世界都市ランキングで東京がニューヨークを抜き初の2位に 「おもてなし」が生んだ大逆転
森記念財団都市戦略研究所が公表した「世界の都市総合力ランキング(GPCI-2025)」で、東京が初めてニューヨークを抜き、総合2位となりました。長年2位の座を守ってきたニューヨークは3位に後退し、「世界のトップ都市」をめぐる勢力図に大きな変化が生まれています。
ロンドンが依然1位、東京が9年越しで2位に浮上
ランキングの1位はロンドンで、2012年からトップの座を維持し続けています。経済・研究開発で2位、文化・交流や交通・アクセスでは1位と、依然として総合力の高さを見せています。
一方、東京は2016年から9年間3位が続いていましたが、ここにきて大きくスコアを伸ばし、調査開始以来初めてニューヨークを抜いて2位へと躍進しました。この変化は単なる順位の入れ替わりにとどまらず、都市の価値をめぐる世界的な評価軸の変化も映し出しています。
「世界都市総合力ランキング(GPCI)」とは?
GPCIは、世界の主要都市を対象に、次の6分野で「都市の総合力」を多角的に評価し、順位付けする指標です。
- 経済
- 研究・開発
- 文化・交流
- 居住
- 環境
- 交通・アクセス
さらに、国際金融センターとしての視点を強化するため、「金融」分野を加えた7分野で競争力を分析する枠組みも示されています。GPCIの特徴は、単に総合順位を出すだけでなく、各分野の強みや弱みを通して「その都市が何に強く、何に課題を抱えているのか」を読み解ける点にあります。
東京が2位に躍進した背景:「ハード」から「ソフト」へのシフト
今回の注目点は、東京の評価向上を支えたのが、経済ではなく「ソフトパワー」だったという点です。東京は経済分野の順位を下げているにもかかわらず、総合スコアを大幅に伸ばし、ニューヨークを追い抜きました。
具体的には、以下の分野が東京の躍進を強く後押ししました。
- 居住分野:世界1位を獲得
- 文化・交流分野:初の2位に浮上し、「ナイトライフ充実度」で1位
- 環境分野:7位へと上昇
これらは、インフラ整備や経済規模といった「ハード面」だけでなく、生活のしやすさ、安全性、快適さ、多様な文化体験といった「ソフト」な魅力が世界的に高く評価されたことを意味します。
「おもてなし」と治安の良さ、清潔さが高評価
東京の評価を押し上げた要因として、森記念財団は治安の良さや街の清潔さ、「おもてなし」に象徴される人々の姿勢を挙げています。
- 犯罪やテロのリスクが比較的低いと評価されていること
- 落とした財布が戻ってくるような治安の良さが、世界でも特筆されていること
- ゴミが少なく、街並みが清潔に保たれていること
これらは、海外の旅行者や在住者が「東京は安心して過ごせる」「快適でストレスが少ない」と感じる背景となっており、居住分野1位という結果に直結しています。単なる観光地としての人気ではなく、「日常を送る場所」としても高く評価されたことが今回の躍進の大きな特徴です。
ナイトライフや文化体験の多様化で「夜の東京」も高評価
文化・交流分野で東京が初めて2位となった背景には、「ナイトライフ充実度」で世界1位を獲得したことがあります。
夜遅くまで開いている飲食店やバー、ライブハウス、アニメ・ゲームカルチャーをはじめとするポップカルチャーの発信地としての顔など、東京ならではの多彩な夜の楽しみ方が、世界の評価につながりました。観光客だけでなく、在住外国人やビジネス客からも「飽きない都市」と見られていることがわかります。
環境分野でも順位を上げた東京
東京は環境分野でも7位に上昇し、総合力アップに貢献しました。GPCIでは「気温の快適性」や緑地の充実度などが評価指標に含まれますが、ロンドンが「緑地の充実度」で1位を獲得する一方、東京も環境面での取り組みが実を結びつつあります。
都市の環境指標は、観光だけでなく、企業や研究機関が拠点を構える際の重要な判断材料にもなります。東京が環境分野でも評価を上げていることは、「ビジネスしやすく、暮らしやすい都市」への転換が進んでいるサインと言えます。
ニューヨークはなぜ3位に後退したのか
一方で、3位となったニューヨークは、全都市の中で最もスコアの下落が大きかった都市としても挙げられています。特に、次の点が大きなマイナス要因となりました。
- 居住分野:「物価水準の低さ」が最下位
- 環境分野:「気温の快適性」が悪化
ニューヨークは、住宅費をはじめとする物価の高さが世界的にも知られており、「住みやすさ」という観点では厳しい評価を受けています。また、気候変動の影響などもあり、環境面での快適さが低下したとされている点も、スコアの押し下げ要因となりました。
ただし、ニューヨークは依然として経済分野と研究・開発分野で世界1位という圧倒的な強さを保っています。
- 上場株式時価総額でトップを独走
- 研究開発費でも世界一
金融・投資・イノベーションの中心地としての地位は変わらず、「経済のニューヨーク」「総合力の東京」という構図がより明確になったとも言えます。
大阪と福岡もランクイン 日本の都市力全体が評価
今回の世界都市ランキングでは、大阪が18位、福岡が40位にランクインしたことも伝えられています(報道各社による)。東京だけでなく、複数の日本の都市が世界の中で一定の存在感を示していることは、日本全体の都市力の底上げを示すものです。
大阪はアジアにおけるビジネス・観光拠点として、福岡はスタートアップや若い世代が集まる都市として、それぞれ独自の強みを伸ばしてきました。東京が世界2位に浮上したことで、日本の都市ネットワーク全体がどう発展していくかにも注目が集まります。
「世界都市力2位の東京」が意味するもの
今回、東京が「世界都市力2位」に浮上したことは、単に順位の問題ではなく、「都市の価値観の変化」を象徴していると見ることもできます。
- かつては経済力や人口規模が都市評価の中心だった
- 現在は、安全性、暮らしやすさ、文化体験、多様性、環境といったソフト面がより重視されている
東京は、経済面でニューヨークに及ばない部分がある一方で、「人の優しさ」「公共マナー」「時間の正確さ」「街の清潔さ」といった日常の快適さを支える要素を積み上げてきました。こうした積み重ねが、GPCIにおける居住・文化・環境分野のスコア向上につながり、総合2位という結果をもたらしたといえます。
東京が目指すこれからの都市像
森記念財団の資料では、東京について、伝統と現代の感性が共存する多彩な魅力が海外から多くの旅行者を惹きつけているとコメントしています。江戸から続く歴史と、最先端のテクノロジーやポップカルチャーが交差する都市空間は、他の都市にはない個性として評価されています。
また、東京2020大会や世界陸上、デフリンピックなどの国際的なスポーツイベントを通じて、「人の可能性」や「多様性を尊重する社会」を体現してきたことにも触れられています。東京は今後も、集積する知恵や発想を活かし、「誰もが自己実現を追求し、幸せを実感できる都市」を目指すとしています。
世界の都市間競争が激しさを増す中で、東京が「ソフトパワー」を武器にニューヨークを追い抜いたというニュースは、これからの都市づくりにおいて何が大切なのかを考えるきっかけにもなりそうです。




