広がる「年賀状じまい」 企業も個人もどう向き合う?
お正月の風物詩として親しまれてきた年賀状に、いま大きな転機が訪れています。企業のあいだでは「年賀状じまい」が急速に広がり、2026年の取引先向け年賀状についても、「出さない」と決めた会社がすでに半数を大きく超えています。この記事では、最新の調査結果をもとに、企業の年賀状事情と、「届いたら返事はどうする?」「縁を切らずに続ける工夫は?」といった身近な悩みまで、やさしく整理してお伝えします。
企業で進む「年賀状じまい」 半数超が「出さない」と回答
まず注目されているのが、企業の年賀状送付の縮小・廃止です。民間調査機関による調査では、企業を対象に「取引先に対して会社の費用で2026年の年賀状を出すか」を聞いたところ、
- 「出す」と答えた企業:36.0%
- 「出さない」と答えた企業:64.0%
となり、6割超の企業が年賀状を出さないことがわかりました。有効回答は6,306社にのぼり、規模や業種をまたいだ幅広い企業の声が反映されています。
このうち、「出さない」と答えた企業の内訳を見ると、
- 「昨年も出しておらず、2026年も出さない」:52.6%
- 「昨年は出したが、2026年は出さない」:11.3%
となっており、すでに以前から年賀状をやめている企業に加え、「今年からやめる」と決めた企業も一定数存在します。いわば、企業の「年賀状じまい」が加速している状況です。
大企業も中小企業も傾向は同じ 規模差はわずか
「年賀状を出すかどうか」は、会社の規模によって大きな差があるのでは?と思われがちですが、調査結果を見ると、意外にも大企業と中小企業で大きな違いはないことがわかります。
- 大企業:34.6%が「出す」
- 中小企業:36.1%が「出す」
中小企業の方がわずかに割合は高いものの、その差は1.5ポイントにとどまり、規模による傾向の違いは小さいとされています。年賀状じまいは、特定の規模の企業だけではなく、日本全体のビジネス文化に広く起きている変化といえそうです。
それでも出す業種も 印刷・広告などでは「出す」企業が半数超
一方で、すべての業種で年賀状が縮小しているわけではありません。業種別に見ると、紙を扱う頻度の多い業界や、日頃から印刷物やデザインに関わる企業では、いまなお年賀状を重視する傾向が見られます。
- 印刷・同関連業:60.3%が「2026年の年賀状を出す」
- 広告業:55.0%が「出す」
- 織物・衣服・身の回り品小売業:52.9%が「出す」
とくに印刷関連業では、年賀状が自社の製品・サービスの一部でもあることから、ビジネス上のPRや、取引先との関係維持の意味合いも含めて、積極的に年賀状を活用している様子がうかがえます。
「年賀状じまい」を後押しする背景 コスト・手間・デジタル化
では、なぜここまで年賀状じまいが広がっているのでしょうか。企業の調査や報道からは、主に次のような理由が挙げられています。
- コスト削減:印刷代、はがき代、郵送料に加え、レイアウトや宛名印刷を外部委託する場合はその費用もかかります。取引先が多い企業ほど、毎年の負担は小さくありません。
- 作業の手間:宛先リストの管理や、役職者によるコメントの確認・押印など、年末の忙しい時期にまとまった工数が必要になります。
- デジタルコミュニケーションの普及:メールやSNS、ビジネス向けチャットツールなど、年始の挨拶を伝える手段が多様化しました。調査では、こうしたデジタル手段の拡大も、年賀状を出さない背景とされています。
- そもそも「会社として年賀状を出す文化」がない企業の増加:若い企業やIT系企業などを中心に、もともと紙の年賀状をビジネス慣行としていないケースも少なくありません。
こうした要因が重なり、年賀状にかけていたコストや時間を、別のコミュニケーション施策や業務に回したいと考える企業が増えているとみられます。
「今年で最後」はまだ少数 3割超が「やめるかどうか迷い中」
一方で、「年賀状を出す」と答えた企業の中でも、その先の継続については揺れる気持ちが見えてきます。
調査では、年賀状を出す企業に対して「2026年の年賀状を最後にするか」を尋ねたところ、
- 「最後とはしない」:56.8%
- 「最後とする」:6.9%
- 「未定」:36.2%
という結果でした。まだ半数以上の企業は「これからも続ける」と考えている一方で、「やめるかどうか決めかねている」企業も3割を超えます。
つまり、年賀状文化は一気になくなるわけではないものの、中長期的にはさらに縮小していく可能性が高いといえるでしょう。実際、日本郵便が発表した2026年用年賀はがきの当初発行枚数は約7億5,000万枚と、前年より3割減少していることも報じられています。
年賀状に込める企業の思い 「関係維持」「敬意」など
興味深いのは、「年賀状を出さない」企業が増える一方で、年賀状という手段そのものには、いまもポジティブな意味づけをしている企業が多いという点です。
調査では、年賀状に込める気持ちとして、
- 取引先との関係維持
- 相手への敬意や感謝の気持ち
などが挙げられています。つまり、「年賀状をやめる=取引先を軽んじる」ということではなく、同じ思いを別の形で伝えようとしている企業が多いと考えられます。
メールでの年始挨拶、オンライン会議での新年のご挨拶、季節ごとのニュースレターや情報提供など、1年を通じてコミュニケーションの質を高める取り組みに力を入れるケースも出てきています。
個人の「年賀状じまい」も増加 届いたときのマナーは?
こうした動きは、企業だけでなく、私たち個人の年賀状にも広がっています。近年、「年賀状じまいのご挨拶」として、
- 「高齢のため、今後は年賀状でのご挨拶を失礼させていただきます」
- 「今後はSNS等で近況をお伝えさせてください」
といった文面を添えて、年賀状のやり取りを終える方も増えてきました。
ここで気になるのが、「年賀状じまいのはがきが届いたら、返事はどうするの?」という点です。一般的には、次のような対応がよく選ばれています。
- 最後に一言お礼の年賀状・寒中見舞いを出す
「今まで長いあいだ、丁寧なご挨拶をありがとうございました」「これからもどうぞお元気でお過ごしください」など、年賀状じまいへの感謝と、今後のご健康やご多幸を願う言葉を添える方法です。 - 電話やメールで感謝を伝える
親しい相手であれば、「今まで年賀状をありがとうございました。これからもよろしくお願いします」と、直接声やメールで伝えるのも温かい対応です。 - 無理に返事をしない選択肢も
高齢や体調などを理由にされている場合、「お返事は気になさらないでください」というお気遣いが込められていることもあります。その思いを汲み、あえて返事を控えるのも一つのマナーと考えられます。
大切なのは、「年賀状じまい=縁を切る」という意味ではない、という点をお互いに理解することです。やり取りの方法を見直しながらも、人と人とのつながりは大切にし続けたいという気持ちを、別の形で表していくことが求められています。
縁を切らないための工夫 年賀状以外の「つながり方」
年賀状じまいをしつつも、「これからも関係は続けたい」と思う相手には、次のような工夫も考えられます。
- 季節ごとのメッセージに切り替える
暑中見舞いや残暑見舞い、誕生日や記念日のメッセージなど、年賀状に限らない形で近況を伝え合う方法です。 - SNSやメールでの近況報告
写真付きで日々の出来事や趣味を共有することで、年に一度の年賀状よりも、むしろお互いの距離が近く感じられる場合もあります。 - 会える相手とは、直接会う機会を増やす
年に1回のはがきのやり取りから、年に1回の食事やお茶へ。形は変わっても、「会って話す」時間が、何よりも心に残るご挨拶になるかもしれません。 - 企業同士なら、情報提供や提案の機会を増やす
取引先に向けて、有益な情報や提案を定期的に届けることで、「年賀状」以上にビジネスパートナーとしての存在感を高めることもできます。
このように、年賀状じまいは「終わり」ではなく、「つながり方のアップデート」と捉えることもできます。紙からデジタルへ、年1回から通年のコミュニケーションへと、少しずつ形を変えながら、私たちのご縁は続いていきます。
これからの年賀状との付き合い方
企業調査の結果は、私たちに「自分にとって、相手にとって、ちょうどよい挨拶の形は何だろう?」と考えるきっかけを与えてくれます。
- 企業は、コストや業務負荷を踏まえつつ、「年賀状の代わりに、どんな形で感謝や敬意を伝えるか」を工夫するタイミングに来ています。
- 個人は、「無理なく続けられる方法」で、ご縁を大切にする道を探すことができます。年賀状を続けるのもよし、別の方法に切り替えるのもよし。その選択に正解・不正解はありません。
大切なのは、「相手を思いやる気持ち」そのものです。はがき1枚から始まった日本の年始のご挨拶文化は、形を変えながらも、これからもきっと受け継がれていくでしょう。



