ベトナムの対米電話機輸出が5年半ぶり低水準に 背景と今後をやさしく解説

ベトナムからアメリカ向けに輸出される電話機とその部品の輸出額が、2025年11月に約5年半ぶりの低水準まで落ち込んだことがわかりました。この記事では、このニュースの内容を、専門用語をできるだけ避けながら、わかりやすく丁寧に解説していきます。

11月の対米電話機輸出は「4億1000万ドル弱」まで減少

ロイター通信の報道によると、ベトナムの2025年11月の対米電話機・部品輸出額は、4億1000万ドル弱となりました。

これは、2020年5月以来、約5年6カ月ぶりの低水準とされています。 つまり、コロナ禍の真っただ中だった2020年5月のころと同じくらいまで、輸出額が落ち込んでいるということです。

さらに、前月比(10月との比較)での減少は4カ月連続となっており、短期的にも下り坂が続いている状況です。

なぜ輸出がそこまで落ち込んでいるのか

今回の輸出減少の背景には、いくつかの要因が重なっています。

  • 世界的な消費者需要の鈍化(スマートフォンの買い替えペースが落ちている)
  • 通商環境の先行き不透明感(関税や貿易摩擦への懸念)
  • ベトナムで大きな存在感を持つサムスン電子の生産・輸出調整

特に、ベトナムからのスマートフォン輸出の多くを担っているサムスン電子の動きが統計に大きな影響を与えているとされています。 サムスンは詳細な輸出額を公表していませんが、同社のベトナム事業に詳しい関係者によると、世界的に消費者の景気に対する自信が弱まっていることを受け、ベトナムでの生産と輸出を調整しているということです。

米国向けが減ると、なぜここまで影響が大きいのか

ベトナムにとってアメリカは、非常に重要な貿易相手国です。ベトナムの輸出全体の中で、米国向けが約3割を占めるとの報告もあり、最大級の輸出市場となっています。

また、ベトナムは米国にとっても、スマートフォンや電子機器などの主要なサプライヤーのひとつです。 そのため、両国の貿易関係は互いにとって非常に重要であり、どちらかの国の政策や景気動向が、もう一方にもすぐに影響を及ぼしやすい構造になっています。

とくに電話機・スマートフォン関連は、ベトナムの代表的な輸出品目です。ベトナムの輸出を品目別に見ると、

  • コンピュータ・電子製品・同部品
  • 電話機・同部品
  • 機械設備・同部品

といった電子機器関連が上位を占めており、電話機・部品はその中でも特に大きな割合を持っています。 この柱のひとつである「対米電話機輸出」が落ち込むと、ベトナムの輸出全体にも影響が出やすくなります。

米国の関税政策とベトナムへの影響

今回の輸出低迷のニュースとあわせて意識しておきたいのが、米国による関税政策です。

米国は、ベトナムとの貿易で自国側の赤字が拡大していることを背景に、2025年4月にベトナムに対して相互関税46%を課すと発表しています。 電話機自体は関税対象から除外されているとされますが、こうした通商環境の不透明感は、企業の投資や生産計画に影を落とします。

ロイターの報道でも、

  • 通商面の先行き不透明さ
  • 消費者需要の鈍化

が、輸出減少の主な要因として挙げられています。

2025年1月にはピーク、その後に減少局面へ

対米電話機・部品の輸出は、実は2025年1月にピークを迎えていました。 その後いったん持ち直す場面もあったものの、徐々に減少基調へと転じています。

2025年5月ごろには、当時の米政権が電話機などの電子機器を関税措置から除外したことで、一時的に輸出が回復しました。 しかし、同年8月に、米国がベトナム製品全般に20%の相互関税を課すと、電話機が直接の課税対象から外れていたにもかかわらず、スマートフォン出荷は急速に減少し始めました。

このことから、企業側が「今後電話機も含めて関税が強化されるかもしれない」と警戒したり、サプライチェーン全体を見直したりした可能性が指摘されています。

それでも1〜11月累計では「前年並み」を維持

ここまで読むと、「ベトナムの電話機輸出はかなり悪化しているのでは」と不安に感じるかもしれません。しかし、ロイターの報道によると、

2025年1〜11月の累計では、対米電話機・部品輸出は前年同期比でほぼ横ばいとなっています。

つまり、

  • 年初は非常に好調だった
  • 夏以降にかけて急速に減速した

という形で、年間を通してみると「前半の好調が後半の落ち込みをある程度カバーした」という構図になっています。

ベトナムの輸出全体にも影響、11月は総額も低水準

スマートフォン輸出の急減は、ベトナムの輸出総額にも響いています。11月のベトナムの輸出総額は、約40億ドルとされ、これは2025年4月以来の低水準だったと報じられています。

一方で、ベトナムは電話機以外の分野では堅調な部分もあります。たとえば、コンピュータ・電子製品・部品は依然として輸出のトップ品目であり、米国向けも前年から大きく伸びているとのデータがあります。

また、農林水産物や、コーヒー・カシューナッツなどの一次産品は、価格上昇を背景に輸出が拡大しているという報告もあります。 こうした分野が、電子機器分野の落ち込みを部分的に補っている状況です。

サムスン電子とベトナム経済の深い関係

ベトナムの輸出統計を語るうえで欠かせないのが、サムスン電子の存在です。サムスンはベトナムで最大級の輸出企業であり、同社の生産・輸出動向が、ベトナムのスマートフォン関連貿易統計を大きく左右すると言われています。

サムスンは公式にはベトナムからの輸出額を明らかにしておらず、今回の輸出減少についてもコメントを控えていますが、同社のベトナム事業に詳しい幹部によれば、

  • 世界的な消費者需要の弱まり
  • 景気の先行きへの不安

などを受け、ベトナムでの生産と輸出を柔軟に調整しているとのことです。

ベトナムとしては、サムスンをはじめとした大手電子機器メーカーの動向に大きく影響を受ける一方で、近年は半導体やハイテク産業の育成にも力を入れています。 将来的には、単純な組み立て拠点から、より付加価値の高い生産・設計拠点へと転換していくことで、外部環境の変化に強い経済構造を目指しているとされています。

ベトナムと米国の貿易関係はなお拡大基調

今回の「電話機輸出の落ち込み」はたしかに気になるニュースですが、長い目で見ると、ベトナムと米国の貿易関係自体は拡大を続けてきたという事実もあります。

例えば、ある調査によれば、2024年のベトナムの対米輸出額は約1200億ドルに達し、前年比23%増と大きく伸びました。 また、ベトナムと米国の貿易額は、この30年間で約300倍に増えたと紹介する報告もあります。

今回のような一時的な落ち込みはあるものの、長期的には、

  • サプライチェーンの多様化
  • ベトナムの製造拠点としての重要性
  • ハイテク分野への投資拡大

などを背景に、両国の経済関係は引き続き深まっていくと見る向きも多いと言えます。

日本や企業にとっての意味合い

日本から見ると、このニュースは少し遠い国の話のように感じられるかもしれません。しかし、実際には、

  • ベトナムは日本企業の生産拠点・調達先として重要な国
  • スマートフォンなどの部品供給の変動は、日本の電機・電子部品メーカーにも影響しうる
  • 米国の関税政策は、日本企業の対米輸出戦略にも関係してくる

といった点で、決して他人事ではありません。

また、日本貿易振興機構(JETRO)などのデータによれば、ベトナムの輸出に占める日本の割合も一定のシェアを持っており、日越間の経済関係も着実に拡大してきています。

今後、ベトナムが米国向けの輸出環境の変化にどう対応していくかは、日本企業にとっても重要な関心事となっていきそうです。

今回のニュースから読み取れるポイント

最後に、今回の「ベトナム対米電話機輸出5年半ぶり低水準」のニュースから読み取れるポイントを、あらためて整理しておきます。

  • 2025年11月の対米電話機・部品輸出額4億1000万ドル弱と、2020年5月以来の低水準
  • 前月比での減少は4カ月連続と、短期的にも下向き傾向が続いている
  • 要因として、世界的な需要減退通商環境の不透明さサムスン電子の生産・輸出調整などが指摘されている
  • 一方で、2025年1〜11月の累計では、対米電話機輸出は前年同期比で横ばいを維持
  • 電話機輸出の減少は、ベトナムの輸出総額にも影響し、11月は全体でも低水準となった
  • 長期的には、ベトナムと米国の貿易関係は拡大を続けてきたという流れもあり、構造的な関係は依然として強い

ベトナムは、これまで「世界の工場」の一角として、特に電子機器分野で大きく成長してきました。その象徴の一つである「対米電話機輸出」の動向は、今後の世界経済やサプライチェーンの変化を読み解くうえでも、引き続き注目されるテーマとなりそうです。

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