高市首相の台湾有事答弁をめぐる対立が激化、中国が「撤回」を要求し続ける理由
11月7日の国会答弁で、高市早苗首相が台湾有事の際に日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当しうるとの認識を示したことから、日中関係が急速に冷え込んでいます。この一つの答弁をめぐって、中国との間で対立が深まり、国内でも議論が続いています。
高市首相の答弁とは何か
高市首相が国会で述べたのは、中国が台湾に武力侵攻し、米軍が台湾海峡などに派兵した場合、日本は集団的自衛権を発動して米軍と協働する可能性があり、その中には軍事力の行使も含まれるという内容です。法律上は安保法制の枠内に収まるものとされていますが、首相が個別事例に言及したのは安保法制制定後初めてのことであり、これが大きな波紋を呼びました。
重要な点として、集団的自衛権は日米間での行使を想定したものであり、日本と台湾の間では想定されていません。にもかかわらず、中国はこの答弁を「日本が現状を変更している」という主張の根拠として活用し始めました。
中国が強硬に対応する背景
中国政府は高市首相の答弁に対して即座に批判を加え、撤回を厳しく求めています。11月18日には日中外務省の局長級協議の際に、中国外交部の劉勁松アジア局長が険しい表情でポケットに手を突っ込んだ姿勢で日本側に対応するという高圧的な演出も行われました。
中国がここまで強く反応する理由は、表面的には答弁の内容ではなく、その背景にあります。大阪総領事の暴言問題で対日姿勢を厳しくした中国は、一度引き上げたハードルを下げることができず、高市首相の答弁がそのちょうどよい標的となってしまった側面があります。さらに、中国は高市首相が台湾の頼清徳総統と緊密な関係にあることに極めて敏感に反応しており、この答弁をそうした関係性の表れだと捉えているのです。
また、中国国内の政治状況も影響しています。習近平指導部にとって、台湾問題は譲歩できない最重要課題であり、対台湾政策を柔軟に変更することは政治的に難しい立場にあります。そのため、高市首相の答弁に対しても強硬な姿勢を見せ続ける必要があるのです。
中国が「撤回」にこだわる理由
興味深いことに、中国は経済制裁などの過度な対抗措置には慎重です。11月28日には、立憲民主党の野田代表が党首討論で高市首相の答弁について「具体例が出なかったことを事実上の撤回と受け止めた」と述べました。しかし中国外務省は直ちにこれを「絶対に受け入れない」と反発しました。
中国の報道官は、「再び言及しない」ことと「撤回」は性質が全く異なるとして、単なる沈黙では不十分だと強調しています。つまり、中国が求めているのは実質的な謝罪と明確な立場の変更であり、曖昧な状態では納得できないということです。この姿勢を保つことで、台湾問題に関して絶対に譲らない立場をアピールしようとしています。
国内での反発と批判
一方、日本国内でも議論が続いています。共産党の山添拓氏を始めとする野党議員らは、高市首相の答弁が「憲法を蹂躙する危険極まりない発言」だと批判しています。彼らの主張では、具体的な有事事例に言及することで、国民に対して軍事的関与の道を開く可能性があり、これは平和憲法に反するというものです。
これまで日本政府は、集団的自衛権の行使について法理としては認めつつも、実際の適用については慎重な態度を保ってきました。その慎重さが、今回の高市首相の答弁によって崩れたのではないかというのが批評家たちの懸念です。
国際的な影響と複雑さ
さらに、中国は英国を含む国際社会に対しても台湾問題での支持を要請しており、この問題がグローバルな外交戦に発展しつつあります。米国のトランプ政権との関係性も複雑化し、高市首相の答弁がもたらしたインパクトは予想外に大きくなっています。
日本の地政学的位置づけが重要になる中で、中国とのバランスを取りながら、米国やインド太平洋地域の安保上の役割をどう構築していくかは、今後の日本外交の大きな課題となっています。
今後の展望
高市首相は、自らの答弁を従来の政府解釈の範囲内だと説明していますが、中国はこれを完全な撤回まで受け入れないという硬化した態度を保つと見られます。日中関係は当面、冷え込んだ状態が続く可能性が高く、日本の台湾政策と対中政策のバランスをいかに取るかが問われることになるでしょう。
この一連の対立は、単なる外交上の言葉遣いの問題ではなく、東アジアの安全保障体制そのものに関わる根本的な課題を浮き彫りにしています。台湾をめぐる緊張が高まる中で、日本がどのような立場を取るのかについて、国内外からの注視が集まっています。



