「所得税増税」巡り議論本格化 2027年1月開始案と高市首相の姿勢転換とは
防衛力強化のための財源確保を目的とした所得税増税をめぐり、政府・与党内で議論が大きく動き始めています。
これまで増税に慎重、あるいは反対の立場だった政治家の姿勢にも変化が見られ、2027年1月からの所得税増税案が具体的に検討されていることが明らかになりました。
本記事では、現在報じられている内容をもとに、所得税増税の中身や時期、高市首相の姿勢転換、与野党の主な論点を、できるだけ分かりやすく整理してお伝えします。
防衛費増額のための所得税増税とは
政府・与党は、防衛力強化に必要な財源を確保するため、法人税・たばこ税・所得税の3つの税目について増税する方針を決めています。
このうち、法人税とたばこ税については2026年4月からの増税がすでに決まっており、残る所得税については開始時期が先送りされていました。
しかし、ここにきて所得税増税を2027年1月から実施する方向で調整に入ったと報じられています。
今回の所得税増税の仕組みは、いわゆる「防衛特別所得税」として、現在の所得税に1%を上乗せする形が想定されています。
同時に、東日本大震災からの復興財源として賦課されている復興特別所得税の税率を1%分引き下げることで、当面は実質的な負担増が生じないようにする案が検討されています。
一見すると「負担は変わらない」ように見えますが、復興特別所得税は課税期間の延長が想定されており、その分だけ長期的には国民の税負担が増えることになります。
つまり、短期的には増税感を抑えつつも、将来的には防衛費のための新たな負担を国民全体で分かち合う構図です。
2027年1月開始案が示された背景
今回、政府・与党が2027年1月開始案を示した背景には、すでに決まっている防衛費増額のスケジュールがあります。
政府は、いわゆる「安保3文書」に基づき、2027年度までに防衛費を国内総生産(GDP)比2%まで引き上げる方針を掲げています。
この防衛費増額計画に間に合わせるには、財源となる税収の確保を前倒しで進める必要があるため、所得税増税の開始時期も具体化した形です。
与党内では、すでにGDP比2%を超える水準の防衛費増額を求める声も出ているとされ、その場合はさらに大きな財源が必要になる可能性があります。
こうした議論が、所得税増税の本格検討を後押ししている側面も指摘されています。
高市首相はなぜ増税「容認」に転じたのか
報道では、「岸田政権時代には増税に反対していた高市首相が、ここにきて増税容認へと態度を変えた」とされています。
かつては、景気や物価高への影響を懸念し、増税には慎重だったとされる高市氏ですが、防衛力強化の必要性が高まる中で、財源を巡る現実的な判断を迫られたとみられます。
特に、防衛費の増額は一時的なものではなく、継続的・構造的な支出の増加と位置づけられています。
そのため、「将来世代にツケを回す借金」ではなく、現役世代を中心に、安定した税収で賄うべきだという考え方が、政権内で強くなっています。
高市首相としても、同盟国との関係や安全保障環境の厳しさを踏まえ、「防衛費増額は避けられない」と判断し、その財源確保として所得税増税をある程度受け入れざるを得ない局面に来たと説明されています。
同時に、高市首相は「国民負担の急激な増加は避けるべき」という姿勢も維持しており、復興特別所得税の税率引き下げと組み合わせる形で、当面の家計への影響を抑える案に軸足を置いたとみられます。
増税を「一気に重くのしかからない形」に調整することで、これまでの「増税慎重」の姿勢との整合性も図ろうとしていると言えるでしょう。
自民・維新の協議と反対論
所得税増税の具体的な開始時期や仕組みをめぐっては、自民党と日本維新の会などの間で協議が行われています。
報道によれば、自民党側からは2027年1月開始案が提示されており、防衛財源として年間2000億円超規模の確保を見込んでいるとされています。
一方で、日本維新の会などからは、家計への影響や現在の物価高を踏まえた反対論も出ていると報じられています。
維新側は、歳出削減や行政改革、無駄の削減などを優先し、それでも足りない部分について慎重に議論すべきだと主張しており、「増税ありき」への警戒感を示しています。
このため、与野党間の協議は一筋縄ではいかず、今後も攻防が続く見通しです。
日本共産党など野党からの強い批判
一方で、野党の中には、今回の所得税増税を「軍拡増税」として厳しく批判する声もあります。
日本共産党の山添拓政策委員長は、政府が2027年からの所得税増税実施を検討しているとの報道を受け、「本格的な軍拡増税に踏み出すものだ」「軍拡そのものにも、そのための増税にも断固反対だ」と述べています。
山添氏は、安保3文書で掲げられたGDP比2%への防衛費増が、今回の所得税増税と一体のものであると指摘し、
さらに与党内で「GDP比3.5%」といった一層の軍拡を求める議論まで出ていることを問題視しています。
物価高で国民生活が厳しさを増す中、これまで議論されてきた負担軽減策や減税の効果を「すべて吹き飛ばすことになる」として、強い懸念を表明しています。
国民生活への影響はどうなるのか
今回の所得税増税は、「防衛特別所得税」と「復興特別所得税」の税率見直しを組み合わせることで、短期的には負担増を抑える設計となっています。
具体的には、所得税に1%を上乗せする一方で、復興特別所得税を1%分引き下げ、表面的な税率の変化を打ち消す形です。
しかし、復興特別所得税の課税期間延長によって、結果的には負担が続く期間が長くなり、長期的には税負担が増えることになります。
現時点の報道では、具体的な延長期間や将来の税率変更の見通しなど、詳細な数字までは示されていませんが、
「今すぐ増税感は出さず、しかし最終的には国民が負担を負う」という構図であることは、押さえておく必要があります。
また、政府内では、防衛費の財源確保と並行して、ふるさと納税の見直しも議論されています。
高所得者ほど高額の返礼品を受け取れる現行制度が「高所得者優遇」と批判されていることから、控除額に上限を設ける方向での調整が進められていると報じられています。
これもまた、税と負担のあり方を見直す大きな流れの一部といえます。
「防衛」と「増税」をどう考えるか
今回の所得税増税をめぐる議論は、単なる税率の問題にとどまらず、日本の安全保障政策や財政の在り方そのものに関わる大きなテーマです。
政府・与党は、厳しさを増す安全保障環境や同盟国との関係を踏まえ、「防衛力強化は不可欠」と訴え、その財源を広く国民からの税で賄う考えを示しています。
これに対し、野党や一部の有権者は、「本当にそこまでの軍拡が必要なのか」「増税よりも先にやるべき見直しはないのか」と疑問を呈しています。
また、すでに物価高や社会保険料の負担増などで家計が圧迫されている中、「これ以上の負担増は難しい」という実感を持つ人も多くいます。
今回の所得税増税は、当面の実質負担は変えないという工夫がなされているものの、長期的に見れば確実に国民負担の増加につながる制度設計であり、その是非については慎重な議論が求められます。
今後の焦点と注目点
- 2027年1月開始案が最終的にどのような形で決着するのか
- 「防衛特別所得税」と「復興特別所得税」の具体的な税率・期間がどう設計されるのか
- 自民党と日本維新の会などとの協議で、修正や代替案が示されるのか
- 日本共産党などが訴える「軍拡そのものの見直し」がどこまで議論されるのか
- 国民の世論が、今後の税制・防衛政策の議論にどのような影響を及ぼすか
所得税増税をめぐる議論は、今後の日本の進路を左右する重要なテーマです。
「安全保障をどう高めるのか」と同時に、「その費用を誰がどのように負担するのか」という問題でもあり、一人ひとりが自分ごととして考える必要があります。
引き続き、政府・与野党の議論の行方と、示される具体的な制度案を丁寧に見ていくことが求められています。



