高市早苗首相の「台湾有事」発言が日本で波紋を広げる――中国の反発と国内支持率の高さが浮き彫りに
発言の発端と中国側の強い反発
2025年11月7日、衆議院予算委員会で高市早苗内閣総理大臣が台湾有事について述べた一連の発言が、今、日本と中国の外交関係を揺るがせています。高市首相は、中国が台湾を支配下に置く目的で海上封鎖を行い、これが戦艦による武力行使を伴う場合、「どう考えても存立危機事態になり得るもの」という考えを示しました。さらに、中国が台湾に武力侵攻し、米軍が台湾海峡などに派兵した場合、日本は集団的自衛権を発動して米軍と協働する可能性があり、そこには軍事力の行使も含まれることを示唆していました。
この発言に対して、中国側は「一つの中国」の原則に反しており内政干渉に当たるとして強く反発しました。その後、2025年日中外交紛争へと発展し、中国はこの発言を対日政策を更新・転換させる「理由」として利用し始めたのです。中国は「日本こそが現状変更している」という主張を内外に広め、海産物の輸入禁止の再開、日中首脳会談の停止、尖閣諸島周辺での公船活動の劇的な増加など、次々と対抗措置を打ち出しました。
高市首相の「事実上の撤回」発言と中国の反発
発言から約3週間後の11月26日、高市首相は就任後初の党首討論で、存立危機事態を認定する事例を「具体的に言及したいとは思わなかった」と述べました。その上で、政府の公式見解を継承する考えを明確にし、中国との良好な関係を構築することが自身の責任であるとの姿勢を示したのです。
立憲民主党の野田代表は、この党首討論での高市首相の答弁に対し、具体例が出なかったことを「事実上の撤回」と受け止めたコメントを発表しました。しかし、中国外務省はこれに対して「絶対に受け入れない」と強く反発。中国側は高市首相の一連の発言を許容しない姿勢を貫いており、外交的な緊張は続いています。
国内で高まる支持率と賛成意見
一方、日本国内では高市首相の「台湾有事」発言に対する支持が広がっているようです。報道では、大多数の日本人が高市首相のこうした発言を支持しており、首相の内閣支持率も堅調に推移しているとされています。この高い支持率は、台湾有事に対する日本の現実的で責任ある対応への国民の期待を反映しているとも考えられます。
台湾側でも前向きな反応が見られました。民主進歩党の高雄市選出の立法委員らは、11月21日に「高市挺高市(高雄市が高市早苗を支持)」と題する記者会見を立法院で開き、台湾人に対し日本への旅行などの具体的な行動で日本を支援するよう呼びかけています。これは、台湾政府と民進党が日本の対台湾スタンスを歓迎していることを示す象徴的なジェスチャーです。
国内での異議声と複雑な状況
しかし、高い支持率の一方で、一部では高市首相の発言に対する懸念の声も上がっており、弾劾を計画する組織も存在するとの報道もあります。こうした動きは、日本国内にも異なる政治的見解が存在することを示しており、高市首相の対応に関しては一様ではない意見が混在している状況を浮き彫りにしています。
また、台湾内部でも意見は分かれています。野党・中国国民党の洪秀柱主席は、高市首相が「台湾海峡での衝突を公然と日本の『存立危機事態』と結び付け、両岸関係の性質を曖昧にしている」と批判しており、野党側は異なる見方を示しています。
文化人からの肯定的な声
国内の有名人からも、高市首相への支持を示す声が聞かれています。日本の人気女性グループのメンバーである松村沙友理氏が受訪時に高市早苗首相を大讃し、その手腕と姿勢を評価するコメントを述べるなど、文化的・社会的な領域でも高市首相への肯定的な評価が広がっている側面が見られます。
背景にある日中台関係の構造的変化
今回の発言と反発の背景には、より深い構造的な変化があります。中国は2016年5月に民進党の蔡英文政権が成立して以降、対台湾政策を修正してきました。民進党政権を「独立志向」であるとして強く批判し、民進党政権と関わりを持つすべてを厳しく批判する姿勢を強めてきたのです。
高市首相は議員時代から台湾の民進党、頼清徳総統と緊密な関係にあり、2025年4月末にも台湾を訪問して両者は会談しています。中国はこの関係性に極めて敏感に反応し、高市首相の発言を対中国政策の転換の兆候として捉えた可能性があります。安倍晋三元首相が採用していた「議員としての立場と総理としての立場を弁別する手法」を高市首相も継承しようとしていましたが、中国側はそうした区別を認めない姿勢を示しています。
今後の展望と課題
高市首相の「事実上の撤回」発言にもかかわらず、中国が強く反発し続けるという現状は、日中関係がいかに微妙な状況にあるかを示しています。中国側が「ハードルを上げ」た状況では、従来のような前例のある議員交流や地方首長の訪台なども批判対象となっており、外交的な緊張を解く道は容易ではないと見られます。
一方で、台湾側がこれを緩和シグナルと捉えるなど、むしろ安定化への動きも見られています。今後、高市首相がどのようにして中国との良好な関係構築を進めながら、国内の支持と国際的なバランスを取っていくのかが、日本外交の重要な課題となるでしょう。
