号が不明または未記載
- 所有者情報が不十分
- 地方ルールに反して観光利用されている疑い
といった問題を抱えているとされています。
スペイン政府や地方自治体は、これまでもAirbnbやBooking.comなどのプラットフォームに対し、無許可物件の削除や登録番号の義務化を求めてきましたが、今回はその取り締まりをさらに一歩進めた形です。
背景にある各都市の厳しい姿勢:バルセロナなど
スペインの中でも特に人気が高い観光都市バルセロナは、民泊規制の最前線に立ってきた都市として知られています。
バルセロナ市のジャウメ・コルボニ市長は、2024年6月の時点で、2028年までに観光目的の短期賃貸を全面的に禁止する方針を表明しており、市としても非常に強い規制姿勢を示しています。
この背景には、
- 旧市街や海岸エリアでの観光客過多
- 地元住民が中心部から追い出される「ジェントリフィケーション」的状況
- 生活コストの上昇と、住民からの不満・抗議の高まり
といった事情があります。
同様の問題は、マドリードやバレンシア、セビリアといった他の都市でも見られ、各自治体がそれぞれの条例で民泊を規制してきました。今回の罰金は、こうした地方レベルの動きと連動した、国家レベルでの締め付け強化と位置づけられます。
罰金額の大きさ:6,410万ユーロとはどの程度か
今回の6,410万ユーロ(約6,500万ドル、約56百万ポンド)という罰金額は、スペインの消費者保護分野における制裁金としては過去2番目の規模と報じられています。
金額だけを見ると、Airbnbの世界的な売上規模からすれば、「企業が倒れるほど」の水準ではありません。しかし、
- 一国の消費者当局が単一のプラットフォームに科した歴史的な高額罰金であること
- スペイン国内での将来の事業展開に対する強い警告であること
という点で、Airbnbにとっては非常に重い意味を持つとみられます。
Airbnb側の対応と今後の影響
報道ベースでは、Airbnb側はこれまでも、各国・各都市のルールに従う姿勢を示しつつ、
- 登録番号の表示機能の整備
- 自治体とのデータ共有の取り組み
などを進めてきましたが、スペイン当局は「それでもなお、違法・無許可物件の掲載が大規模に続いている」と判断したことになります。
現時点で、今回の罰金に対しAirbnbが不服申立て(上訴)などの法的手段を取る可能性も指摘されていますが、その詳細や結論については、今後の続報を待つ必要があります。
一方で、今回のスペインの決定は、
- 他のEU加盟国や観光都市が、同様の規制強化や罰金措置を検討するきっかけになる
- 世界各地で、Airbnbと自治体との関係を巡る議論が一段と激しくなる
といった波及効果を生む可能性があります。
旅行者・ホスト・地域社会への影響
今回のスペイン政府の決定は、Airbnbという企業だけでなく、旅行者、ホスト、地域社会にもさまざまな影響を与えると考えられます。
- 旅行者:
規制対象となった物件が削除されることで、人気エリアで利用できる民泊の選択肢が一時的に減る可能性があります。一方で、ライセンスを取得した正規物件が中心になることで、安全性や信頼性の向上が期待できる面もあります。 - ホスト(貸し手):
無許可で物件を掲載していたホストは、登録や許可申請を行わない限り、掲載継続が難しくなるとみられます。正規のホストにとっては、「ルールを守らない競合」が減ることで、公平な競争環境に近づく可能性があります。 - 地域社会・住民:
無秩序な短期賃貸が抑えられれば、住宅市場のひっ迫や騒音トラブルなどが、ある程度は緩和されることが期待されています。特にバルセロナのような観光都市では、「住民の暮らし」と「観光産業」のバランスが最大のテーマになっています。
今後の焦点:プラットフォーム責任と「シェアリングエコノミー」の行方
今回のスペイン政府の決定は、単に一企業への罰金という枠を超え、プラットフォーム企業の責任を問う国際的議論の一例としても注目されています。
Airbnbのようなサービスは、「シェアリングエコノミー」として、個人が自宅や空き部屋を有効活用できるというメリットをもたらす一方で、
- 既存のホテル産業との競合
- 都市計画や住宅政策との不整合
- 税金・登録・安全基準などのルールとのギャップ
といった課題も抱えています。
スペインでの巨額罰金は、こうした課題に対して、「プラットフォーム側にも積極的な管理義務と法令順守の責任を負わせるべきだ」という考え方が、強まっていることを示しているともいえます。
今後、Airbnbがどのように対応し、スペイン政府や自治体との関係を再構築していくのか、そして他国の規制当局がどこまで同調していくのかが、世界の観光業界やシェアリングエコノミー全体にとって大きな焦点となりそうです。


