ガソリンスタンド危機が加速 宮崎県内も10年で2割減少、地方経済と生活基盤が揺らぐ
日本全国でガソリンスタンド(以下SS)の急速な減少が続いている中で、宮崎県内でも深刻な状況が進行しています。2014年度末から2024年度末までの10年間で、宮崎県内のガソリンスタンド数は約2割減少し、431カ所となったことが明らかになりました。この数字は、全国的な傾向を反映するとともに、地方経済や住民生活に大きな影響を与えつつあります。
全国でも加速する減少トレンド
全国規模でみると、この問題はさらに深刻です。2013年3月末時点で3万6349カ所あったガソリンスタンドが、2023年3月末までに8386カ所減少し、2万7963カ所となっています。これは過去28年連続の減少であり、ピークとなった1995年3月末の6万421カ所と比べると、現在のSSの数はピーク時の半分以下にまで落ち込んでいるのが実情です。
特に関東圏での減少が目立っており、千葉県では501カ所減の999カ所、茨城県では445カ所減の959カ所、東京都では428カ所減の912カ所となっています。一方、沖縄県や鳥取県、福井県などでは減少幅が比較的少ないものの、全国的な傾向として、ガソリンスタンドの消滅は避けられない状況にあります。
営業継続が困難に、倒産・休廃業が急増
ガソリンスタンドの減少が加速している背景には、営業環境の悪化があります。2024年のガソリンスタンドの倒産・休廃業件数は184件に達し、3年連続で増加しています。この数字はコロナ禍前の水準に迫りつつあり、業界全体が危機的な状況にあることを示しています。
SSが廃業に至る主な理由としては、後継者不在、施設の老朽化、燃料油販売量の減少、粗利益の減少、地下タンク規制強化への対応不能などが挙げられます。特に、古いガソリンスタンドでは地下タンクの改修費用が経営を圧迫する大きな要因となっています。
需要減少が構造的問題を深刻化させている
SS数の減少を招く根本的な要因は複数あります。第一に、地方の過疎化に伴うSS利用者の減少、第二に、自動車の燃費改善により給油回数が減少したこと、そして第三に、電気自動車の普及が進み始めたことが挙げられます。
さらに深刻なのは、ガソリン需要そのものが急速に減少していることです。経済産業省の試算によれば、ガソリン需要は年率で平均2.6%減少し、今後5年間で12.2%の減少が見通されています。この傾向は今後も続くと予想され、ガソリンスタンド業界にとって極めて厳しい経営環境が続くことになります。
過疎化による給油難民問題の深刻化
全国的にみると、ガソリンスタンドが極めて少ない自治体が数多く存在します。資源エネルギー庁の資料によれば、SSが1カ所もない市町村が全国に8町村、1カ所しかないところは97町村、2カ所は114市町村、3カ所は139市町村となっています。
SS過疎化が進んでいる地域としては、北海道、福島県、長野県、鳥取県、そして福岡県・熊本県・佐賀県・大分県・宮崎県・鹿児島県といった九州地区などが目立ちます。このような地域では、ドライバーやライダーが給油に困る「給油難民」となるケースが増加しており、緊急時の対応が難しくなっています。
複合施設化により対応を模索する業界
こうした困難に直面する中で、ガソリンスタンド業界も生き残り戦略を模索しています。最近のSSは、カフェやコンビニエンスストア、軽整備工場などを併設したりして、給油以外のサービスを提供する複合施設へと進化しています。
さらに、EV化が進むにつれて、充電設備を併設するSSも今後増えてくることが予想されます。また、将来的には化石燃料のガソリンに代わって、eフューエルやバイオ燃料といったカーボンニュートラル燃料の給油ステーションへの転換も検討されています。
国による支援の動きと課題
政府側も問題の深刻さを認識しており、支援策を打ち出しています。経済産業省は2024年度予算で、SSの地下タンク設備補修支援などに44億円を計上しています。また、災害時に備えて、自社で自家発電機を設置した「ボランタリーSS」を住民拠点SSとして登録する取り組みも進められており、2024年3月末現在で14,431カ所が登録されています。
しかし、これらの支援策だけで問題を解決できるかどうかは不透明な状況です。SS存続のためにはさらなる予算投下が必要とされており、SS空白地帯が広がらないようにするための抜本的な対策が求められています。
地域経済と国民生活への影響
ガソリンスタンドの減少は単なる業界問題ではなく、地域経済と国民生活に直結した課題です。特に地方では、ガソリンや灯油などの消費量が多く、生活基盤としてSSへの依存度が高くなっています。また、災害時には、SSは国民への最後の給油拠点として「最後の砦」としての役割を果たしています。
給油難民の問題が深刻化すれば、ドライバーの移動に支障が生じ、経済活動や観光産業にも悪影響が出ることが予想されます。観光地へのツーリングや、農業・漁業などの地方産業を支える物流網への影響も懸念されます。
宮崎県内の状況と今後の課題
宮崎県内でも、全国的なトレンドと同じく2割程度のガソリンスタンドが減少し、431カ所となっています。この減少は、地方都市である宮崎県にとっても、産業や生活基盤の維持に深刻な課題となりつつあります。
今後、宮崎県を含む地方地域では、ガソリンスタンドの存続問題がさらに重要な政策課題となっていくでしょう。地方経済の維持と国民生活の確保のために、国と地方自治体が連携した抜本的な対策が急務となっています。
おわりに
ガソリンスタンドの減少は、社会経済の大きな変化を象徴しています。人口減少、少子高齢化、EV化の進展という構造的な問題を背景に、業界は危機的な状況に直面しています。しかし同時に、複合施設化や新しいエネルギー供給体制への転換といった新たな可能性も生まれつつあります。地域経済と国民生活を守るためには、産業界と国、地方自治体が一体となって、長期的かつ実行性のある対策を講じることが求められています。



