きんでん急騰と「生成AIバブル」の電力インフラ株ブーム──電気設備業界に何が起きているのか
電気設備工事大手のきんでん(1944)が、株式市場で大きな注目を集めています。生成AIブームに支えられたデータセンター投資の拡大などを背景に、株価は年初から2倍以上に上昇し、最近はストップ高・上場来高値を更新する場面も見られました。
同時に、同じ電気工事大手の関電工や、旧九電工のクラフティアなど電力工事関連株も一斉高となり、「AI関連の出遅れセクター」として電力・電気工事株が再評価されつつあります。
この記事では、
- きんでん株急騰の直接のきっかけ
- 生成AIブームと電気設備業界の関係
- 関西電力・九州電力など電力株が「AI出遅れ株」として注目される理由
- それでも「日本のAI向けインフラは出遅れている」と言われる背景
といったポイントを、やさしい言葉で整理してご紹介します。
きんでん株がストップ高・上場来高値に──決算と上方修正が追い風
まずは、きんでんの足元の動きを押さえておきましょう。
株式市場では、2025年10月末から11月にかけて、きんでん株がストップ高となり、上場来高値を更新しました。 ある取引日の午前の段階で、株価は前日比+19%超の6158円まで買われ、東証プライム市場の上昇率で上位に入るほどでした。
この急騰の直接のきっかけとなったのが、
- 2026年3月期・通期業績予想の上方修正
- 配当予想の増額
です。
きんでんは、2026年3月期の通期について、
- 売上高予想を7300億円 → 7420億円(前期比5.2%増に)
- 営業利益予想を670億円 → 810億円(同32.8%増に大きく引き上げ)
と発表しました。
さらに株主還元として、
- 年間配当予想を1株100円 → 120円(前期は90円)
へ増額しており、好業績と積極的な株主還元姿勢が、投資家から好感された形です。
9月中間期(2025年4~9月)も、売上高が前年同期比7.8%増の約3214億円、営業利益は同約2.5倍の約319億円と、大幅な増益となりました。 良好な市場環境に加え、「採算性の向上」や「生産性の改善への取り組み」が奏功したと説明されています。
きんでん・関電工など電気設備大手の株価が「一直線の上昇トレンド」に
きんでんの好決算と上方修正は、同業他社にも波及しました。
10月末、きんでんとトーエネックがいずれも2026年3月期の通期業績予想を上方修正したことから、翌営業日には、
- 関電工(1942)
- クラフティア(旧九電工、1959)
- サンテック(1960)
- ユアテック(1934)
- 北陸電気工事(1930)
といった電力工事関連株が一斉高となり、上場来高値を更新する銘柄も出ました。 電気工事関連株に投資マネーが広く向かう「物色人気化」が起きた格好です。
ニュースウィーク日本版の記事によると、2025年11月末時点で、
- 関電工
- きんでん
といった業界大手の株価は、年初から2倍以上に値上がりしているとされています。
つまり、
- 個別企業としての業績・配当の上方修正
- 業界全体の成長期待
の両方が、株価上昇を後押ししていると言えます。
なぜ生成AIブームが「電気設備業界」を変えたのか
きんでんや関電工などの株がここまで注目されるようになった背景には、生成AIブームによってデータセンター建設が活況となっていることがあります。
生成AIは、大量の計算能力と電力を必要とするため、
- 巨大なデータセンターの新設・増設
- それを支える送電網・変電設備などの強化
が欠かせません。
ニュースウィーク日本版の記事では、「発送電などの電力インフラを支える電気設備業界」が、生成AIの大波によって「様変わり」していると指摘しています。 データセンター建設が活気づき、さらにAIで使われる半導体工場の国内回帰も追い風になっているとのことです。
海外でもAI向け電源の議論が進んでおり、例えばアメリカのイベント「エネルギー・イノベーション・サミット」では、
- AI産業を支える電源として原子力・ガスを中核とする方針
- 総額900億ドル規模の民間投資
といった構想が示されました。
国内でも、大手電力会社が大規模投資を打ち出しており、
- 関西電力は、変電所や送電線の新増設に1500億円超を投資
- 東京電力ホールディングスは、データセンター集積が進む千葉県北西部で送電網増強に2000億円超を投じる計画
が報じられています。
こうした投資の実行段階で、強い存在感を発揮するのが、まさにきんでんや関電工に代表される電気設備工事会社です。大規模な送配電設備やデータセンターの電気設備工事は、高度な技術と経験を必要とするため、業界大手に多くの案件が集まりやすい構造になっています。
電力株が「AI関連の出遅れ株」として注目される理由
生成AIブームのなかで、半導体やクラウド関連の株価は早くから上昇してきましたが、「電力」「電気工事」といったセクターは、比較的注目が遅れたとされます。このため、一部のアナリストは、
「AI関連の出遅れ株」として電力株に注目すべき
と指摘しています。
背景には、
- AI・データセンター需要の拡大に伴い、電力需要が増える見通し
- 送配電網や発電設備への投資拡大が、電力会社の収益改善につながる可能性
- その結果として、電力工事会社にも継続的な案件が期待される
といった構図があります。
また、燃料価格の動向なども収益改善要因として働いており、ある電力会社では、顧客数の増加による販売量の伸長とあわせて、業績予想の上方修正や配当増額、自社株買いの発表などが好感され、株価上昇につながった例も見られます。
つまり、
- AI=半導体・クラウド企業だけでなく、
- AIを動かす電力インフラ側にも恩恵が広がっている
という見方が、投資家の間で広がりつつあるといえます。
それでも「日本はAI向けインフラで出遅れ」と言われる理由
一方で、専門家の中には、「日本はAI向けインフラで世界に比べて出遅れている」と指摘する声もあります。
その主な理由として、
- 大規模データセンターやAI向け電源への投資規模が、米国などに比べて小さい
- 電力システム改革や規制の問題から、送配電設備の増強がスピード感を欠いてきた
- 国内の電力供給構造(再エネ・原発・火力のバランス)が、AI向けの安定大電力供給という観点で課題を抱えている
といった点が挙げられています。
特に、AI向けの大規模データセンターは、
- 大量の電力を長期にわたり安定供給できること
- 停電リスクの低さや送電インフラの信頼性
が重要になるため、単に建物を用意すればよいわけではありません。送電網の強化や変電所の新増設など、長期にわたるインフラ整備が必要になります。
この点で、日本はようやく大手電力会社が大規模投資に踏み出しつつある段階であり、アメリカなどの動きと比べると「スタートが遅かった」と評価されがちです。
きんでんにとってのチャンスと課題
ここまで見てきたように、
- 生成AIブームによるデータセンター・半導体工場投資の拡大
- 大手電力会社による送配電網強化への大型投資
といった動きは、きんでんをはじめとする電気設備工事会社にとって大きなビジネスチャンスとなっています。
きんでん自身も、
- 足元の業績が好調であること
- 通期予想を上方修正するほど受注・採算が順調なこと
- 配当増額など株主還元も強化していること
を市場に示しており、こうした点が株価急騰につながりました。
一方で、
- 日本全体としてAIインフラ整備がまだ途上であること
- 電力需給や規制など、構造的な課題が残っていること
も事実です。きんでんのような企業には、
- 高まる需要に応えられる人材・技術体制の維持・拡充
- 再エネ・原子力・蓄電池など、多様な電源を組み合わせる新しいインフラへの対応
- 省エネ・脱炭素と、高出力データセンターの両立に向けた技術的提案力
といった面での対応力が求められていくと考えられます。
投資家・一般読者が押さえておきたいポイント
最後に、今回の「きんでん急騰」と、その背景にあるトレンドから読み取れるポイントを整理します。
- ① きんでんの株価上昇は、業績上方修正と配当増額が直接のきっかけ
2026年3月期の通期予想を上方修正し、営業利益は従来計画から大きく増額。年間配当も100円から120円へ増配を発表し、ストップ高・上場来高値を更新しました。 - ② 背景には、生成AIブームによるデータセンター・半導体工場投資の拡大
AIの計算需要拡大で、データセンター建設やAI向け半導体工場の国内回帰が進み、電気設備業界に大きな仕事が流れ込んでいます。 - ③ 電力工事関連株全体が、一斉高となるなど人気化
きんでんやトーエネックの上方修正をきっかけに、関電工やクラフティア(旧九電工)など電力工事関連株が広く買われました。 - ④ 電力株は「AI関連の出遅れ株」としても注目
AIを支える電力インフラへの投資拡大により、関西電力や九州電力なども中長期の成長期待から注目度が高まっています。 - ⑤ それでも日本のAIインフラは「世界に比べ出遅れ」との指摘
投資規模や規制面の課題などから、日本のAI向けインフラ整備はまだ道半ばとする見方もあり、今後の政策と企業投資の動きが重要になっています。
生成AIというと、ついソフトウェアや半導体ばかりに目が向きがちですが、その裏側で、大量の電力を安定供給する「見えないインフラ」がますます重要になっています。きんでんをはじめとする電気設備工事会社の活躍は、これからのAI社会を支える土台として、今後も大きな役割を担っていくと言えるでしょう。



