小田急の新型ロマンスカー発表で揺れる「伝統」 連接台車の廃止と展望車復活の謎
小田急電鉄は11月17日、新型ロマンスカーの車両開発コンセプト「きらめき走れ、ロマンスカー」を発表しました。白いロマンスカーの愛称で親しまれた50000形「VSE」の後継車両となる80000形で、ロマンスカーの歴史において重要な転機を迎えようとしています。今回の発表では、ロマンスカーファンから大きな注目を集める点が複数あり、その中でも特に議論を呼んでいるのが「連接台車」の廃止です。
「白いロマンスカー」VSEの引退と新型の登場
VSEは2005年のデビューから約20年近くが経過する中、2024年に引退することが決定されています。箱根観光特急のテコ入れを目的として開発されたVSEは、運転室を2階に上げて最前部に展望席を設けた構造が特徴でした。この展望席は多くのユーザーに愛され、箱根観光のポスターなどにも多数登場するなど、小田急を代表するフラッグシップ車両として君臨してきたのです。
しかし、VSEの早期引退は単なる老朽化だけが原因ではありません。同社CSR・広報部によると、VSEの車体構造である「アルミダブルスキン構造」の補修・リニューアルが困難であり、機器についてもカーブ通過時などの問題が生じていたことが背景にあります。つまり、技術的な課題が引退を加速させたということです。
なぜ「連接台車」は採用されなかったのか
VSEが多くのファンから愛された大きな理由の一つが、「連接台車」の採用でした。連接台車とは、2つの車体で1つの台車を共有する仕組みで、この構造があるからこそVSEは特有の乗り心地を実現していたのです。走行時の「ガタンゴトン」というジョイント音が少なく、振動も少ないため、乗客の快適性が高かったと評価されています。
しかし、新型80000形では連接台車ではなく「ボギー車」が採用されることが決定されました。ボギー車とは、1つの車体に複数の台車が取り付けられている方式です。この決定には複数の理由があります。
第一に、座席数の確保です。ボギー車を採用することで、連接台車よりも1編成あたりの座席数を増やすことが可能になります。経営効率を重視する現代において、この点は無視できない要素となっています。
第二に、ホームドアの整備という実務的な課題があります。小田急は駅のホームドア整備を進めており、そのためには各車両のドアの位置を統一する必要があります。もし新型に連接台車を採用すると、ドアの位置がズレてしまい、ホームドア整備の妨げになってしまうのです。現役のロマンスカーとして走るMSEやGSEはボギー車を採用しており、新型もこれらとの統一性を取ることが重要だったと考えられます。
第三に、技術開発による乗り心地の向上があります。最新の技術により、ボギー車であってもVSEのような連接台車の乗り心地に近い快適性が実現可能になったというのが、小田急の判断です。
展望車は復活へ 「走る喫茶室」の行方は不透明
新型80000形に関して確定している情報の一つが、展望車の復活です。VSEが採用していた「運転室を2階に上げて最前部に展望席を設けた構造」は、新型でも踏襲されることが決まっています。これはロマンスカーファンにとって朗報と言えるでしょう。
一方で、不確定な要素も存在します。それが「走る喫茶室」のサービスの復活です。VSEの時代、ロマンスカーには上質なサービスを提供する「走る喫茶室」が存在し、多くのファンに愛されていました。しかし、2016年に経済効率の問題から廃止されてしまいました。新型での復活については「現在は検討中」とのことで、まだ決定には至っていません。
VSEの最後と保存の決定
引退するVSEの処遇についても、決定が下されています。1編成は展望車だけが保存されることが決まっており、その他の編成は全車解体される予定です。これは、VSEの歴史的価値を認めつつも、実用性の観点から最小限の保存にとどめるという判断だと言えます。
ロマンスカーの伝統の中でも特に象徴的存在だった連接台車という技術が、経営効率性やホームドア整備といった現代的な課題に直面することで、その採用が見直されるに至ったのです。これは、交通機関の運営が単なる技術的課題だけでなく、実務的な制約条件に左右されることを示す例となっています。
今後の展開と不確定要素
新型ロマンスカーの実際の運行開始までは2年以上の時間が残されており、その間に段階的に詳細が明らかにされていくと予想されます。展望車の復活は確定しましたが、「走る喫茶室」の復活、乗り心地がボギー車で本当にVSE並みに改善されるのか、そうした点がどのように実現されるのかについては、今後の情報開示を待つ必要があります。
ロマンスカーはファンと小田急を結ぶ特別な存在です。新型が箱根路を駆け抜ける姿が見られるまで、どのような形で「伝統」と「革新」のバランスが取られるのか、その行方に注目が集まっています。




