レゾナックが示す「機能性×脱炭素×AI」――半導体・材料産業の変革とラピダスの挑戦

レゾナックという社名を、ここ数年でニュースで目にする機会が増えた、と感じている方も多いのではないでしょうか。
半導体材料や機能性化学品を手がける同社は、いま「機能性に特化したニッチな要望への対応」と「脱炭素(カーボンニュートラル)に向けたAI活用」という2つの軸で注目を集めています。
さらに、日本発の先端半導体メーカーであるラピダスが、AI半導体向け基板の生産効率を大きく高めたというニュースも加わり、国内半導体・材料産業の動きが一段と活発になっています。

レゾナックとは?共創型の「機能性化学メーカー」へ

レゾナックは、かつての昭和電工と日立化成が統合して誕生した化学メーカーで、電子材料、半導体関連材料、高機能樹脂などを幅広く展開しています。
同社は自らを「共創型化学会社」と位置づけ、顧客やパートナーと一緒に新しい価値を生み出す姿勢を打ち出しています。
2025年の統合報告書でも、「世界トップクラスの機能性化学メーカーへの変革」を掲げ、半導体・モビリティ・環境対応など成長分野に集中していることが示されています。

ここでいう「機能性」とは、単に材料としての性能が高いというだけでなく、「特定の用途や環境にぴったり合うような、高度にカスタマイズされた特性」を意味します。
例えば、半導体製造のごく一部の工程でしか使わないが、その工程の歩留まりを大きく左右する材料や、放熱・絶縁・耐熱性などを微妙に調整した電子部品向けの樹脂などが挙げられます。

機能性に特化し、ニッチな要望に応えるレゾナックの戦略

レゾナックが注目されている理由の1つが、「量より質」を重視した高付加価値・ニッチ市場への対応力です。
大量生産・汎用品ではなく、顧客企業のきめ細かな要求に応えることで、他社には真似しにくいポジションを築こうとしています。

具体的には、以下のような分野が代表例として挙げられます。

  • 先端半導体向け材料:最新世代のロジック半導体やAIチップ向けに、パッケージ材料や高純度ガスなどを供給し、TSMCから表彰を受けるなど技術力が評価されています。
  • 宇宙・エッジAI向け材料:宇宙環境での半導体材料評価や、3D集積半導体製造技術の研究に参画し、環境配慮型の次世代半導体技術を目指しています。
  • ケミカルリサイクル・環境対応材料:使用済みプラスチックのガス化ケミカルリサイクルなど、資源循環に向けた取り組みも進めています。

いずれも、一般消費者の目には見えにくい「縁の下の力持ち」のような分野ですが、半導体や電子機器の性能・信頼性・環境性能を左右する重要な役割を担っています。
このようなニッチで高度なニーズに応えるには、長年の材料技術の蓄積と、顧客の現場と密に連携する開発力が欠かせません。

脱炭素に向けたレゾナックのカーボンニュートラル戦略

もう1つの大きな柱が、脱炭素(カーボンニュートラル)への取り組みです。
化学メーカーは、エネルギー消費量やCO2排出量が大きくなりがちな産業の1つであり、その分、削減ポテンシャルも大きいと言われています。

レゾナックは、統合報告書やニュースリリースなどを通じて、次のような方向性を示しています。

  • 省エネ・高効率生産への転換:生産プロセスの見直しや設備更新を通じて、エネルギー効率を高める。
  • 再生可能エネルギーの活用:工場や事業所での再エネ導入を進める。
  • 資源循環型ビジネスへのシフト:ケミカルリサイクルや、リユース・リサイクルを前提とした材料設計に取り組む。
  • サプライチェーン全体でのCO2削減:顧客・パートナー企業と連携し、Scope3も含めた削減を進める。

こうした取り組みは、企業の環境責任という側面だけでなく、省エネによるコスト削減や、環境規制への対応力向上といったビジネス面のメリットも期待されています。

AI活用がカギに:画像解析で検査精度を約4割改善

レゾナックの脱炭素や生産性向上の取り組みの中で、特に話題になっているのがAIの活用です。
2025年12月、同社は材料検査にディープラーニングを用いた画像解析技術を導入し、検査の精度と効率を大きく高めたと発表しました。

このプロジェクトでは、子会社のレゾナック・セラミックス富山工場で製造している球状アルミナの画像解析にAIを活用しています。
従来モデルでは、異常を検出する際の誤検出率が40.8%と高かったところ、高品質な教師データをAIに学習させることで、3.2%まで大幅に低下させることに成功しました。
これは「精度を約4割改善」と表現されており、生産現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を象徴する事例として紹介されています。

誤検出が減ることで、次のステップである「OK/NG判定」の精度向上にもつながり、その結果を生産条件にフィードバックすることで、今後の生産性向上が期待されています。
これにより、ムダな再検査や不良品の発生を減らし、エネルギーや資源の使用量も抑えられるため、脱炭素にも貢献する取り組みといえます。

ニューロダイバーシティ人材とAIがつくる新しい現場

このAI画像解析の取り組みで、もう1つ特徴的なのが、ニューロダイバーシティ人材の活躍です。
レゾナック内の専門部署「ジョブ・サポートチーム」が、計算情報科学研究センターと連携し、高品質な教師データ(正解データ)の内製化を進めました。

ジョブ・サポートチームは、障がいのある社員を中心に構成された部署で、社内メール便の集配や会議室整備などから業務領域を広げ、今回のような高度なデータ作成にも携わっています。
メンバーは、自分たちの仕事が「品質向上や企業の信用に関わる重要な役割を担っている」という誇りを語っており、多様な人材の力を活かしたDXとしても高く評価されています。

AIは大量のデータを高速に処理するのが得意ですが、「どのデータが正しいか」を教える教師データの質が低いと、十分な性能を発揮できません。
そこで、細かな違いに気づく力や、コツコツとした作業をいとわない特性など、ニューロダイバーシティ人材の強みが生きていると報じられています。
AIと多様性が融合することで、検査精度が大きく向上したという点は、人材戦略と技術戦略がうまく噛み合った好例と言えるでしょう。

次世代エッジAI半導体への参画と環境配慮

レゾナックは、AIそのものだけでなく、「AIを動かす半導体」の世界でも重要な役割を担っています。
同社が参画する「環境循環型3D集積半導体製造革新と拠点形成」のプロジェクトが、JST(科学技術振興機構)の「次世代エッジAI半導体研究開発事業」に採択されました。

このプロジェクトでは、3D集積技術を駆使して、より高性能で省エネなエッジAI向け半導体を実現することが目標とされています。
「環境循環型」という言葉が示すように、性能だけでなく、製造プロセスや材料の面からも環境負荷を抑えた半導体づくりを目指している点が特徴です。

レゾナックにとっては、自社の強みである半導体材料技術を生かしつつ、脱炭素や資源循環といった社会的課題の解決にも貢献できる領域であり、機能性とサステナビリティを両立させる取り組みと言えます。

ラピダスのAI半導体向け基板で生産効率10倍:TSMCへの対抗軸

一方、半導体本体の製造を担う国内プレーヤーとして注目されているのがラピダスです。
同社は、日本初の本格的な先端ロジック半導体メーカーとして、AI向け高性能チップの国内生産を目指しています。

今回話題になっているニュースは、ラピダスがAI半導体向け基板の試作に成功し、その生産効率を従来比で10倍に高めたというものです。
基板は、半導体チップを載せて電気的に接続するための土台となる部材であり、AIチップの高性能化・高密度化が進む中で、その重要性は一段と増しています。

ラピダスは、この生産効率の大幅改善により、量産段階でのコスト競争力を高め、世界最大の半導体受託生産企業であるTSMCへの対抗を視野に入れています。
もちろん、TSMCとの規模の差はまだ非常に大きいですが、「日本でも先端AI半導体向けの基板やロジックチップを本格的に作れる体制が整いつつある」という点で、国内産業全体にとって大きな意味を持つ動きです。

レゾナックとラピダス、日本発「AI半導体エコシステム」の可能性

レゾナックとラピダスは、それぞれ立ち位置は異なりますが、AI半導体の価値を支える両輪とも言える関係にあります。

  • レゾナック:先端半導体材料、パッケージ材料、高純度ガス、環境配慮型材料の提供
  • ラピダス:AI向け先端ロジック半導体およびその基板の開発・生産

AIチップは、高度に設計された回路だけでなく、それを支える材料・パッケージ・製造プロセスが揃って初めて、高い性能と信頼性を発揮します。
レゾナックのような機能性材料メーカーがニッチな要望に応え、ラピダスのようなチップメーカーが生産効率を高めることで、日本発のAI半導体エコシステムが形になりつつあるといえます。

また、両社に共通しているのが、生産性向上と環境配慮を両立させようとしている点です。
レゾナックはAIと多様な人材を活用して品質と効率を高めつつ脱炭素に貢献し、ラピダスは高効率な生産プロセスでエネルギーや資源のムダを減らそうとしています。
こうした流れは、単なる「国内回帰」ではなく、より持続可能で競争力のある産業構造への転換として注目されています。

私たちの暮らしにどう関わるのか

レゾナックの材料やラピダスのAI半導体向け基板は、一般の消費者からは見えにくい存在です。
しかし、これらが活用されることによって、私たちの生活のさまざまな場面で変化が起きていきます。

  • スマートフォンやPCの高性能化:より高性能で省エネなAIチップが搭載され、画像処理や音声認識が一段と快適になる。
  • 自動運転・安全運転支援:車載AIが高精度・低消費電力で動作し、事故リスクの低減や快適な移動をサポート。
  • 工場やインフラの省エネ・自動化:AIによる検査や予知保全が進み、ムダなエネルギー消費や故障が減る。
  • 環境負荷の少ない製品・サービス:脱炭素を前提に設計された材料や半導体が普及し、CO2排出量削減に貢献。

こうした変化は一気に訪れるわけではありませんが、ニュースで取り上げられている企業の取り組みは、数年から十数年先の私たちの暮らしの土台をつくるものと言えます。

おわりに:ニッチな機能性が未来を形づくる

レゾナックが進める機能性重視のニッチ戦略と、AIを活用した脱炭素・DXの取り組みは、日本の材料産業が世界で存在感を発揮するための重要な鍵となっています。
そこに、ラピダスのAI半導体向け基板の生産効率10倍というニュースが加わり、国内での先端半導体生産に向けた期待は一段と高まっています。

見えにくい部分だからこそ、こうしたニュースを通じて、材料や半導体の世界で何が起きているのかを知ることは、これからの社会や産業の姿を考えるうえで大きなヒントになります。
今後も、レゾナックやラピダスをはじめとする企業の動きから、AI時代のものづくりと脱炭素の行方を追っていきたいところです。

参考元