小豆島で宿泊税導入へ 観光の質と持続可能性を高める議論が本格始動
香川県の小豆島町と土庄町で、「宿泊税」の導入に向けた議論が本格的に始まりました。両町は、2028年1月の導入を目標に、観光関係者や有識者らを交えた会議を開き、今後の検討を進めていく方針です。
全国的には、観光地を中心に宿泊税を導入する自治体が増えており、最近では神奈川県の鎌倉市や栃木県の宇都宮市などでも、同様の動きが相次いでいます。小豆島での取り組みも、こうした流れの中で注目を集めています。
小豆島の2町が初会合 2028年1月導入を目指す
小豆島町と土庄町は、宿泊税導入に向けた検討準備会の初会合を開きました。 会議には、地元の観光事業者や有識者など8人の委員が出席し、今後の議論の進め方や、島内の宿泊事業者を対象に行ったアンケート結果などが共有されました。
両町は、「持続可能な観光地」として安定した財源を確保することを目的に、宿泊税導入を検討しています。 観光客数が増える一方で、道路や港湾、公衆トイレ、景観保全など、観光を支える基盤の維持・整備には継続的な費用が必要です。そのため、観光客にも一定の負担を求め、その財源を地域の観光環境の充実に充てていく考えです。
会議で出た意見:「目的を明確に」「島民で共有を」
会議では、宿泊事業者などを対象に実施したアンケート結果が報告されました。 その中では、次のような意見が寄せられています。
- 宿泊税を導入する目的を明確にすべき
- 導入の目的や使い道を島民全体で共有することが重要
- 観光客や事業者への説明を丁寧に行う必要がある
特に、「なぜ宿泊税が必要なのか」「どのように地域に還元されるのか」といった点を分かりやすく示すことが、今後の大きなテーマとなりそうです。
小豆島の観光と宿泊税のねらい
小豆島は、オリーブや瀬戸内海の多島美、映画や文学の舞台としても知られる人気の観光地です。国の地域再生計画などでも、小豆島の観光振興は重要なテーマとされており、観光客数や宿泊者数の増加を目標に掲げています。
内閣府の資料では、「小豆島年間観光客数」や「観光客宿泊者数」の増加がKPI(重要指標)として設定されており、観光拠点施設の整備や、地場産品の販売強化、新たなホテル誘致などが進められていることが示されています。 こうした取り組みと並行して、宿泊税によって観光の質を高める財源を確保する狙いもあると考えられます。
今後想定される宿泊税の使い道としては、次のようなものが考えられます(あくまで一般的な例です)。
- 観光案内所や港、バス停などの観光拠点の整備・改善
- 景観保全やごみ対策など、環境保全に関する取り組み
- 島内交通の利便性向上やバリアフリー化の推進
- 祭りや文化イベントなど、地域の魅力を発信する事業
これらは小豆島に限らず、多くの自治体が宿泊税の導入時に検討している項目です。小豆島でも、島の実情に合わせた活用方法が話し合われていくことになります。
鎌倉市も2027年にも宿泊税導入へ 民泊も対象に
小豆島以外でも、宿泊税をめぐる動きが活発になっています。そのひとつが、観光地として人気の高い神奈川県鎌倉市です。
鎌倉市は、2027年にも宿泊税を導入する方針を示しており、ホテルや旅館だけでなく、民泊も対象とする方向で検討を進めています。税率や課税方法など、具体的な内容は今後詰めていくとされています。
鎌倉市でも、観光客の増加に伴い、歴史的な街並みの保全や、生活環境との調和が大きな課題となっています。宿泊税は、こうした課題に対処しつつ、「観光公害」を抑え、地域住民と観光客の双方にとって良い環境をつくる手段のひとつとして位置づけられています。
宇都宮市も宿泊税導入を検討 年度内に検討チーム
さらに、栃木県の宇都宮市でも、宿泊税導入に向けた動きが報じられています。市は年度内に検討チームを発足させ、導入の是非や制度設計について協議を進める方針です。
宇都宮市は「餃子のまち」として知られるほか、LRT(次世代型路面電車)の開業などを通じて、都市の回遊性や観光の魅力向上に取り組んでいます。観光や交流人口が増える中で、宿泊税を新たな財源として検討する流れは、小豆島や鎌倉市と共通する部分があります。
全国で広がる「宿泊税」 その背景とは
「宿泊税」は、宿泊者1人1泊あたりに課税する地方税で、東京都や大阪府、京都市など、すでに多くの自治体が導入しています。宿泊料金に応じて税額が変わる方式や、一律の額を加算する方式など、自治体によって制度設計はさまざまです。
こうした宿泊税が広がっている背景には、次のような事情があります。
- 観光客の増加により、インフラ整備や環境対策の負担が増えている
- 人口減少・高齢化で、従来の税収だけでは観光関連の財源が不足している
- 「量」だけでなく「質」を重視した観光への転換を図りたい
観光は地域にとって大切な産業ですが、その一方で、ごみ問題や交通渋滞、騒音、景観への影響など、さまざまな課題も生じます。宿泊税は、そうした課題に対処するための「観光のための財源」として期待されています。
小豆島ならではの課題と期待
小豆島は、フェリーや高速船でアクセスする離島という特性を持っています。そのため、港や船便、島内バスなど、観光を支えるインフラの維持がとても重要です。
内閣府の地域再生計画でも、「坂手港観光拠点施設整備事業」など、港を中心とした観光拠点の整備が位置づけられています。 そこでは、観光案内や移住相談、コワーキングスペースなどを備えたターミナルを整備し、観光と移住・交流をつなぐ拠点とする構想が示されています。
こうした取り組みを支えるうえでも、観光関連の安定した財源は不可欠です。宿泊税の導入は、単に税収を増やすことが目的ではなく、「島の未来をどのように描くか」という大きな議論の一部といえます。
- 観光客にとっては、「負担」と同時に「より良い滞在環境」につながるかどうか
- 島民にとっては、生活環境が守られ、誇りを持てる観光地であり続けられるかどうか
- 事業者にとっては、適切な制度設計と、収益への影響への配慮があるかどうか
こうした視点を踏まえながら、小豆島らしい宿泊税のあり方が模索されていきます。
今後のスケジュールと注目点
小豆島町と土庄町は、2028年1月の宿泊税導入を目指して議論を進めていく方針です。 今後は、具体的な税率や課税対象、徴収方法、使途の明確化などが段階的に検討される見通しです。
住民や観光事業者にとっては、次のような点が今後の注目ポイントとなります。
- 税率や課税対象がどのように決まるのか
- 集めた税金をどの分野に重点的に使うのか
- 島内外の人々に、制度の目的や効果をどう説明していくのか
また、鎌倉市や宇都宮市など、他地域の事例も参考にしながら、島の事情に合った仕組みづくりが求められます。
小豆島の美しい自然や文化を守りながら、観光を通じて地域を元気にしていくために、宿泊税をめぐる議論は、これからも大きなテーマとなりそうです。




