ベネッセのAI採点が教育現場を変える――愛知・長久手市と長崎県で広がる「先生の味方」
ベネッセが提供するAIを活用したテスト採点システムが、全国の教育現場で静かに、しかし確かな変化を生み始めています。
とくに、愛知県長久手市の教育委員会が導入したソフトでは、これまで約45分かかっていた採点時間が、わずか5分程度にまで短縮されたと報じられています。
また、長崎県の公立高校・中学校でも、同様のAI採点の試験導入によって、採点にかかる時間が従来の半分以下になったとのことで、教員の負担軽減への期待が高まっています。
AIがテスト採点を“9分の1”に短縮 ― 長久手市教委の取り組み
愛知県長久手市の教育委員会は、ベネッセが提供するAI採点ソフトを試験導入し、市内の学校現場でテスト採点に活用しています。
報道によると、従来は教員が1つのテストの採点に約45分ほど費やしていたところ、AIを活用するとおよそ5分で処理できるケースもあるとされています。時間にして約9分の1という大幅な短縮です。
このAI採点システムは、マーク式問題だけでなく、条件によっては記述式の答案にも対応できるよう設計されており、
答案をスキャンまたはオンライン上で取り込み、AIが解答と模範解答、採点ルールをもとに自動で得点を算出します。
教員は結果を確認し、必要に応じて部分的に修正するだけで済むため、従来のように一問ずつ「〇」「×」をつけていく作業が大きく減ります。
長久手市教委では、この取り組みを通じて、教員の時間外労働を減らし、児童・生徒と向き合う時間を増やすことを目指しています。
採点は、テストごとに大量の時間を要する定型的な作業であり、AIとの相性が良い分野です。
そのため、市としては「人でなければできない教育活動」に教員の時間を振り向けたいという狙いがあります。
長崎県でもAI採点を試験導入 ― 公立高・中の定期テストで
同様の動きは、九州地方でも始まっています。
長崎県内の公立高校・中学校の一部では、ベネッセなどが提供するAI採点システムを用いて、定期試験の採点を自動化する試験導入が行われています。
こちらの報道では、AIの導入によって、採点にかかる時間が従来の半分以下になったという結果が示されています。
これまで数時間を要していた採点作業が大幅に削減され、教員からは「部活動や授業準備にあてられる時間が増えた」「テスト翌日以降、より早く結果を返せる」といった声があがっていると伝えられています。
長崎県のケースでも、AIは主にマーク式・短答式問題の採点を担当し、
記述や作文など、子どもの考えを深く読み取る必要のある部分については、引き続き教員が目を通す形が取られています。
AIと人の役割を分担することで、効率化と教育の質の両立を目指している点が特徴です。
ベネッセが進めるAI採点技術の背景
ベネッセグループは、全国の学校向けの学力テストや、大学生向けの能力測定テストなど、多様な評価ツールを提供してきました。
その一環として、ベネッセグループのベネッセi-キャリアは、大学生向けの問題解決力測定テスト「GPS-Academic」にAIによる自動採点を導入すると発表しています。
ここでも、記述・論述式の解答をAIで採点する技術が活用され、結果の迅速なフィードバックが可能になるとされています。
こうした取り組みを通じてベネッセは、AIによる自動採点のノウハウを蓄積し、
小中高校向けの定期テストや実力テストなど、学校現場での日常的な評価にも応用を広げています。
愛知県長久手市や長崎県で行われている試験導入は、その実践例の一つといえます。
AI採点で変わる先生の仕事とメリット
AI採点が教育現場にもたらすメリットとして、主に次のような点が挙げられます。
- 採点時間の大幅な短縮
長久手市での「45分が5分に」「9分の1に」という例や、長崎県での「従来の半分以下」という結果は、AI採点の大きな効果をわかりやすく示しています。
教員が何十人・何百人分もの答案を採点する場合、その時間削減のインパクトは非常に大きいといえます。 - 教員の負担軽減と働き方改革
採点作業は、放課後や自宅に持ち帰って行われることも多く、教員の長時間労働の要因の一つとされてきました。
AIに任せられる部分を任せることで、残業時間の削減や、心身の負担軽減が期待されます。 - 児童・生徒と向き合う時間の確保
採点にかけていた時間を、授業準備や個別指導、保護者との連携などに振り向けることができれば、
一人ひとりの学びを支える時間が増え、教育の質の向上にもつながります。 - 結果を早く返せることによる学習効果
テストの結果が早く返ってくることで、児童・生徒は自分の理解度をすぐに確認でき、
間違えた箇所をその場で振り返ることができます。これは、学習の定着にとってとても大切なポイントです。 - 採点のブレが減る可能性
AIは設定された採点基準にしたがって一貫して採点を行うため、担当者によるばらつきが出にくいという利点もあります。
ただし、最終的な確認を人が行うことで、公平性と柔軟な判断の両立を図る取り組みが求められます。
AI採点で気をつけたい点・課題
もちろん、AI採点には課題もあります。報道などで指摘されている、また一般的に考えられる主なポイントは次の通りです。
- 記述式・表現力評価の難しさ
単純な正誤判定が可能な問題に比べて、文章表現や論理展開、独自の発想などを評価する問題は、AIだけで完全に採点することが難しい場面があります。
そのため、多くの学校では「AIは補助的に使い、最終判断は教員が行う」という形を取っているケースが多いと考えられます。 - 採点ミスや誤判定への不安
AIも、設定ミスや学習データの偏りなどにより、誤った採点を行う可能性があります。
導入にあたっては、テスト運用前の十分な検証と、結果を教員が確認できる仕組みづくりが重要になります。 - 個人情報や答案データの扱い
児童・生徒の答案をデジタルデータとして扱う以上、情報セキュリティやプライバシー保護は欠かせません。
ベネッセを含む事業者や自治体は、データの取り扱いについて丁寧な説明と安全対策を求められます。 - 先生の役割とのバランス
AIが採点するからといって、先生の仕事がなくなるわけではありません。
むしろ、AIが出した結果をもとに、一人ひとりにどんな声かけやサポートをするかが、先生の大切な役割になります。
「採点する人」から「学びを支える専門家」へと役割がシフトしていく過程で、研修やサポートも重要になります。
ICT活用が進む長久手市とベネッセの連携
愛知県長久手市は、もともとICTを活用した授業に積極的に取り組んできた自治体としても知られています。
ベネッセは2025年7月に、長久手市や北海道札幌市、埼玉県富士見市などで、学習支援ツール「ミライシード」などを活用した公開授業の開催を案内しており、
長久手市は、ICTと学習支援ソフトを組み合わせて、子どもたちの学びを深める実践を重ねてきました。
このような背景があるからこそ、長久手市でのAI採点ソフトの試験導入は、
「タブレットやオンライン教材で学ぶ」「AIで採点・分析する」「結果をもとに授業を改善する」といった、
学習のサイクル全体をICTで支える取り組みの一部として位置づけられていると考えやすくなります。
ベネッセのAI採点が広げる“教育のこれから”
ベネッセは、学校向けテスト、大学・企業向けアセスメント、英語・通信教育など、さまざまな領域で学力やスキルの可視化に取り組んできた企業です。
大学生向けの「GPS-Academic」でのAI自動採点導入に続き、小中高の定期テストや自治体の学力調査でもAI採点を活用することで、
テストの結果をより早く、より多角的に活用できる環境が整いつつあります。
例えば、AI採点の仕組みと、ベネッセが提供する学習支援プラットフォームを組み合わせれば、
・クラス全体のつまずきやすい問題を早く把握する
・一人ひとりの弱点に合わせた課題やドリルを自動で提案する
といったことも可能になります。
これによって、テストが「点数をつけて終わり」のものではなく、次の学びにつなげるための出発点として活用されやすくなります。
一方で、AI技術の活用が進むほど、人が子どもを見る力の重要性も、これまで以上に増していきます。
同じ点数でも、その子がどんな気持ちでテストに臨んだのか、どこで迷っているのか、といった部分は、数字だけでは測りきれません。
AIが得意な部分はAIに任せ、そのうえで先生が子どもたちとじっくり向き合う――。
長久手市や長崎県の取り組みは、そんな「人とAIの協働による教育」の一歩として注目されています。
保護者や地域にとっての意味
保護者の立場から見ても、AI採点にはいくつかのプラス面があります。
- 結果が早くわかる安心感
テスト結果が早く返ってくることで、子どもの学習状況をいち早く把握でき、早めのフォローがしやすくなります。 - 先生の「余裕」が子どもに返ってくる
教員の負担が軽くなれば、そのぶん子どもにかけられる時間やエネルギーが増えます。
学校での声かけや個別面談、保護者への説明などが、よりきめ細かくなることも期待できます。 - 地域ぐるみの教育環境づくり
自治体と企業が連携し、新しい技術を取り入れながら教育環境を整える姿は、地域としての魅力向上にもつながります。
長久手市や長崎県でのAI採点の取り組みは、「子どもの学びを大切にする地域」の一つのあらわれともいえます。
これからの広がりに向けて
ベネッセのAI採点システムは、すでに大学生向けテストなどで実績を積みつつあり、
今回の長久手市や長崎県での試験導入をきっかけに、全国の自治体や学校での活用が広がっていく可能性があります。
今後は、次のような点が、より一層重要になっていくと考えられます。
- 導入効果の検証と情報共有
実際にどれだけ時間が削減され、教員や子どもたちにどんな変化があったのかを丁寧に検証し、
その結果を他の自治体や学校とも共有していくことが大切です。 - 先生・児童生徒・保護者へのわかりやすい説明
AIがどこまでを担当し、どこからを人が見るのか。
データはどのように扱われるのか。こうした点を、専門知識がない人にもわかりやすく説明していくことが求められます。 - 技術の進化と人間性のバランス
AI技術が進めば進むほど、「人にしかできないこと」は何かが、よりはっきり問われるようになります。
子どもの変化に気づき、寄り添い、励まし、時には待つ――そうした、数字に表れにくい関わりを支えるためにこそ、
AIをどう生かすのかが、今後の大きなテーマになるでしょう。
ベネッセのAI採点をめぐる動きは、単なる「新しい機械の導入」ではなく、
教育のあり方そのものを見直すきっかけになりつつあります。
愛知県長久手市や長崎県の挑戦は、これからの日本の学校教育を考えるうえで、注目すべき事例だといえます。




