「中選挙区制」復活論が本格化 超党派で議論進む一方、慎重論も
衆議院選挙のしくみを大きく見直そうという動きの中で、かつて日本でも使われていた「中選挙区制」をめぐる議論が急速に広がっています。
自民・野党を問わない超党派の議員連盟では、中選挙区制に「連記制」を組み合わせる新たな案が示され、現在の小選挙区制よりも「幅広い民意を反映できる」として支持が広がりつつあります。
一方で、立憲民主党の安住淳幹事長らは「政治とカネ」の問題が悪化しかねないとして、復活に慎重な姿勢を示しており、今後の議論は与野党内でも波紋を広げそうです。
中選挙区制とは?現在の小選挙区制との違い
まず、ニュースで話題になっている「中選挙区制」がどのような制度なのか、現在の制度と比べながら整理してみましょう。
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中選挙区制
1つの選挙区から複数人(通常は3〜5人程度)を選ぶ制度です。
有権者は1票を投じ、その選挙区で得票数の多い候補から順に、あらかじめ決められた定数分が当選します。
戦後長く衆議院選挙に用いられていましたが、政治改革の一環として1990年代に現在の制度へと切り替えられました。 -
小選挙区制(現行)
1つの選挙区から1人だけを選ぶ制度です。
多くの国会議員は、小選挙区と比例代表を組み合わせた「小選挙区比例代表並立制」で選ばれています。
勝った候補者がすべてを得る仕組みのため、「死票」(議席につながらない票)が多くなりがちだという指摘があります。
中選挙区制は、1つの選挙区から複数の候補が当選するため、少数派の意見や中小政党の声も国政に届きやすいとされています。一方で、同じ政党の候補同士が同じ選挙区で競い合うことから、「政治資金の負担が増えやすい」「地元への細かいサービス合戦になりがち」という批判もありました。
超党派議連で浮上した「中選挙区+連記制」案
最近になって注目されているのが、「中選挙区制」と「連記制」を組み合わせた新しい選挙制度案です。これは、衆議院選挙の抜本的な改革を目指す超党派の議員連盟の会合で取り上げられました。
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超党派議連の狙い
・現在の小選挙区制では、実際の得票率に比べて、特定の政党に議席が偏りやすいとの批判が続いてきました。
・議連では、こうした「民意のゆがみ」を是正し、より多様な意見を国会に反映させたいという問題意識から、中選挙区制の再導入を含む選挙制度の見直しを議論しています。 -
「連記制」とは
「連記制」は、有権者が複数の候補者名を記入できる仕組みです。
たとえば「定数3」の選挙区で、有権者が2人分や3人分の候補者名を書ける形などが想定されます。
国民民主党は、この連記制を前提とした中選挙区案を提示しており、一つの選挙区の中で有権者の多様な選好をより細かく反映できる手法として注目されています。
NHKなどの報道によると、この超党派議連では、「現在の制度よりも幅広い民意を反映できる」との評価から、こうした中選挙区・連記制案をめぐって議論が活発化しているということです。
立憲民主党・安住幹事長は慎重姿勢「政治とカネが悪化」
一方で、中選挙区制の「復活」には慎重な声も少なくありません。
立憲民主党では、党内から中選挙区制導入に前向きな意見が出ているものの、安住淳幹事長は記者会見などで、あくまで慎重な立場を示しています。
安住氏が懸念しているポイントは、主に「政治とカネ」の問題です。
- 中選挙区制の時代には、同じ政党同士が同じ選挙区で競争することが多く、選挙運動にかかるお金が増えやすいとされてきました。
- 後援会活動や地元行事への参加、さまざまな形での「地盤」固めに必要な経費がかさみ、結果として「政治とカネ」の不透明さが強まるおそれがある、という見方です。
- こうした経験から、立憲民主党の中には「安易に中選挙区制に戻るべきではない」という考え方が根強くあります。
過去に中選挙区制が採用されていた時代を直接知るベテラン議員からは、「明らかにお金がかかった」「雑事の競争が大きすぎた」といった指摘も出ており、選挙制度を切り替える際には、同じ問題を繰り返さないための仕組みづくりが欠かせないといえます。
国民民主・榛葉氏「時限爆弾じゃなくて」 定数削減めぐり苦言
選挙制度改革をめぐっては、議員定数の削減も大きな論点です。
自民党や日本維新の会が中心となって、衆議院の議員定数を減らす法案づくりを進めていることに対し、各党から賛否両論が出ています。
その中で、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は、議論の進め方に苦言を呈しています。
- 榛葉氏は、定数削減だけが先行するようなやり方は、あとで大きなひずみを生む「時限爆弾」のようなものだと警戒を示しています。
- 選挙制度全体の設計を十分に議論しないまま、「数合わせ」のように定数だけを減らすと、民意の反映や地域代表のバランスに悪影響が出かねないという問題意識です。
- そのうえで榛葉氏は、与野党が丁寧に議論を重ねるよう強く促しており、単なる削減競争にならないよう冷静な対応を求めています。
国民民主党自身は、中選挙区制に連記制を組み合わせた案を示しており、中長期的な視点から「民意の多様性」と「政治の安定」をどう両立させるかを重視しています。
なぜ今、中選挙区制が再び議論されているのか
では、なぜ今になって中選挙区制が再び注目されているのでしょうか。背景には、現在の小選挙区中心の制度に対する、いくつかの不満や課題があります。
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民意のゆがみ
小選挙区制では、1票差でも勝てば議席をすべて獲得するため、得票率と議席数の差が大きくなりがちです。
ある政党が全体の4割前後の得票でも、過半数以上の議席を占めるケースが続き、「少数派の声が切り捨てられているのではないか」という疑問が出ています。 -
二大政党型の限界
小選挙区制は、本来「政権交代の起きやすい二大政党制」をねらった仕組みでした。
しかし実際には、第三極の政党が台頭したり、政党再編が繰り返されたりして、単純な二大政党制とは言いがたい状況になっています。 -
地域代表と多様性の確保
人口減少や地方の過疎化が進むなかで、「どのように地方の声を国政に届けるか」という課題も深刻です。
中選挙区制であれば、同じ地域から与野党やさまざまな立場の議員が選ばれる可能性が高まり、地域内の多様な民意をきめ細かく反映しやすいとする意見があります。
こうした問題意識を受けて、超党派の議連や一部政党からは「中選挙区制に戻すのではなく、新しい形で取り入れる」という発想が出てきています。
その一例が、連記制を組み合わせる中選挙区案であり、これによって有権者が複数の候補に票を分けることで、より細やかな民意の反映をめざそうというものです。
「政治とカネ」への懸念と、制度設計のこれから
しかし、中選挙区制への回帰に慎重な政治家たちは、過去の経験から「政治とカネ」問題の再燃を強く懸念しています。
中選挙区制の時代には、同じ政党同士が選挙区で競い合う「同士討ち」が激しくなり、後援会活動や地元対策に多額の費用がかかるという指摘がありました。
中選挙区制を再導入する場合、
- 政治資金の透明性を高めるルールづくり
- 企業・団体献金のあり方の見直し
- 選挙運動にかかるコストを抑える制度や運用
などを、あわせて検討する必要があるとの声が上がっています。
その意味で、選挙制度の議論は「選び方」だけではなく、政治資金や議会の運営の仕方まで含めたトータルな見直しとして進めていくことが求められています。
今後の論点と、私たち有権者にできること
中選挙区制をめぐる議論は、まだ方向性がはっきり固まっているわけではありません。
超党派議連や各政党の中で、次のような点について、今後も議論が深まっていくとみられます。
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1. 制度の具体的な設計
・定数をいくつにするのか(3人区なのか、5人区なのか など)
・連記制をどう組み込むか(有権者が何人まで書けるのか)
・比例代表との組み合わせをどうするか -
2. 「政治とカネ」への対策
・中選挙区制が本当にお金のかかる選挙につながるのか
・そうであれば、どのような規制や透明化策を講じるべきか -
3. 議員定数と民意のバランス
・議員定数を減らすことが「身を切る改革」なのか、それとも「民意の切り捨て」なのか
・人口減少社会で、どのような人数が適正なのか
私たち有権者にとって大切なのは、選挙制度が変わるとどんな影響があるのかを、できるだけ自分ごととして考えることです。
・自分の1票が、どのように議席に結びつくのか
・少数派の意見や新しい政治勢力の声が届きやすくなるのか
・地域の課題が、よりきちんと国政に反映されるのか
といった視点から、ニュースや政党の主張を見比べていくことが重要です。
中選挙区制を含む選挙制度の見直しは、一度決まれば長いあいだ国のかたちを左右する、大きなテーマです。
与野党の思惑や政局だけでなく、「どんな民主主義をめざすのか」という長期的な視点から、丁寧な議論が続けられることが求められています。


