2025年の「年収の壁」が大きく変わる。給与所得控除の引き上げで、あなたの働き方はどう変わる?

日本の労働環境に大きな変化をもたらす「年収の壁」が、2025年の税制改正により抜本的に見直されることになりました。12月3日に発表されたニュースによると、自民党と国民民主党が給与所得控除の引き上げについて本格的な協議を開始しています。この改正は、パートやアルバイト、副業をしている多くの働き手に直接影響を与える重要な変更となります。

「年収の壁」とは何か。今までの問題点を理解する

「年収の壁」という言葉を聞いたことがありますか?これは、一定の年収を超えると、税金や社会保険料が発生することで、かえって手取り収入が減ってしまう現象を指しています。特にパートや契約社員として働く人々にとって、この壁は働く時間を制限する大きな要因となってきました。

これまでの主な壁として、以下のようなものが存在していました。「103万円の壁」は所得税が発生する基準となる年収額で、これを超えると本人に所得税が課税されます。また、「130万円の壁」は社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件であり、この金額を超えると国民健康保険から社会保険への切り替えが必要になり、本人と事業主で保険料を負担することになります。さらに、「106万円の壁」は大企業で働く場合に適用される社会保険加入要件です。

多くの労働者が、これらの壁を超えないよう意識的に働く時間を減らしています。せっかく仕事をしたいのに、収入を制限してしまう構造的な問題が生じていたわけです。

2025年の税制改正。103万円から160万円へ。給与所得控除が大きく引き上げ

今回の改正の最大のポイントは、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられたことです。同時に、基礎控除も大きく変更されています。

これまで基礎控除は、納税者の合計所得金額に応じて「48万円・32万円・16万円」の3段階で設定されていました。しかし改正後は、「95万円・88万円・68万円・63万円・58万円」の5段階へと細分化され、大幅に引き上げられることになります。例えば、合計所得金額が150万円の従業員であれば基礎控除は88万円、500万円であれば63万円となります。

この二つの控除を合わせると、所得税がかかり始める年収は103万円から160万円へと引き上げされるのです。つまり、年収160万円までであれば、社会保険料控除を除いて所得税が課されないということになります。これは働き手にとって大きなメリットです。

さらに注目すべき点として、この給与所得控除の引き上げに伴い、住民税の壁も変わります。これまで「100万円の壁」と呼ばれていた住民税の非課税基準が、「110万円の壁」へと引き上げされることになったのです。

配偶者控除・扶養控除も見直し。150万円から160万円へ

所得税だけではなく、配偶者控除や扶養控除に関する基準も変更されます。これまで配偶者を扶養している場合、配偶者の年収が150万円を超えると配偶者特別控除が段階的に減ることになっていました。

改正後は、年収が160万円を超えると段階的に減るように変更されます。つまり、配偶者特別控除が適用される範囲が150万円から160万円へと10万円分拡大されたわけです。なお、配偶者特別控除がなくなる基準である201.6万円の壁については変更はありません。

また、16歳以上の親族を扶養している場合の扶養控除についても見直しがなされています。これまで扶養控除は親族の年収によって異なる基準がありましたが、今回の改正で扶養親族の年収が123万円を超えると受けられなくなります。同時に、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。

実は、当初の想定ははもっと低かった。123万円案から160万円案へ

興味深いことに、今回の改正が決定する前には、異なる案が検討されていました。2024年の年末に発表された自民党・公明党の「令和7年度税制改正大綱」では、所得税が発生する年収基準を103万円から123万円へ引き上げる案が盛り込まれていたのです。

その案では、基礎控除を48万円から58万円に10万円引き上げ、給与所得控除を55万円から65万円に10万円引き上げることで、合計123万円の非課税枠を実現するというものでした。しかし最終的には、この案から大きく変更され、より細かく年収層に応じた控除額を設定する仕組みに変わったのです。

現在の制度では、年収200万円以下の層に対しては基礎控除95万円に37万円の上乗せ措置が恒久措置として適用されます。一方、年収200万超~475万円以下の層には、2年間限定で基礎控除の上乗せ措置が適用されるなど、所得層に応じた支援が講じられることになりました。

社会保険の「106万円の壁」と「130万円の壁」。政府の支援策とは

ただし、注意が必要です。所得税の壁が160万円に引き上げられたとしても、社会保険に関する壁は依然として存在しています。特に大企業で働く場合、「106万円の壁」と呼ばれる社会保険加入要件があります。

この壁に対応するため、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入しています。具体的には、106万円の壁と130万円の壁への対応、そして配偶者手当への対応に取り組んでいます。賃金要件については、最低賃金の状況を踏まえて、2025年6月から3年以内に撤廃されることが決定しました。また、従業員50人超の企業を対象とする企業規模要件については、段階的に縮小・撤廃されることになっています。

働き方はどう変わるのか。実務上の注意点

2025年の年末調整から、これらの新しい控除額が適用されます。つまり、2025年1月から12月までの給与収入に対して、新しい控除基準が用いられるということです。

具体的には、給与等の収入が190万円までの場合、給与所得控除額は一律65万円となります。これまでは年収によって段階的に計算されていたものが、一定額で固定されるようになったわけです。一方、給与等の収入が190万1円から360万円までの場合は、従来通り「収入金額×30%+8万円」という計算式が適用されます。

これまで年収調整をしていた世帯でも、新しい控除額により手取りが変化する可能性があります。パートやアルバイトをしている人も、契約社員や副業をしている人も、自分の年収がどのカテゴリーに該当するのかを確認し、働き方の見直しを検討する必要があるでしょう。

公平でターゲットを絞った支援。低~中所得層への配慮

今回の改正が特徴的な点は、「一律103万円から123万円」というシンプルな基準の引き上げではなく、年収層に応じて控除額を細かく設定する、より公平でターゲットを絞った支援が導入されていることです。

特に低~中所得層の支援に重点が置かれています。年収200万円以下の層に対しては恒久措置として基礎控除95万円に37万円の上乗せが適用される一方、年収850万円超の層には限定的な措置しか適用されません。このように、所得層に応じた段階的なアプローチを取ることで、本当に支援が必要な層に対して効果的にサポートする仕組みが構築されたのです。

残された課題。「宿題」にどう答えるのか

一方で、課題も残されています。今回の改正により所得税の壁は160万円に引き上げられましたが、社会保険の壁については完全には解決していないという指摘があります。特に、大企業で働く人の「106万円の壁」や、広く多くの働き手に影響する「130万円の壁」については、段階的な廃止予定であるものの、まだ完全な解決には至っていません。

また、住宅ローン減税の見直しなど、他の税制との整合性についても議論が続いています。政府が発表した新しい施策の中には、災害危険区域での建築を抑制するために、住宅ローン減税の適用外を検討する案も含まれており、この分野でも新たな「壁」が生じる可能性が指摘されています。

今後の展開。働き手が確認すべきポイント

2025年の年末調整は、多くの働き手にとって重要な転機になるかもしれません。特にパートやアルバイト、副業をしている人は、自分の状況が新しい基準でどのように変わるのかを確認することが大切です。

企業の人事・給与担当者も、2025年の年末調整に向けて、改正された基礎控除申告書に基づいた新しい税額計算システムを整える必要があります。従業員から提出される書類の様式も変更される可能性があるため、事前の準備が欠かせません。

今回の改正は、働き方改革の一環として、多くの働き手がより自由に働く選択肢を得られるようにするための施策です。ただし、完全な解決にはまだ時間がかかる可能性があり、政府がどのような「答え」を出すのかについては、今後の動向を注視する必要があります。

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