エントリークラスが主役に躍り出た日本のカメラ市場――3年前のキヤノン機がいまだトップの理由
日本のカメラ市場では、いまエントリークラスのカメラが大きな存在感を示しています。その中心にいるのがキヤノンの低価格ミラーレスやコンパクトデジタルカメラであり、発売から3年ほど経ったモデルが、なお「日本で一番売れているカメラ」として君臨している状況です。一方で、ソニーはVlog向けのZVシリーズを相次いで投入し、販売台数を下支えしていますが、それでもキヤノンのベストセラーモデルの牙城を崩すまでには至っていません。
本記事では、エントリーカメラがなぜ日本の消費者に支持されているのか、なぜ「3年前のキヤノン機」がトップを維持しているのか、そしてソニーZVシリーズがどのように市場を支えているのかを、わかりやすく丁寧に解説していきます。
日本で「エントリーカメラ」が強い背景
まず押さえておきたいのは、日本のカメラ市場ではハイエンド機よりもエントリークラスのモデルが台数ベースで圧倒的に多いという点です。スマホのカメラ性能が向上しているとはいえ、
「もう少しキレイな写真や動画を残したい」
「旅行・家族イベントをしっかり撮りたい」
といったニーズは根強くあります。ただし、いきなり高価なフルサイズ機に手を出すのはハードルが高く、価格とサイズのバランスに優れたエントリー機が選ばれやすいのです。
キヤノンの決算説明資料でも、ミラーレスやコンパクトデジタルカメラといった比較的手軽な価格帯の製品が好調で、カメラ事業全体の売上高を押し上げていることが示されています。特に、EOS R50シリーズや、増産対応を行ったコンパクトカメラが「手軽な撮影ニーズ」をとらえ、ユニット全体として増収に貢献していると説明されています。
こうした背景から、店頭の売れ筋ランキングでも「初めての一眼カメラ」「はじめてのミラーレス」をうたうモデルが常に上位に入りやすく、結果としてエントリークラスが市場の“主役”となっているのです。
3年前のキヤノン機がなお日本で一番売れている理由
今回話題になっているのが、発売から3年ほど経過したキヤノンのエントリーモデルが、なお日本で最も売れているカメラであるという点です。具体的な機種名は販売ランキングや量販店のデータに依存しますが、実際の決算説明の中でキヤノンは、
「EOS R50」「EOS R100」などのエントリー機が中国・アジアを中心に好調であること、
そしてコンパクトカメラも需要増に応じて増産し売上拡大に寄与している
と説明しています。
日本国内でも同様に、価格と性能のバランスに優れたエントリーモデルは、長期間にわたって安定して売れ続けやすい傾向があります。その理由は大きく3つあります。
- 価格のこなれ:発売から時間が経つと、実売価格が下がり始めます。「最新ではないが、十分高画質で安い」モデルは、入門ユーザーにとって非常に魅力的です。
- 口コミと安心感:長く売られているモデルほど、レビュー記事や動画、ユーザーの作例が豊富に蓄積されます。「失敗しにくい定番」として選ばれやすくなります。
- 店頭展示・セット商品:量販店では、売れ筋の定番機がレンズキットやアクセサリーとセットにされ、わかりやすい「おすすめコーナー」に並びます。結果として、初心者の第一候補になりやすくなります。
こうした要因が重なり、3年前のキヤノン機が今でも販売台数1位クラスを維持する状況につながっていると考えられます。キヤノン自身も、エントリークラスやコンパクト機の販売好調により、カメラ事業の売上高は前年同期比プラスを維持していると説明しています。
キヤノンの決算から見えるエントリー機の重要性
キヤノンの2025年第3四半期のイメージング事業を見ると、カメラ売上高は1,527億円、カメラ台数は73万台と堅調で、前年同期比でも増収となっています。特に注目されているのが以下の点です。
- EOS R50 / R100 がエントリー層をしっかり掴んでいる
- コンパクトデジタルカメラの増産により、手軽な撮影ニーズへの対応を強化
- イメージング全体の売上高は前年同期比5.9%増と着実に伸びている
一方で、関税コストの増加や製品構成(プロダクトミックス)の影響で、営業利益は伸び悩んでいます。しかし、「台数」を支える存在として、エントリークラスやコンパクト機が非常に重要な役割を果たしていることは間違いありません。
また、日本の販売会社であるキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の決算でも、高価格帯のフルサイズ機に加え、ネットワークカメラなどが好調である一方、エントリークラスの一部では販売終了機種の影響も出ているとされています。そのため、今後も「入門者向けにどのモデルを主力として押し出していくか」がカメラ事業全体のカギを握ると考えられます。
ソニーZVシリーズが日本のカメラ販売を「下支え」
一方、ソニーはVlog向けカメラ「ZVシリーズ」で大きな存在感を示しています。「ZV-E10」「ZV-1」「ZV-E10 II」など、動画撮影に特化した手軽なモデルは、YouTubeやSNS向けのコンテンツ制作ニーズの高まりとともに人気を集めてきました。
最新の販売データでは、2025年11月時点でソニーのZVシリーズが日本の販売台数を大きく押し上げていると報じられており、「November data: Sony ZV line saves the sales in Japan!」という見出しが象徴するように、
ZVシリーズがなければソニーの販売シェアはもっと厳しかったと解釈できる状況です。
しかし、それでもなお、「3年前のキヤノンのエントリーモデルが日本で最も売れているカメラであり続けている」ことが今回のニュースのポイントです。つまり、
- 動画・Vlogニーズを中心にZVシリーズが健闘し、ソニー全体の販売を支えている
- それでも「総合的な売れ筋ランキング」のトップは、依然としてキヤノンの定番エントリー機である
という二層構造になっていると考えられます。
なぜソニーZVシリーズは「王座を奪えない」のか
ソニーのZVシリーズは決して売れていないわけではなく、むしろ動画向けエントリー機としては非常に人気があります。それでも「日本で一番売れているカメラ」の座をキヤノンの3年前モデルから奪えない理由として、次のような点が考えられます。
- 写真メインユーザーの厚さ:日本では依然として「写真撮影」が主目的のユーザーが多く、従来型の静止画重視カメラに強いキヤノンが有利な土壌があります。
- レンズ資産とブランドイメージ:EOSシリーズから続く歴史とレンズ資産、学校・イベントなどでの採用実績により、「カメラ=キヤノン」というイメージは根強く残っています。
- 販売チャネルと店頭訴求:量販店やカメラ専門店では、初心者向けのコーナーにキヤノンのエントリーモデルが大きく展開されているケースが多く、家族層・シニア層にも届きやすい状況です。
- 動画特化 vs バランス型:ZVシリーズはVlogに非常に強い反面、「写真も動画もバランスよく撮りたい」というユーザーには、よりオールラウンドなキヤノン機が選ばれるケースもあります。
こうした要素が重なり、ZVシリーズが11月の販売データでソニーの売上を支えながらも、「日本一売れているカメラ」の座は、いまだ3年前のキヤノンのエントリー機にある、という構図になっているわけです。
今後の日本カメラ市場はどう動くのか
足元のデータを見る限り、レンズ交換式カメラ市場は動画ニーズや若年層の需要を背景に堅調であるとキヤノンは見通しています。また、ネットワークカメラなど新しい映像分野も成長しており、カメラメーカー各社は「写真・動画の趣味撮影」と「業務用・監視用」といった複数の軸で事業を展開している状態です。
その中で、日本のコンシューマ市場に限って言えば、しばらくは次のようなトレンドが続くと考えられます。
- エントリークラスが市場全体の台数を支える(価格を抑えたミラーレス・コンパクト機が中心)
- 動画・Vlog向けモデルが若年層・クリエイター層で拡大(ソニーZVシリーズなど)
- 高付加価値なハイエンド機で利益を確保(フルサイズ・プロ向けライン)
キヤノンにとって、すでに実績のあるエントリー機のロングセラーをどう維持・刷新していくかが重要であり、ソニーにとってはZVシリーズの成功をどこまで横展開し、市場全体のシェア拡大につなげられるかが焦点になります。
とはいえ、今回のニュースが示しているのは、とてもシンプルな事実です。すなわち、
- 日本の一般ユーザーの多くは、依然として「入門用に買いやすい1台」を求めている
- そのニーズを最も広く、長くとらえているのが、3年前に登場したキヤノンのエントリーカメラである
ということです。最新スペックだけがすべてではなく、「価格」「安心感」「使いやすさ」といった要素が、いかに重要かを物語るエピソードと言えるでしょう。
今後、各社がどのようなエントリー機・Vlog機を投入し、この「ロングセラーの牙城」に挑むのか。日本のカメラ市場の動向から、まだまだ目が離せません。



