サンフレッチェ広島、経営ランク1位の快挙と島根県3町との地域連携が生む「サンフレ旋風」
サンフレッチェ広島(以下、サンフレ)が、ピッチ内外で大きな注目を集めています。
デロイト トーマツ グループが発表した「Jリーグ マネジメントカップ 2024」で、サンフレはJ1クラブランキング初の1位を獲得しました。同時に、クラブのホームスタジアムでは島根県川本町・美郷町・邑南町によるPRブースの実施が告知されるなど、地域とのつながりもさらに深まっています。
この記事では、「経営ランク1位」の背景にある育成力と資金力、新スタジアム効果、そして地域連携の広がりについて、わかりやすくご紹介します。
Jリーグ「マネジメントカップ」でサンフレッチェ広島がJ1クラブランキング1位
デロイト トーマツ グループが毎年発表している「Jリーグ マネジメントカップ」は、Jクラブの経営力を総合的に評価する指標です。
このランキングでは、以下の4つの分野が評価対象となります。
- マーケティング
- 経営効率
- 経営戦略
- 財務状況
サンフレはこのうちマーケティング分野と財務状況分野で1位、さらに経営効率分野で2位という高い評価を獲得しました。その結果、前年の14位から一気に1位へとジャンプアップする快挙を達成しています。
クラブは公式リリースで、「これもひとえに、サンフレッチェ広島を応援してくださるすべての皆様のおかげ」と感謝の言葉を述べ、「サッカー事業を通じて、夢と感動を共有し、地域に貢献する」という理念のもと、今後もクラブづくりに取り組むと表明しました。
新スタジアム「エディオンピースウイング広島」が生んだ観客動員と収益の急伸
サンフレの経営的な飛躍を語るうえで欠かせないのが、2024年に開業した新本拠地「エディオンピースウイング広島」です。
このスタジアムは、これまでの旧本拠地・広島ビッグアーチ(広島広域公園陸上競技場)とは異なり、広島市中心部からアクセスしやすい街なかに位置しています。従来は「山の中で足を運びにくい」と言われていた立地から一転し、人が自然と集まるエリアでのスタジアム運営が可能になりました。
スタジアムには飲食店やエンタメ施設も併設されており、「試合のある日」だけでなく「試合のない日」も楽しめる空間づくりが進められています。これにより、サッカー観戦だけを目的としない来場者も増え、クラブにとって新たな収益源となっています。
さらに、エディオンピースウイング広島の開業以降、J1リーグ戦では1試合を除き、ホーム・アウェイすべての席種が完売(リセール分除く)という驚異的な動員を記録しました。
この完売は昨シーズンから2025年10月4日のFC町田ゼルビア戦まで24試合連続という数字にも表れており、クラブの人気と注目度の高まりを象徴しています。
こうした新スタジアム効果により、サンフレの売上高成長率は大幅な伸びを示し、クラブの経営評価を押し上げる大きな要因となりました。観客動員が増えれば、チケット収入だけでなく、グッズ、飲食、イベントなど関連収入も増加します。その結果が、マネジメントカップでの高評価――特にマーケティングと財務状況分野での1位につながっています。
「地方クラブ」から「経営トップクラブ」へ――苦難と飛躍の14年
サンフレは、もともと東洋工業(現マツダ)を母体として生まれた、Jリーグ発足時からの“オリジナル10”クラブです。
J1優勝をはじめ、数多くのタイトルを獲得してきた歴史あるクラブでありながら、広島という土地柄もあって、「野球のカープの陰に隠れがち」「地方クラブとして注目されにくい」という一面もありました。
とくに、いわゆる「ミシャ放出」など、クラブの転機となった時期には、財政的な厳しさや観客動員の課題から、主力選手や監督を手放さざるを得なかった側面も指摘されています。しかし、そうした苦しい時期を経て、クラブは育成力の強化と経営基盤の安定という2つの柱を少しずつ積み上げてきました。
現在では、デロイト トーマツ グループによる評価で「経営面における最優秀クラブ」とも言えるJ1クラブランキング1位を獲得し、過去の苦難から大きく前進した姿を見せています。
観客動員は絶好調、収益は右肩上がり、そしてピッチ内でもルヴァンカップ制覇やリーグ戦での優勝争いなど、安定した戦いぶりを披露しています。ピッチ内外の好循環が、クラブ全体を押し上げる大きな流れとなっています。
育成力と選手価値の向上が支える「資金力」
サンフレの強みとして語られるのが、選手の育成力と、育てた選手を適切なタイミングで世界へ送り出し、クラブの資金力につなげる仕組みです。
近年では、所属選手の市場価値が国内トップクラスに達する例もあり、国外移籍に伴う移籍関連収入も大きな額となっています。こうした「選手育成 → 成長 → 価値向上 → 移籍」という循環は、クラブの収益構造を支える重要な要素です。
もちろん、クラブ側も「売って終わり」ではなく、得た資金をトップチームの強化、アカデミーへの投資、新スタジアム運営や地域事業へと再分配することで、さらにプラスのスパイラルを生み出しています。
この「育成力+資金力」のバランスこそが、サンフレを単なる“強いチーム”ではなく、“持続可能なクラブ”へと押し上げている要因と言えるでしょう。
島根県川本町・美郷町・邑南町のPRブース実施――「サンフレ」がつなぐ広域連携
サンフレを中心とした動きは、広島県内にとどまりません。
ホームゲーム会場などにおいて、島根県川本町・美郷町・邑南町によるPRブースの実施が発表され、話題となっています。
これらの町は、自然豊かで独自の文化や食、観光資源を持つ地域ですが、都市部に比べると情報発信の機会が限られがちです。そこで、多くの来場者が集まるサンフレの試合会場にブースを設け、特産品や観光情報を紹介することで、町の魅力を知ってもらう取り組みが行われています。
スタジアムという「人が集まる場」を活用し、サッカーファンと地域をつなぐこのようなPR活動は、クラブにとっても地域にとっても大きなメリットがあります。
サンフレにとっては、「地域に根ざしたクラブ」としての存在感をさらに高めることができ、町にとっては、広島という大きな都市圏の来場者に自分たちの魅力を直接伝えることができます。
こうした広域連携は、クラブ理念である「地域に貢献する」という言葉を、具体的な形にしている取り組みと言えるでしょう。
久保雅義社長が語るサンフレのこれから
サンフレの経営改革と急成長の中心にいるのが、社長の久保雅義さんです。
久保社長は、Jリーグ マネジメントカップ2024で14位から1位へと成長した背景について、新スタジアムによる売上高の大幅な成長、マーケティング戦略の転換、そしてクラブ全体の意識改革が大きかったと語っています。
新スタジアムに人を呼び込むための仕掛け作りや、ファン・サポーターとの接点を増やす取り組み、データに基づいた経営判断など、クラブ経営の「見える化」と「効率化」を同時に進めてきたことが、今回の高評価につながっているとされています。
また、久保社長は、サッカーの勝敗だけでなく、クラブが地域社会にもたらす価値を重視しています。
広島市内はもちろん、島根県川本町・美郷町・邑南町のような周辺自治体との連携も含め、「サッカーをきっかけに、人と地域がつながる仕組み」を広げていくことが、サンフレの重要な役割だと位置づけています。
サンフレが見せる「スタジアム発」の新しい地域づくり
サンフレッチェ広島は、これまで「野球のイメージが強い広島」において、サッカー文化を根付かせるべく長年取り組んできました。
新スタジアムの開業、J1クラブランキング1位という評価、島根県の3町によるPRブースといった動きは、その努力が目に見える形になって表れてきたものだと言えます。
スタジアムは、単に試合を観る場所から、地域の人々が集まり、学び、楽しみ、交流する場へと役割を広げつつあります。
サンフレは、その中心に立ちながら、育成力で選手を育て、財務的な安定でクラブを支え、そして地域との連携で新たな価値を生み出しています。
これからも、サンフレがどのように地域とともに歩み、どのような形で「夢と感動」を共有していくのか、多くの人が注目しています。
観客としてスタジアムを訪れることは、チームを応援するだけでなく、こうした地域づくりの一員になることでもあります。サンフレをきっかけに、広島、そして島根の新たな魅力に触れてみてはいかがでしょうか。


