米国消費者の複雑な経済状況:支出は続くも満足度は低下

消費者心理と実際の行動のギャップ

米国の消費者心理が冷え込んでいます。エコノミストの間では「米国消費者は不満を抱えている」という認識が広がっており、消費者マインドの悪化が指摘されています。しかし、この悲観的なムードとは裏腹に、実際の消費支出は堅調を保ち続けているという矛盾した現象が起きています。

2025年の米国経済を見ると、個人消費を中心とした減速が報告されています。関税政策を巡る先行き不透明感の高まりから、家計が支出抑制の動きを強めてきたとされています。にもかかわらず、消費者たちは「支出の泥沼」とも呼べる状況に陥りながらも、消費を続けているのです。

Yardeni Researchは、米国消費者が「比較的強い立場」にあると分析しており、この見方が市場で注目を集めています。つまり、消費者は不安を感じながらも、経済的には十分な支出能力を維持しているということです。

統計データから見える消費の実態

具体的な数字を見ると、米国消費支出の状況がより明確になります。2025年第2四半期の米国消費支出は16,350.20米ドル(十億)に達し、過去最高を記録しました。これは前四半期の16,291.80米ドルから増加したもので、消費支出の堅調さを示しています

実質消費支出の増加率をみても、2025年第2四半期には前期比1.6%の増加となり、市場予想の1.4%をわずかに上回る結果となっています。前四半期の0.5%増加から加速している点は特に注目に値します。さらに、最終的な推計では第2四半期の実質消費支出は前期比で2.5%まで拡大しており、この加速傾向が続いています。

消費支出の内訳を見ると、複雑な構造が浮かび上がります。非耐久財(食料品や日用品など)は物価上昇の影響を受け、前年比で約2%程度にとどまっています。一方で、耐久財は前年比6%程度と大きく増加し、サービス消費も前年比3%程度の堅調なペースで増加を続けています。

8月の小売売上高は3か月連続で増加を記録し、消費者マインドが軟化する中でも底堅さを示しています。アトランタ連邦準備銀行によるGDPナウキャスト予測では、第3四半期の実質GDPが前期比年率3.3%と高い伸びを見込んでおり、消費と設備投資は堅調さを保っているとされています。

消費者の不安要因と今後の展望

消費者が「不幸」とも表現される心理状態にあるのに、支出が続く理由は何か。一つの要因として、インフレーション率の見通しが重要な役割を果たしています。インフレ率が4%未満で推移すれば、景気減速は限定的となり、米国経済は景気後退を回避できると考えられています。

しかし、インフレ率が4%を超えるシナリオでは状況は大きく変わります。その場合、実質所得がマイナスに転じ、貯蓄率や資産効果も所得減少を補うことができなくなります。この時点で、消費が本格的に低迷し、マイナス成長となる可能性は極めて高いとエコノミストは警告しています。

米国の貿易収支が急激に悪化していることも懸念材料です。多くの企業が過去数か月にわたって在庫を積み増してきたため、実際のインフレ率への影響が夏場に顕在化すると予想されています。このような環境変化が、消費者心理の悪化につながっているのです。

グローバル化や世界経済の構造変化により、今後は過去に見られたようなペースでの消費財フローの拡大は難しくなるでしょう。また、米国政権の経済政策が予測困難であることから、政策決定者の信頼感も回復するまでに時間がかかると予想されています。

民間債務と景気後退の可能性

ポジティブな側面として、米国の家計と企業の民間債務水準が低いことが挙げられます。このため、景気後退に陥ったとしても、その程度は軽微なものに留まり、2008年のような深刻な金融危機には至らないと考えられています。

金融環境の悪化と不確実性の高まりから景気後退の可能性が高まっているという指摘もありますが、関税政策や経済政策に関する不透明感が解消されれば、消費者心理は改善する可能性もあります。

現在の米国経済の状況まとめ

米国消費者は、心理的には不満や不安を抱えながらも、経済的には支出能力を保ち続けているという複雑な状況下にあります。この二律背反的な状況は、先行き不透明感と現在の経済的余裕が共存していることを示しています。

エコノミストの見方は分かれており、悲観的な見通しと相対的に強い立場という両方の評価が存在します。しかし、データが示しているのは、消費支出がまだ堅調であり、今後のインフレ率がこの状況の分岐点になるということです。

今後の米国経済がどの方向に向かうかは、政策の不確実性がどの程度解消されるか、そしてインフレがどの水準で推移するかという二つの重要な要素にかかっています。消費者の心理状態は改善が必要ですが、実際の支出行動を見る限り、米国経済はまだ大きな落ち込みの段階には至っていないと言えるでしょう。

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