バカリズムが描く“日常のミステリー” 舞台版『ノンレムの窓』とバラエティで光る企画力

お笑い芸人としてだけでなく、脚本家としても高い評価を集めるバカリズムさん。近年はドラマシリーズ『ノンレムの窓』で見せる独自の世界観が話題を呼び、その“日常を切り取るセンス”が改めて注目されています。舞台版『ノンレムの窓』の観劇レビューや、テレビ東京系バラエティ『ゴッドタン』での人気企画など、今まさにバカリズムさんの発想力と表現力が多方面で存在感を放っています。

ここでは、舞台『ノンレムの窓』の魅力と、川島明さんやケンドーコバヤシさんら売れっ子芸人たちが「これだけは絶対参加したい」と語るバラエティ企画を通して、バカリズムさんの“今”をやさしく紐解いていきます。

ドラマから舞台へ――『ノンレムの窓』とは

『ノンレムの窓』は、深い眠りを意味する「ノンレム睡眠」を冠したオムニバス形式のドラマシリーズです。バカリズムさんが安部裕之さん、竹村武司さんと共に脚本を手がけるショートショート集で、1編最長約50分というコンパクトな構成ながら、毎回強い余韻を残す内容が特徴です。

2022年から続くこのシリーズは、現代の日常やふとした違和感を題材に、少し不思議で、ちょっと怖くて、でもどこか笑える物語を織り上げてきました。視聴者からは「切り口が独特」「オリジナリティが高い」といった声が多く寄せられています。

そんなドラマの世界観をそのまま劇場に持ち込んだのが、今回話題となっている舞台版『ノンレムの窓』です。

観客を“のぞき見”させるような日常描写

観劇レビューによると、舞台版『ノンレムの窓』でも、作品の核にあるのはやはり「日常のひとコマをそっとすくい上げ、そこに“?”を投げかける視点です。

例えば、スーパーのレジに並ぶだけのシーンを扱った『夕暮れ時の葛藤』。
風間俊介さん演じる男性が、2つあるレジのどちらに並ぶかを悩み、短い列を選んだはずが、なぜか長い列の方がどんどん進んでしまう――。誰しも一度は経験のありそうな「あるある」状況を、じわじわとした笑いとともに描き出します。

客観的に見れば何でもない場面ですが、自分が当事者になると妙に気になってしまう、そんな“ささいな葛藤”を緻密に切り取ることで、観客は「わかる!」と共感しながら物語に引き込まれていくのです。

情報をあえて“見せない”構成の妙

観劇レビューで特に高く評価されているのが、「情報を制限する」演出・脚本の工夫です。

人は「隠されると見たくなる」もの。その心理を巧みに利用し、すべてを説明し過ぎないことで、観客に想像する余白を残します。 物語のヒントになりそうな要素を小出しにしながらも、“肝心なところ”はあえて語らない。その結果、短い上演時間のなかに、観客一人ひとりの想像力が入り込む余地が生まれ、作品の余韻が長く続いていきます。

ショートショートという形式は、本来であれば「説明不足」になりがちですが、バカリズムさんたちの台本では、その“足りなさ”こそが魅力に転じています。「風呂敷を広げようと思えばいくらでも広げられる話を、あえて短くまとめる」ことで、物語は凝縮され、観る側の心に強い印象を残すのです。

代行サービス、SNS…現代的な題材を素早くキャッチ

舞台版『ノンレムの窓』では、現実の社会で話題になっているテーマを素早く作品に取り込む姿勢も光っています。

観劇レビューでは、「退職代行」などの代行サービスが例に挙げられています。 SNSでもよく話題に上がるこうしたサービスは、便利さと違和感が同居する、現代的で少し不思議な存在です。レビュー執筆者は、安部裕之さんの「時代の潮流を敏感に察知するアンテナ」に感心したと綴っており、現実とフィクションの距離感の取り方も、『ノンレムの窓』の魅力のひとつになっていることがわかります。

『匿う男』に見る、男性心理の“あるある”

既存エピソードから舞台版で再演された『匿う男』は、レビュー執筆者が「一番好き」と語る作品です。

物語は、じろうさん(シソンヌ)が演じる中野のもとに、与田祐希さん演じる女性・真央が突然「匿ってほしい」と転がり込んでくるところから始まります。 真央は警察に追われていると話し、状況はかなり切迫しているはずなのに、どこかコミカルで現実味のない空気が流れていく――。観客は「こんな展開、現実にはほとんどない」と思いながらも、なぜか中野の言動に感情移入してしまうといいます。

レビューによれば、この作品は特に男性に刺さる内容で、中野の「本音と建前」が“男性のあるある”ばかりだと評されています。 自分でも「カッコ悪い」とわかっているのに捨てきれないプライドや、都合のいい妄想、理性と感情のせめぎ合い…。そうした細部が、笑いと共感を呼んでいるようです。

じろうさんの繊細な芝居や所作も高く評価されており、「キャラクターのバックグラウンドが自然と想像できる」と感じさせるほどの説得力があったとレビューは伝えています。 ここにも、バカリズムさんたちによる脚本の精度の高さが表れています。

俳優陣が体現する“バカリズム脚本”の世界

舞台『ノンレムの窓』の出演者には、風間俊介さん、じろうさん(シソンヌ)、与田祐希さんら実力派が名を連ねます。

風間俊介さんは、等身大の男性像を自然体で演じることで知られ、『夕暮れ時の葛藤』のような日常的なシチュエーションにリアリティを与えています。 一方で、じろうさんは細かな身振り手振りや表情で笑いを生み、観客を作品の世界に引き込みます。 与田祐希さんは、どこかミステリアスでありながら親しみも感じさせる存在感で、物語にメリハリを加えています。

バカリズムさんの脚本は、「台詞のテンポ」「間」の取り方が非常に重要ですが、それをきちんと生かせるキャストが揃っていることで、作品の魅力が最大限に引き出されています。

バラエティでも存在感 ゴッドタンで光る“企画愛”

一方で、バカリズムさんはバラエティ番組でも変わらずフル回転しています。その中でも、テレビ東京系『ゴッドタン』は、芸人たちから「絶対に参加したい」と言われる人気企画が多い番組です。

ニュース内容では、川島明さん(麒麟)、バカリズムさん、ケンドーコバヤシさんら、スケジュールの詰まった売れっ子芸人たちが「これだけは外したくない」と話す企画が紹介されています。バカリズムさんは、出演者としてはもちろん、企画そのものへの理解度や乗りこなし方が高く、番組に独特の“安心感”をもたらす存在として信頼されています。

ゴッドタンの企画は、芸人の個性や“弱点”をあえていじるような攻めた内容も多いですが、バカリズムさんは自分の立ち位置を的確に把握し、必要以上に前に出過ぎることなく、かといって埋もれることもなく、絶妙なバランスで笑いに貢献します。その姿勢は、脚本家としての「全体を俯瞰する目線」とも通じているように見えます。

“多忙”が感じさせない安定感と柔軟さ

川島明さんやケンドーコバヤシさん、そしてバカリズムさんといった面々は、帯番組、ラジオ、執筆、イベント出演など、多岐にわたる仕事を抱える超多忙芸人です。それでもなお、特定のバラエティ企画に対して「これだけは絶対出たい」と語る背景には、その企画や番組に対する信頼愛着があります。

バカリズムさんは、ゴッドタンのような番組で、ただ“呼ばれて出るだけ”ではなく、番組全体の空気感や、他の出演者のキャラクターを踏まえた上で、自分の役割を瞬時に判断して動いているように見えます。その柔軟さやバランス感覚は、舞台やドラマの脚本づくりにも通じるものであり、「その場に最適な一手」を選び続ける姿勢が共通しているようです。

脚本家と芸人、二つの顔が響き合う

舞台版『ノンレムの窓』のレビューを読むと、バカリズムさんの脚本には、芸人として培ってきた「笑いのタイミング」や「間」の感覚が強く反映されていることがわかります。 台詞はリズミカルで、会話のキャッチボールが心地よく、そこに少しだけ毒や違和感が混ざることで、独特の余韻が生まれています。

一方で、ゴッドタンなどのバラエティ番組での立ち回りを見ていると、構成作家のような視点、すなわち「この場をどう面白くするか」を常に考えていることが伝わってきます。舞台やドラマでは脚本家として“裏方”にまわり、バラエティでは“表”に出て笑いを生む。その二つの顔が互いに影響し合い、今のバカリズムさんの独自性を形作っているのでしょう。

『ノンレムの窓』が映し出す、観る人それぞれの“日常”

『ノンレムの窓』は、スーパーのレジ、代行サービス、突然訪ねてくる女性――といった、一見バラバラな題材を扱いながらも、根底にあるテーマは共通しています。それは、「当たり前の日常に、どれだけ多くの“?”が潜んでいるか」という問いかけです。

観客や視聴者は、自分の経験や価値観を重ね合わせながら作品を受け取り、「あのとき自分も同じことで悩んだな」「こういう人、いるな」といった形で物語とつながっていきます。バカリズムさんの脚本は、その“つながり方”をあらかじめ計算した上で、あえて説明を削ぎ落し、余白を残しているように見えます。

だからこそ、『ノンレムの窓』は「人によって、心に残るシーンや解釈が少しずつ違う」作品になっているのでしょう。観劇レビューでも、「作品ごとに好き嫌いは分かれるかもしれないが、その“差”も含めて楽しめる」というニュアンスが語られています。

今後への期待――“日常”はまだまだ尽きない

ドラマ『ノンレムの窓』は、2025年新春版で第7弾を迎え、「シリーズとしての円熟味」を増していると評価されています。 一方で、今回の舞台版のように、テレビから劇場へとフィールドを広げることで、同じ世界観でもまったく違った体験を観客に届けています。

また、バラエティ番組では、いまなお第一線で“現役の芸人”として活躍し続けているバカリズムさん。脚本家と芸人という二つの顔を行き来しながら、「日常」を笑いとドラマに変えていくそのスタイルは、これからもさまざまな形で進化していきそうです。

スーパーのレジでふと悩んだ瞬間、SNSで目にした新しいサービスに違和感を覚えたとき、あるいは何気ない会話のなかで、「これってよく考えたら変だな」と感じることがあるかもしれません。そんなとき、「これは『ノンレムの窓』の1エピソードになりそうだな」と想像してみると、いつもの日常が少しだけ違って見えるはずです。

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