The Game Awards 2025、存在感は増す一方で「輝き低下」と「高額出展料」に揺れる年末恒例イベントの現在地
年末の風物詩となった世界最大級のゲーム表彰式典The Game Awards 2025は、これまで以上のスケールで開催される一方、その在り方を巡ってさまざまな議論を呼んでいます。
一部メディアからは「かつての輝きが薄れつつある」との指摘が出ており、さらに2025年のショーでは「1分間のトレーラー出稿に最大45万ドル(約数千万円)」もの費用がかかるとの報道も伝えられました。
ここでは、TGA2025の概要とともに、「ビッグイベント化」と「商業色の強まり」を軸に、今起きている変化をやさしく整理していきます。
The Game Awardsとは?年末を締めくくる“ゲームの祭典”
The Game Awards(TGA)は、2014年にスタートしたゲーム表彰イベントで、その年に発売された優れたゲームやクリエイター、eスポーツ選手を称える場として毎年12月に開催されています。
2025年も例年通り、アメリカ・ロサンゼルスのピーコックシアターを会場に実施され、日本時間では12月12日午前9時30分から配信が行われました。
イベントの特徴は、単なる授賞式ではなく、
- 年内の優秀作品を表彰する全29部門のアワード
- 未発表作や注目タイトルの新作トレーラー初公開
- ゲーム音楽のオーケストラ演奏などライブパフォーマンス
- 開発者や俳優、ストリーマーなど多彩なゲスト出演
といったショー要素を組み合わせた、エンターテインメント性の高い構成にあります。
主催・ホストは、創設時から変わらずゲームジャーナリストのジェフ・キーリー氏が務めており、彼の人脈と演出センスがイベントのカラーを形づくってきました。
視聴者数は年々増加、「これまでで最大規模」のイベントに
TGAはここ数年、視聴規模の面で右肩上がりを続けています。
前回(2024年)の視聴数は約1億5400万回と過去最大を記録しており、世界的な知名度と影響力は年々高まっています。
2025年も各種プラットフォームでの同時配信が行われ、日本ではニコニコ生放送やゲームメディア公式チャンネルが日本語同時通訳付きの生中継を実施しました。
その結果、TGA2025は
- グローバルな視聴者にとっては「今年のゲームシーンを一気に振り返る場」
- メーカーにとっては「世界最大級のプロモーションの舞台」
- メディアにとっては「新作ニュースを一気に発信できるハブ」
として、存在感をさらに強めています。
「The Game Awards Is Bigger Than Ever(これまで以上に巨大化している)」と海外メディアが評した背景には、この圧倒的な視聴規模と、ゲーム業界に与える情報発信力の大きさがあります。
2025年の主な見どころ:GOTY候補と日本発タイトル
2025年のTGAでは、もっとも栄誉あるGame of the Year(GOTY)部門に、以下の6作品がノミネートされました。
- Clair Obscur:Expedition 33
- DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH(小島プロダクション)
- ドンキーコング バナンザ(任天堂)
- Hades II
- Hollow Knight:Silksong
- Kingdom Come:Deliverance II
特に、日本発タイトルである『DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH』と『ドンキーコング バナンザ』がGOTYにノミネートされたことは、日本のゲームファンにとって大きな話題となりました。
さらに、パフォーマンス部門やeスポーツ部門では、
- 『SILENT HILL f』の主人公・深水雛子を演じた加藤小夏さんがBest Performanceにノミネート
- プロゲーミングチームZETA DIVISION所属で、引退を表明した翔(kakeru)選手がBest Esports Athleteにノミネート
- VTuber事務所ホロライブプロダクションからさくらみこさんがContent Creator of the Yearに選出
といった具合に、日本ゆかりのクリエイターやプレイヤーの活躍も目立ちました。
こうしたラインナップは、「世界最大級」と呼ばれるTGAが、単に海外作品の祭りではなく、日本のコンテンツも大きく取り上げる舞台になっていることを示しています。
「The Game Awards Is Bigger Than Ever But Doesn’t Come Cheap」――巨大化の裏で膨らむコスト
一方で、TGAのビッグイベント化には相応のコストがかかっていることも報じられています。
海外メディアは、「The Game Awards Is Bigger Than Ever But Doesn’t Come Cheap(これまで以上に巨大になったが、その分安くはない)」と題した記事の中で、ステージ演出、会場費、配信インフラ、オーケストラやゲスト出演料など、ショーを支える諸経費の増大に触れています。
特に注目を集めたのが、2025年のショーに関して伝えられた出展コストに関するレポートです。
それによると、
- The Game Awards 2025で1分間のトレーラーを流すためには、最大で45万ドル程度の出稿料が必要になる
と報じられ、ゲームコミュニティに驚きと議論を呼びました。
大手パブリッシャーであれば予算を捻出できる額かもしれませんが、中小規模のスタジオにとっては非常に大きな負担となり得ます。
この高額な出稿料は、
- TGAが「世界最大規模の広告枠」として機能していること
- その広告収入が、ショー全体の制作費を支える重要な柱になっていること
の裏返しでもあります。
視聴者にとっては、数多くのトレーラーや新発表が楽しめる一方で、その裏側には「非常に高価なプロモーションの場」という現実があるわけです。
「The Game Awards are losing their luster」――輝きが失われつつある、という声
TGA2025については、一部の海外メディアやファンから「The Game Awards are losing their luster(TGAは輝きを失いつつある)」という厳しい評価も出ています。
その背景としては、主に次のような点が指摘されています。
- 授賞式よりも広告やトレーラー上映が前面に出ているとの印象
- 受賞スピーチの時間が短く、クリエイターの言葉が十分に伝わらないという不満
- ゲーム業界の問題提起(労働環境、大規模レイオフなど)が、ショー全体の構成に十分反映されていないという批判
かつては、授賞の瞬間やクリエイターのスピーチに胸を打たれる視聴者が多く、「ゲーム文化を祝う特別な夜」としての色合いが強かったTGA。
しかし最近は、豪華なトレーラー群とスポンサーシップが前に出ることで、「表彰式というより、巨大なCM番組のようだ」と感じる視聴者も増えています。
もちろん、世界的なイベントとして継続・拡大していくためには収益化が欠かせず、「広告と表彰」のバランスは常に難しいテーマです。
とはいえ、「ゲームの1年を称える」という原点が薄れてしまうのではないか、という懸念は、TGAが人気とともに抱える大きな課題といえるでしょう。
高額トレーラー枠が意味するもの――インディーや中小スタジオへの影響
「1分最大45万ドル」というレベルの出稿料が事実だとすれば、その広告枠を利用できるのは主に大手パブリッシャーに限られてしまいます。
実際、TGAで大きな時間を割いて紹介されるのは、何百人規模の開発チームと巨額予算を投じたAAAタイトルが中心です。
一方で、TGAの存在意義のひとつは、インディーゲームや新興スタジオにもスポットライトを当てることにあります。
2025年も、インディー部門やモバイル部門、VR/AR部門など、多様なカテゴリにわたって表彰が行われ、小規模ながら高い評価を受ける作品たちが紹介されました。
しかし、
- ショーの中心に据えられるのはやはり大作タイトルのトレーラー
- インディー作品は表彰や短い紹介にとどまりがち
という構造は変わっておらず、「広告枠の高額化」が進めば進むほど、その傾向は強まる可能性があります。
「TGAに出られるインディー」と「出られないインディー」の差も、今後さらに広がっていくかもしれません。
日本の視聴者にとってのTGA2025――お祭りとしての楽しみと、冷静な見方
日本では、ニコニコ生放送や国内ゲームメディアによる同時通訳付き配信のおかげで、TGAは平日朝からの“ゲーム祭り”としてすっかり定着しました。
チャットで盛り上がりながら、
- GOTYなど受賞結果を見守る
- サプライズ発表や新作トレーラーに歓声を上げる
- 日本からノミネートされたタイトルやクリエイターを応援する
といった楽しみ方をする人も多いでしょう。
一方で、今回のような
- 「The Game Awardsは巨大化したが、その分コストも膨らんでいる」
- 「トレーラー枠は最大45万ドルというレベルに達している」
- 「ショーとしての輝きがやや失われつつある」とする評価
といったニュースに触れると、TGAを「一大ビジネスイベントとして見る視点」も必要になってきます。
つまり、
- 視聴者にとっては「楽しいお祭り」であると同時に
- メーカーにとっては「莫大なコストをかけてでも押さえたい巨大広告枠」
- 主催側にとっては「収益と文化的意義のバランスをとる難しい場」
という、多面的な性格を持ったイベントだということです。
今後の焦点:商業性と“ゲーム文化の祝祭”の両立は可能か
TGA2025をめぐる議論を踏まえると、今後の焦点は次のような点にありそうです。
- 授賞式としての価値をどう高めるか(クリエイターのスピーチや作品紹介の厚み)
- 広告枠の高額化と偏りの中で、インディー作品に十分なスポットを当てられるか
- レイオフ問題や業界の構造的課題など、ゲーム業界が抱える現実をどうショー内で扱うか
- 「世界最大級のゲームショー」という期待と責任をどう果たしていくか
視聴者としては、華やかなトレーラーや発表を楽しみつつ、その裏にあるビジネス的な側面も意識しておくと、TGAをより立体的に理解できるはずです。
The Game Awards 2025は、規模も影響力もこれまでで最大級に達した一方で、その「輝き」と「あり方」をめぐって問われることの多い回となりました。
今後、主催側とコミュニティがどのように対話し、イベントの方向性を磨いていくのかに注目が集まります。



