中国の「渡航自粛」要請が日本の観光業に与える影響と現地の声

はじめに

2025年11月下旬、中国政府は自国民に対し日本への渡航自粛を要請しました。この発表は、両国の政治的な背景を受けてのものであり、長い歴史をもつ日中間の観光・交流にも大きな影響を与えています。本記事では、中国の「渡航自粛」措置による日本観光地の現状、観光客の反応、各地の観光業界の対応について丁寧に解説します。

中国政府の「渡航自粛」要請とその背景

中国政府は2025年11月、日本への観光目的の旅行を対象に「渡航自粛」を呼びかけました。この措置は、日中間の外交関係の緊張に端を発するものと見られています。歴史問題や政策発言などのきっかけによって、中国政府が自国民に向けて特定国への「渡航自粛」や「危険情報」を発信するケースは過去にもありましたが、今回は観光立国を掲げる日本にとっても無視できない出来事となりました

日本各地の観光地における影響~「明暗分かれる」現場の今

愛知県の名勝・香嵐渓では紅葉シーズン真っ盛りのなか、日本人観光客に混じって中国人観光客の姿も見受けられました。ある中国人観光客は「RED(中国のSNS)で知って訪れた」と語り、「これまでで一番規模も大きく、非常に美しかった」と日本の紅葉を満喫した様子でした

一方、観光地ホテルやツアー事業者には大きな打撃が広がっています。蒲郡市のホテルでは、「渡航自粛」要請の直後より中国からの宿泊予約キャンセルが2000人以上発生。「12月までの団体客予約はすべてキャンセル」といった状況に陥りました。通常、日本人客が少ない時期も団体の中国人観光客で安定した稼働率を維持していましたが、自粛要請後は観光バスの駐車場も閑散とし、閑散期の経営に深刻な影響が及んでいます

広島への影響~数字でみる客足の実態

広島県においても中国からの宿泊客数は一時大幅に減少し、11月の中国人観光客比率はわずか6.4%にまで縮小しました。これはコロナ禍以前に比べ大幅に低く、渡航自粛要請の影響が如実に現れた結果です。ただし、観光業全体への影響は現時点で「限定的」とも言われており、日本国内の他地域やインバウンド全体に対する波及効果は比較的抑えられている印象もあります

個人観光客の冷静な対応~現地で聞いた本音

  • 「すでにスケジュールが決まっていたのでキャンセルしなかった。もし自粛要請前なら、来るのをやめていたかもしれない」
  • 「ホテルはキャンセル不可だったため来るしかなかった」
  • 「団体ツアーほどは影響を受けていない。自分たちは自由に行動したい」
  • 「周囲には心配されたが、日本に住む恋人に会うために訪日した」
  • 「ツアーや団体旅行には影響があると思うが、個人旅行者は自身の判断で渡航している」

このように、個人で旅行を計画していた中国人観光客の多くは、すでに航空券やホテル予約を済ませていたこともあり、予定通り訪日しています。一方で、今後新規で訪日旅行を計画する中国人個人客にとって「渡航自粛」はやはり心理的なハードルとなっているようです

団体ツアー・パッケージ旅行への影響

日本の観光業界において、団体ツアー客、特に中国からの大規模なパッケージ旅行が占める割合は大きいです。今回の渡航自粛発表を受け、団体客のキャンセルが相次いでいます。香嵐渓を例にとると、11月だけで予約済みだった中国人団体客4グループすべてがキャンセルとなり、ホテルの稼働率も大幅に低下しました。団体バスの減少は、飲食店や土産物店の売り上げ落ち込みにも直結し、地域経済への影響が懸念されています。

日本人観光客や他国インバウンドの動向

中国からの団体観光客減少分をカバーするように、国内旅行や他国からのインバウンド客はやや増加傾向にあります。為替の円安もあり、特に欧米やアジア近隣国からの観光客は引き続き来日しています。一部の観光事業者からは「中国客の減少で日本人客が予約しやすくなった」との声もあり、需給バランスが一時的に変化する局面も見られます

「全便欠航」の波紋~日中航空路線の現状

今回の渡航自粛要請にあわせ、日本と中国を結ぶ12本の航空路線がすべて欠航となったケースも確認されています。これは主に団体ツアーのキャンセルが相次いだことによる措置で、空港関係や交通インフラにも波及。地方空港では閑散とした様子が広がり、交通・観光産業の底支えに課題が浮き彫りとなりました。

観光産業関係者の声と対策

  • 「閑散期でも中国の団体ツアーのおかげで客室の約6割が埋まっていたが、今は厳しい」
  • 「団体ツアー4本すべてキャンセル、12月までの予約もすべてなし」
  • 「今後しばらくはキャンセルが続く見通し」
  • 「日本人客に向けたプロモーションや、個人旅館の開拓などを強化している」

観光業界では今回の事態を受け、国内向けのセールやプロモーション、他国インバウンド客への対応強化に踏み切るケースが多くなっています。SNS活用や外国語スタッフ拡充、地域独自の体験プログラム開発など、ポスト・コロナ期に蓄えたノウハウを活用する事業者も増えています。

冷静な観光客・変わる旅行スタイル

「渡航自粛」という公式発表にもかかわらず、一部の個人旅行者は冷静に状況を判断し、予定通りに旅を続けているのが現実です。政府要請を重く受け止めて計画を見直す旅行者がいる一方で、「自分の旅は自分で決める」と柔軟に対応する層も存在します。この意識の違いは、「見たいもの、体験したいことがあれば、誰にも指図されず行動する」と語る中国人観光客の声に象徴されます

今後の展望と課題

現時点では中国の「渡航自粛」政策がいつまで続くか明確になっていませんが、観光業界では早期の緩和を期待する声も多いです。また、今回の経験を通じて、「一つの国に依存しすぎない観光戦略」や、「多様なインバウンド市場の開拓」も重要であるとの認識が強まりました。

一方で、現場の観光業者からは「この規模のキャンセルが続けば体力的に厳しい」「今後また団体客が戻ってくるまで、どうやって経営しのぐかが課題」と切実な声が上がっています。

まとめ

中国政府による「渡航自粛」要請は、日本各地の観光地・観光業に痛手を与えつつも、国内観光や欧米・東南アジアからの新たな需要にもつながる契機となっています。中国人観光客の動向は日本経済に大きな影響をもたらし続けており、観光業界は難局のなかで「多様なおもてなし」と「新たな市場開拓」という転換期を迎えています。状況を冷静に見極めながら、今後も変化に対応した観光戦略が求められています。

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