「残クレ」でマイホーム?住宅ローンと車の残価設定ローンをやさしく読み解く

最近、「残クレでマイホーム」というニュースが大きな話題になっています。車の購入でよく使われる「残価設定ローン(残クレ)」の仕組みを、いよいよ住宅ローンにも広げていこうという動きが出てきたからです。

この記事では、

  • 住宅版「残クレ」とは何か
  • 国が始める「銀行向け保険」の意味
  • 車の残クレ(特にアルファードの例)とどこが似ていて、どこが違うのか
  • メリットと注意点、そして家計への影響

を、できるだけ専門用語を避けながら、ゆっくり解説していきます。

住宅版「残クレ」ってどんな住宅ローン?

まずは、ニュースで話題になっている「住宅版 残クレ(残価設定型住宅ローン)」のイメージをつかんでおきましょう。

住宅版「残クレ」は、ざっくり言うと次のような仕組みです。

  • あらかじめ「将来このくらいの値段で家を売れるだろう」という残価(ざんか)を決める
  • 「家の価格 − 残価」の部分だけを、先にコツコツ返していく
  • その結果、毎月の返済額を抑えやすくなる
  • 最後に残った「残価部分」は、売却や別ローンへの借り換えなどで精算する

つまり、「家を一生持ち続ける」というよりは、将来どこかのタイミングで売却する前提で組むローン、という考え方に近い仕組みです。

なぜこんな仕組みが必要になってきたかというと、背景には住宅価格の高騰があります。以前ならマイホームを普通に買えていたような世帯年収でも、今の価格水準ではローン返済が厳しくなってきており、「月々の返済額をどうやって抑えるか」が大きな課題になっているのです。

国が用意する「銀行向け保険」とは?

今回のニュースのポイントは、「住宅版残クレを普及させるために、国土交通省が金融機関向けの保険を創設する」と報じられた点です。

イメージにすると、次のような関係になります。

  • 銀行は、将来の「残価」を前提にした住宅ローンを貸す
  • しかし、将来本当にその価格で売れるかはわからず、銀行にはリスクがある
  • そこで、住宅金融支援機構などを通じて、国が保険を用意し、一定の損失をカバーする
  • そのおかげで、銀行が安心して「残価設定型住宅ローン」を提供しやすくなる

また、住宅の資産価値(残価)そのものを保証する制度として、「残価保証制度」を運営している団体(JTI:移住・住みかえ支援機構)もあります。 この制度では、一定の条件を満たす長期優良住宅について、将来の残価をJTIが保証し、そのおかげで金融機関が新しいタイプの住宅ローンを提供しやすくなる仕組みになっています。

このように、「残価」をめぐる保険・保証のネットワークを整えることで、「住宅版残クレ」を本格的に広げていこうとしている、というのが現在の流れです。

「残価設定型住宅ローン」の具体的な仕組み

より具体的なイメージをつかむために、JTIが紹介している残価設定型住宅ローンの仕組みも見てみましょう。

  • 住宅購入時に、一定の残価を設定する
  • その残価に向けて、元本残高を「残価設定月」まで返済していく
  • 残価設定月以降は、次のようなオプションを利用できる

代表的なオプションは次の2つです。

  • 返済額軽減オプション:残高が保証された残価まで減ったあと、「新型リバースモーゲージ」に転換し、それ以上は元本を返さないことで、月々の返済額を大きく減らせる
  • 買取オプション:新型リバースモーゲージに転換後、家を売却する際には「ローン残高で家を買い取ってもらえる」ため、オーバーローン(売っても借金が残る状態)を避けやすい

ここでポイントになるのは、この仕組みが老後の収入減やライフスタイルの変化に備えるための選択肢として設計されていることです。 一定の条件を満たした住宅(認定長期優良住宅など)に限定される代わりに、将来の資産価値をある程度制度として保証することで、利用者に安心を与えようとしています。

車の「残クレ」と住宅ローンの関係

もともと「残クレ」という言葉でなじみがあるのは、自動車ローンの世界です。特にミニバンの人気車種であるトヨタ・アルファードでは、「3年後の残価率70%」といった、かなり高い残価率が設定されたローンが話題になってきました。

車の残価設定ローンでは、次のようなケースがよく見られます。

  • 3年後や5年後などの残価を高めに設定する
  • その分、毎月の支払いが抑えられるため、「手が届きやすく」感じる
  • 人気車種だと中古車市場での価格が高く、「残価率70%」といった、いわば「バグ」のような条件が成立することもある

しかし、その裏側では、「アルファード地獄」と呼ばれるような現象も指摘されています。残価を高く設定した代わりに、乗り換えを繰り返さないと出口を見失いやすい支払い構造になってしまう、という問題です。

つまり、車の残クレでは、

  • 月々の支払額は抑えられる
  • その代わり、「乗り換え前提」や「走行距離・傷・事故歴などの制限」がつく
  • 最後まで乗り続けようとすると、思ったより大きな負担が残ることもある

といった落とし穴があるわけです。

今回の住宅版「残クレ」は、この車の残価設定ローンに発想を得ながら、家の資産価値を軸にした仕組みとして設計されています。 そのため、「アルファード地獄」のような事例をきちんと教訓にしながら、より慎重に考える必要があります。

残価設定ローンと「アルファード地獄」の落とし穴

車の世界で問題になった「アルファード地獄」は、残価設定ローンの構造を理解するうえで、とてもわかりやすい例です。

たとえば、

  • 3年後の残価率が70%と設定される
  • 一見すると、「こんなに高く買い取ってもらえるならお得だ」と感じる
  • しかし、実際の中古車相場や、走行距離・事故歴・キズなどの状態によっては、その残価通りにはいかないケースも出てくる

さらに、ローンの総支払額という観点では、

  • 残価として「後回し」にしている部分にも金利がかかる場合がある
  • 結果として、通常のオートローンよりトータルの支払額が多くなることが珍しくない

という指摘もあります。

中古車の市場価値が上がっているときには、一時的に「高い残価率」が成立しやすく、それが販売の追い風になります。しかし、市場が変われば残価率の前提も崩れ、思ったほど高く売れない・買い替えが難しくなるといった状況に陥る人も出てきます。

住宅ローンに「残クレ」を持ち込むと何が起きるか

では、この「残価設定」という考え方を住宅ローンに持ち込んだとき、どのようなメリットとリスクがあるのでしょうか。

メリット:月々の返済負担を抑えやすい

最大のメリットは、毎月の返済額を抑えられる可能性があるという点です。

  • 家の価格全体を返済するのではなく、「価格 − 残価」だけを先に返す
  • そのため、同じ家を購入する場合でも、通常の元利均等返済より月々の返済額を低く抑えられる
  • また、JTIの仕組みのように、一定時点から返済額を大きく圧縮するオプションも用意されるケースがある

これにより、「いまの収入では普通の住宅ローンだと厳しい」という世帯でも、マイホームを持つハードルが少し下がる可能性があります。

リスク1:総返済額が増える可能性

一方で、住宅会社の立場からは、「基本的にはおすすめしない」という慎重な意見も出ています。

その理由として、次のような点が挙げられます。

  • 残価として後回しにした部分にも、金利がかかる場合がある
  • 結果的に、通常の住宅ローンよりも総返済額が増えてしまう可能性が高い
  • 月々の返済が楽になったように見えて、トータルでは損をしていることに気づきにくい

この構造は、車の残価設定ローンで起きている問題とよく似ています。 「月々◯万円でアルファードに乗れる」といった宣伝に惹かれて契約した結果、総支払額をきちんと比較すると、思った以上に高くついていた、というケースです。

リスク2:資産価値とメンテナンスのプレッシャー

もう一つの重要なポイントは、資産価値(残価)を前提にしたローンであるということです。

  • 残価が高く設定されているほど、毎月の返済は楽になる
  • しかし、実際の住宅の劣化や周辺環境の変化で、市場での価値が下がることもありうる
  • その場合、売却してもローン残高を返しきれない「オーバーローン」になるリスクがある

JTIの「残価保証制度」のように、一定の条件を満たした住宅だけに残価保証をつける仕組みもあります。 ここでは、

  • 認定長期優良住宅であること
  • 長期メンテナンスプログラムを実施していること
  • JTIが認めたハウスメーカー・工務店による建築であること

などが条件として定められています。

これは、「きちんと長期的に維持管理された家でなければ、残価を保証できない」という考え方に基づいています。 つまり、残価設定型住宅ローンを利用する場合、日々のメンテナンスや修繕への意識がより求められるとも言えます。

リスク3:ライフプランとのミスマッチ

残価設定型住宅ローンは、「将来の売却」や「リバースモーゲージへの転換」などを前提にした商品です。

  • 一生同じ家に住み続けたい
  • 子どもに家をそのまま相続させたい

といった希望を持っている方にとっては、仕組みそのものがライフプランと合わない可能性があります。

さらに、団体信用生命保険(いわゆる「団信」)についても、仕組みによっては原則として付けられないケースがあり、金融機関ごとの運用も分かれています。 こうした細かな点も含めて、「自分たち家族の将来のイメージと、本当に噛み合っているか」をじっくり検討する必要があります。

「残クレ」ブームをどう受け止めればよいか

SNSなどでは、「残クレでマイホーム」というキャッチーな言葉だけが先行して、さまざまな意見や不安の声が飛び交っています。 車の残クレでの成功体験・失敗談が広く共有されていることもあり、「家で同じことをして本当に大丈夫なのか?」という感覚を持つ人も多いようです。

ここで大切なのは、

  • 「月々の返済額」だけに注目しない
  • 「総支払額」と「出口(売却・相続・住み替え)」をセットで考える
  • 自分たちのライフプランに合っているかを丁寧に確認する

という視点です。

残価設定型住宅ローンは、うまく使えば、老後の収入減に備えつつマイホームを持つための一つの選択肢になりえます。 一方で、車の残クレと同じように、「なんとなくお得そう」「今の支払いが楽だから」という理由だけで選ぶと、後から「思っていたのと違う」ということになりかねません。

利用を検討するときのチェックポイント

最後に、もし住宅版「残クレ」や残価設定型住宅ローンの利用を検討するなら、少なくとも次の点をしっかり確認することをおすすめします。

  • 通常の住宅ローンと総返済額を比較する(金利や残価部分への利息も含めて)
  • 残価の考え方:どのような前提で、いくらに設定されているのか
  • 出口戦略:売却・リバースモーゲージ転換・相続など、どんな選択肢を想定している商品なのか
  • 保証・保険の内容:国や機構による保険、残価保証制度、団信の有無など
  • 住宅の条件:長期優良住宅か、メンテナンス計画はどうなっているか

こうしたポイントを、住宅会社や金融機関、専門家と一緒に一つずつ確認していくことで、「流行っているから」「国が後押ししているから」といった理由ではなく、自分たちの暮らしに本当に合った選択に近づくことができます。

「残クレ」という言葉は、どうしても「お得そう」「気軽に持てそう」というイメージを連想させます。しかし、住宅ローンは人生で最も大きな借金です。車の「アルファード地獄」で学んだ教訓を忘れず、制度のしくみとリスクをきちんと理解したうえで、じっくりと検討していきたいところです。

参考元