中国レーダー照射問題で揺れる日本外交 外務大臣と政権の対中対応が焦点に
中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射問題などをめぐり、日本の外交・安全保障政策にあらためて注目が集まっています。小泉防衛相によるNATOへの説明や、米国務省のコメントを通じて日米同盟の強固さが示される一方、国内のメディアや識者からは、日本のリーダーの対中発言や対応のあり方について、厳しい視線が向けられています。
こうした中で、外交の司令塔である外務大臣と日本政府が、どのように中国と向き合い、どのように国際社会に日本の立場を発信していくのかが、大きなテーマとなっています。
玉川徹氏、「中国を猛獣に例える」発言で高市首相の対中姿勢を批判
テレビ朝日系情報番組でコメンテーターを務めるジャーナリストの玉川徹氏は、日中関係をめぐる最近の緊張について、たびたびコメントしてきました。2025年11月以降、中国の外交官による過激な投稿や、日本側の発言をめぐる対立が続いており、その流れの中で、玉川氏は高市早苗首相の発言に厳しい目を向けています。
高市首相は、国会の場で「台湾有事は存立危機事態になり得る」と発言し、集団的自衛権の行使につながりうるとの受け止めから、中国側が強く反発しました。 その後、中国の薛剣・駐大阪総領事がSNS上で「汚い首を斬ってやるしかない」などと、極めて挑発的な表現で日本側を批判し、炎上騒動へと発展しました。
この一連の経緯について、玉川氏は番組内で、中国の一部の強硬な発信や、日本国内の対中強硬論を取り上げながら、「中国を猛獣に例え」、不用意に刺激することの危うさを指摘しました。 玉川氏の趣旨は、
- 中国は日本にとって最大級の貿易相手国の一つであり、経済的にも安全保障上も相互依存関係にあること
- そうした相手国に対して、感情的・挑発的な言葉や、必要以上に緊張を高める発言を繰り返すことは、「いたずらに猛獣を刺激する」行為に近いという比喩
- 結果として、日本側にとっても何の得にもならず、むしろ日本企業や観光業など、民間に大きな打撃が及ぶ危険があること
といった点にあります。「いたずらに刺激して何も得はない」という言葉には、相手国への批判よりもむしろ、日本側の政治リーダーに対し、冷静さと戦略性を求めるニュアンスが込められていると言えます。
玉川氏は、過去の番組でも、中国との関係悪化が日本経済に与える影響に触れ、「影響が大きいかと言えば、貿易全体の中で中国向けは2割程度だが、それでも特定産業への打撃は無視できない」とする趣旨の発言を行っています。 一方で、主権や安全保障の課題を軽視するわけではなく、「どう外交的な落としどころを探るか」が重要だとする専門家の見方も紹介していました。
小泉防衛相、NATO事務総長に説明 「国際社会に日本の立場を発信」と官房長官
こうしたメディアでの議論と並行して、政府は中国軍によるレーダー照射問題に関して、国際社会への説明を強化しています。その中心の一つとなっているのが、防衛相や外務大臣を通じた同盟・友好国への働きかけです。
小泉防衛相は、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長らと会談し、中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射など、東シナ海周辺で起きている具体的な事案について説明しました。政府関係者によれば、
- 中国軍機によるレーダー照射は、偶発的な衝突や誤認によるエスカレーションを招きかねない、極めて危険な行為であること
- 日本は一貫して冷静に対応しつつも、こうした行為には強く抗議していること
- インド太平洋地域の安全保障は、NATO諸国を含む国際社会全体の関心事となっていること
といった点が共有されたとされています。
記者会見で官房長官は、「国際社会に日本の立場を発信していくことが重要だ」と述べ、小泉防衛相によるNATOへの説明は、その一環だと強調しました。今回のような説明活動は、本来であれば外務大臣を中心に、各国政府との間で丁寧に積み上げていくべき外交プロセスでもありますが、安全保障分野の案件では、防衛相が前面に出る形も増えています。
官房長官の発言が示しているのは、
- 日本としては、中国との二国間協議だけでなく、米国やNATO諸国、オーストラリア、韓国などを含む「多国間連携」の中で、中国の行動に対する懸念を共有したい
- その際、日本側の主張が国際的な支持を得られるよう、法的根拠や事実関係を明確に説明していく必要がある
という方針です。
米国務省のコメント「強固な日米同盟を示すもの」
さらに、今回の中国軍によるレーダー照射問題をめぐっては、アメリカからも明確なメッセージが発信されています。米国務省は、日本政府の抗議や説明に対し、日米同盟への揺るぎないコミットメントを再確認するコメントを出し、日本側の立場への支持を示しました。
官房長官は、この米国務省のコメントについて、「日米同盟がいかに強固であるかを示すものであり、日本の安全保障にとって大きな意味を持つ」と述べています。日米同盟は、単に軍事的な協力関係にとどまらず、
- インド太平洋地域における「自由で開かれた国際秩序」の維持
- 航行の自由や領空の安全確保
- 力による一方的な現状変更への反対
といった共通の価値と原則を支える基盤と位置づけられています。
米国務省のコメントが示したのは、日本が中国の行動に懸念を示す際、日米同盟という強力な後ろ盾があるという点です。これは中国側に対しても、「日本への圧力は、日米関係を通じて国際的な議論の対象になる」というメッセージになりうる一方で、日本政府にとっては、「日米連携を維持しつつ、いかに対中関係の悪化を抑えるか」が課題として重くのしかかってきます。
外務大臣の役割:強いメッセージと冷静な対話の両立
こうした状況の中で、改めて問われているのが外務大臣の役割です。外務大臣は、日本外交の顔として、
- 中国を含む近隣諸国との二国間・多国間会談を通じ、緊張緩和と信頼醸成を図る
- 一方で、国際法違反や危険な軍事行動に対しては、毅然とした立場を示す
- 米国やNATOなど同盟・パートナー国と連携し、日本の主張をグローバルな場で共有する
といった、非常に難しいバランスを取ることが求められています。
玉川徹氏が「中国を猛獣に例え」つつ、「いたずらに刺激して何も得はない」と指摘した背景には、外務大臣をはじめとする日本側のリーダーに、「感情的な応酬ではなく、長期的な国益を見据えた戦略的な外交」を求める視点が含まれています。
たとえば、
- 中国側が過激な言葉や行動に出た場合でも、ただ強い言葉で応じるのではなく、国際法や事実に基づき淡々と抗議し、第三国にも理解を求める
- 日本国内向けには毅然とした姿勢を示しつつも、相手国のメンツや国内事情も勘案し、「落としどころ」を模索する
- 経済・文化・人的交流など、対立以外の分野での協力の糸口を維持し、最悪の事態を避ける「安全弁」として活かす
といったアプローチが考えられます。
特に重要なのは、外務大臣が中心となって、国内世論に対しても丁寧な説明を行うことです。中国の行動に対する懸念や不信は、当然ながら多くの国民が共有しています。一方で、「強い言葉」だけが安心につながるわけではなく、実際にリスクを減らし、日本の安全と繁栄を守るためには、地道な外交交渉や国際的な連携が欠かせません。
メディアと外交の距離感:強硬論と冷静論のあいだで
今回の問題を通じて浮き彫りになったのは、メディアや言論空間における「対中強硬論」と「冷静な対話重視」のあいだの揺れです。玉川徹氏のように、「無用な刺激は避けるべき」と語る声がある一方で、
- 中国の軍事行動や発言は度を越しており、日本も相応に強い姿勢で臨むべきだ
- 中国の圧力に屈したと見られれば、かえって安全保障上のリスクが高まる
といった意見も根強く存在します。
政府、とりわけ外務大臣や官房長官には、こうした国内世論の温度差を踏まえつつ、
- 感情的な議論に流されない冷静な情報発信
- 国際情勢や安全保障環境の変化を踏まえた現実的な選択肢の提示
- 外交の成果や課題を、分かりやすい言葉で国民に説明する姿勢
が求められています。
一方で、メディア側にも、
- 刺激的な表現や対立をあおるだけでなく、長期的な視点で外交や安全保障を伝える工夫
- 専門家の知見や多様な立場の声を紹介し、視聴者が自分なりに考えられる材料を提供する役割
が期待されています。玉川氏が、過激な投稿を行った中国総領事と、皮肉を交えつつも冷静に批判した米大使の「言葉選びの差」に注目したのも、対立が先鋭化しやすいテーマこそ、表現や発信の仕方が重要だという問題意識の現れと言えるでしょう。
これからの対中外交と外務大臣への期待
中国軍によるレーダー照射問題や、相次ぐ強い言葉の応酬は、日中関係の難しさをあらためて浮き彫りにしました。同時に、
- 小泉防衛相がNATOに説明し、官房長官が「国際社会に日本の立場を発信していく」と語ったこと
- 米国務省が「強固な日米同盟」を再確認するコメントを出したこと
は、日本が同盟国・パートナー国と連携しながら、地域の安定を守ろうとしている姿勢を示すものでもあります。
この中で、外務大臣に求められるのは、
- 中国に対しては、譲れない一線を明確にしつつ、対話の扉を閉ざさない柔軟さ
- 日米同盟を核とした多国間連携の中で、日本の主張を的確に伝える外交力
- 国内の不安や不信に寄り添いながら、感情論に流されない説明責任
といった、非常に総合的な能力です。
玉川徹氏の「猛獣」発言はショッキングな比喩でしたが、そこに込められた「無用な刺激は避けつつ、賢く立ち回るべきだ」という指摘は、多くの国民にとっても共感しうる部分があるのではないでしょうか。 中国との関係は一筋縄ではいきませんが、だからこそ、外務大臣をはじめとする日本のリーダーには、強さと冷静さを兼ね備えた外交が、これまで以上に求められています。


