宮型霊柩車が10分の1に激減 変わる日本の葬儀文化
かつて日本の街中で毎日のように見かけた、豪華な装飾が特徴的な宮型霊柩車。しかし今、その姿はほぼ消えかけています。2003年には全国で2000台以上走っていた宮型霊柩車が、2023年にはわずか220台にまで減少。20年間で10分の1以下という劇的な減少に、何が起きているのでしょうか。
激減する宮型霊柩車の実態
全国霊柩自動車協会の発表によると、宮型霊柩車の減少は驚くべき速度で進んでいます。2003年の2000台超から2017年には約650台、そして2023年にはわずか220台にまで落ち込んでいるのです。かつては霊柩車といえば宮型が7割以上を占めていた時代もありました。毎日のように街中を走っていた光景は、今では完全に過去のものとなっています。
現在では洋型やバン型が全体の8〜9割を占めるようになり、宮型は全体の約3割程度にまで減っているとも言われています。この変化は、単なる流行の移り変わりではなく、日本の葬儀文化そのものの大きな転換を示しています。
「縁起が悪い」という苦情が転機に
宮型霊柩車減少の大きなきっかけとなったのが、近隣住民からの「縁起が悪い」という苦情でした。派手な装飾と目立つ外観を持つ宮型霊柩車が自宅近くを通ると、周辺住民から敬遠されるようになったのです。この苦情が引き金となり、1997年から火葬場への乗り入れ禁止が全国に広がっていきました。
その後、150以上の自治体で火葬場への乗り入れが禁止されるようになります。葬儀社も宮型の保有を控えるようになり、利用者が宮型を選びたくても選べない状況が生まれてしまいました。派手な装飾が「死」を強く連想させるため、住宅街を通ることすら避けられるようになったのです。
法規制と高コストが追い打ち
苦情による乗り入れ禁止だけが衰退の原因ではありません。2009年の保安基準改定により、宮型霊柩車の新造が実質的に禁止されてしまったのです。国の安全基準強化で新規製造が困難になったことで、宮型霊柩車は絶滅の危機に瀕している状況です。
さらに重大な問題が、莫大な製造コストです。宮型霊柩車は一台あたり2000万円を超える価格で、宮大工による手作業で作られる芸術品とも言える存在。維持費も非常に高く、近年の葬儀の低価格化が進む中で、葬儀社の経営負担は増すばかりです。
加えて、宮型を製造できる熟練職人の高齢化と減少も深刻な問題となっています。新調や修理が難しくなっており、需要減と供給困難の両面から宮型霊柩車は衰退を続けているのです。
変わる葬儀文化への対応
現代の葬儀は大きく変化しています。従来の豪華な葬儀から、シンプルで費用を抑えた葬儀へのシフトが進んでいるのです。特に注目されるのが、直葬(火葬式)や告別式なしのプランの増加。移動そのものの意味づけが薄くなり、派手な霊柩車の必要性が低下しています。
また、会館葬が主流化することで、葬列のルートが固定化しました。これにより、近隣住民からの反対もさらに増加。社会全体がシンプル志向へ向かい、宗教色の可視化を抑制する傾向も強まっています。豪華すぎる外観が現代の感覚に合わなくなってきているのです。
運用面での課題
宮型霊柩車が実用的でない理由も見逃せません。重量や全高の都合上、燃費、取り回し、保管場所に課題が生じがちです。これらの運用上の負担も、葬儀社が宮型の保有を控える理由となっています。
今後の見通し
現在の宮型霊柩車は、2025年現在もごく一部地域で需要が残るものの、大多数は姿を消しつつあります。今後、既存車両の老朽化に伴い、さらに減少していくことが確実視されています。安全規制の面からも派手な霊柩車は姿を消す方向にあり、これは霊柩車業界の大きな転換点となったのです。
葬儀という人生の大切な儀式における形態が、大きく変わろうとしています。宮型霊柩車の激減は、単に一つの車種の衰退ではなく、日本の社会価値観、葬儀文化、そして人々の死生観の変化を象徴する現象なのです。


