ガソリン暫定税率廃止法が成立 半世紀以上続いた”暫定”がついに終焉へ

2025年11月28日、ガソリンとディーゼル燃料の暫定税率を廃止する関連法が参議院本会議で全会一致により可決・成立しました。1974年から約50年以上にわたって続いてきた”暫定”措置が、ついに廃止されることが正式に決定された歴史的な瞬間です。

暫定税率とは何か

ガソリンの暫定税率について、まず基本から説明します。暫定税率は1974年に一時的な措置として導入されたもので、ガソリンやディーゼル燃料に対して上乗せされている追加の税金です。

現在のガソリンにかかる暫定税率は1リットルあたり25.1円です。一方、軽油(ディーゼル燃料)の暫定税率は1リットルあたり17.1円となっています。これらの税金は、本来は一時的なものとして設定されたはずが、そのまま50年以上続いてしまったという、いわば制度の”怠惰”の結果とも言えます。

ガソリン税全体の構成を見ると、基本税率が約28.7円/L、暫定税率が25.1円/Lで、合計すると53.8円/Lになります。さらにこの上に、石油石炭税が2.8円/L、そして消費税10%が加算されるという多層的な課税構造になっているのです。

廃止のスケジュール

今回成立した法案により、以下のスケジュールで暫定税率が廃止されることになりました。

ガソリンの暫定税率:2025年12月31日に廃止

軽油の暫定税率:2026年4月1日に廃止

なぜガソリンと軽油で廃止時期が異なるのでしょうか。それは税金の性質の違いにあります。ガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)は国税ですが、軽油引取税は都道府県税です。このため、軽油の廃止は地方自治体への配慮から、地方団体の財政年度が開始する2026年4月1日に設定されました。

ガソリン価格への実際の影響

ここで重要なポイントがあります。暫定税率が廃止される12月31日に、ガソリン価格が急に25.1円下がるわけではないということです。

実は、政府は急激な価格変動による流通混乱を避けるため、すでに補助金による段階的な価格引き下げを実施しています。11月13日には補助金が従来の1リットルあたり10円から15円に引き上げられ、その後11月27日にはさらに5円引き上げられて20円になりました。そして12月11日には、補助金が暫定税率分と同等の1リットルあたり25.1円まで引き上げられる予定です。

つまり、年末の廃止時点では、すでに補助金により同水準の価格引き下げが実現されているため、廃止当日に一気に下がることはありません。むしろ、政府は段階的に価格を調整することで、消費者と流通業界への混乱を最小限に抑えようとしているわけです。

軽油の場合も同様で、すでに11月27日に補助金が暫定税率と同等の1リットルあたり17.1円に達しており、理論的には補助金引き上げ前から約7円の価格低下が実現されています。

消費者への経済効果

暫定税率の廃止による経済効果は相当なものです。政府の試算によれば、この廃止による減税効果は1.0兆円規模と見込まれています。これを単純に計算すると、1世帯あたりの年間負担軽減額は約12,000円程度になると予想されています。

さらに注目すべきは、暫定税率そのものが下がるだけでなく、ガソリン価格が下がることに伴い、その価格に対して課税される消費税も減少するということです。暫定税率分25.1円に対する消費税は約2.5円ですから、実質的には1リットルあたり約27.6円の負担軽減となります。

これは特にドライバーの多い地方の家庭や、配送業務などでガソリンやディーゼル燃料を大量に使用する事業者にとって、大きな経済的恩恵となるでしょう。

なぜ今廃止されるのか

1974年の導入から約50年も続いてきた暫定税率が、なぜ今になって廃止されるのでしょうか。そこには、2008年のガソリン暫定税率失効をめぐる政治的な議論の歴史があります。

当時、野党が暫定税率の廃止を主張し、大きな政治的争点となりました。その後、様々な政治的な変遷を経て、今回の与野党6党による合意に至ったわけです。自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、公明党、共産党の6党が合意するという異例の事態が、この廃止法の成立につながりました。

今後の課題

一方で、この廃止には重要な課題も存在します。暫定税率は半世紀以上にわたって国の重要な財源となってきました。その廃止に伴い、政府と与野党は今後、暫定税率に代わる安定した財源確保に向けた検討を進める必要があります。与野党は1年程度をめどに結論を得ることで合意しており、今後の政策展開が注視されます。

また、ガソリン価格の低下に伴う政治的な影響も考慮する必要があります。11月22日から23日に実施されたFNN世論調査では、「ガソリンや軽油の価格が下がったことを実感できている」と答えた人は4割弱にとどまっており、政府の広報戦略の強化も求められるかもしれません。

結びに

ガソリン暫定税率の廃止は、単なる税制改革ではなく、50年以上前の”一時的な措置”がようやく是正される象徴的な出来事です。国民の生活費負担の軽減、特に地方の消費者や配送業者の経済的恩恵は計り知れません。段階的な価格引き下げにより、市場の混乱を避けながら進められるこの改革が、日本の経済にどのような波及効果をもたらすのか、今後の動向が注視されます。

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