【特集】認知症の最新動向と暮らしへの影響――単純なもの忘れと認知症の違い、そして予防のためにできること

はじめに

認知症という言葉は、多くの人にとって身近になりつつあります。高齢社会が進む日本では、家族や身近な人が突然「もの忘れ」が増えたと感じたとき、「これは認知症なのか、それとも単なる加齢によるものなのか」と不安になる方も少なくありません。
本記事では、専門医による「単純なもの忘れ」と「軽度認知症」の違いを解説し、現在進行形で話題となっている認知症予防の最新知見や、生活に支障をきたす身体のサインについてもわかりやすくご紹介します。

単純なもの忘れと認知症の決定的な違いとは?

多くの人が年齢とともに「もの忘れ」を感じるようになります。加齢による単純なもの忘れは、誰にでも起こりうる自然な現象ですが、認知症軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは決定的な違いがあります。

単純なもの忘れの特徴

  • 体験した出来事自体は覚えているが、一部の情報(例:人の名前)を忘れる。
  • ヒントやきっかけがあれば思い出すことができる。
  • 忘れたことへの自覚がある。

たとえば、「昨日食べたものを思い出せないが、食べたこと自体は覚えている」というのは典型例です。

認知症のもの忘れの特徴

  • 出来事そのものをまるごと忘れてしまう(例:昨日外出したこと自体を思い出せない)。
  • ヒントをもらっても思い出すことができない。
  • 忘れたことへの自覚が乏しく、家族等が気づくことが多い。
  • 日常生活に支障が出る(例:約束や用件を繰り返し忘れる、重要な支払いを忘れる等)。

認知症の場合、単なる記憶力の低下だけでなく、日時や場所の認識ができなくなったり人の気持ちを考えないような言動が増える等、複数の症状が進行して現れます。

軽度認知障害(MCI)――認知症移行前の重要なサイン

軽度認知障害(MCI)は、「もの忘れ」と「認知症」の中間地点に位置付けられます。ここで重要なのは、認知機能に低下が見られても、日常生活には大きな支障が出ていないという点です。

  • 記憶力や判断力、注意力などの一部に低下が生じる。
  • 社会生活や日常生活は自立して営める範囲内。
  • MCIのうち、半数近くが認知症へ移行するとされていますが、残りは維持するか、改善する人もいます。

加齢による「単純なもの忘れ」とMCI・認知症の違いを早期に把握し、適切な対応や予防に努めることが、これからの超高齢社会を明るく生き抜くうえで大きな鍵となります。

認知症予防のために今できること――前向きな生活がカギ

認知症は、「予防できない病気」と思われがちですが、近年の研究では生活習慣の改善社会的な活動の維持前向きな心の持ち方が発症や進行のリスクを下げる可能性が示されています。

前向きで明るい気持ちと日常生活の工夫

  • 腐らず、前向きで明るく暮らすことが、精神的ストレスの軽減や社会活動の維持につながります。
  • 新しい趣味を持つ、友人と会話する、外に出て体を動かすなど、日々の生活に変化と楽しさを取り入れることが重要です。
  • 「できないこと」よりも「できること」「新しく挑戦できそうなこと」に目を向けるセルフケアも効果的です。

医師が語る、絶対に放置してはいけないサイン

認知症のリスクに気づかず進行してしまうケースも少なくありません。特に以下のような身体や心の変化は、認知症だけでなく重大な病気の前兆であることもあるので早期受診が大切です。

  • 急激な体重減少やだるさ、やる気の喪失が数週間以上続く。
  • 眠れない、または過剰に眠る、昼夜逆転傾向になる。
  • いつもできていた作業や手続きができなくなる。
  • 同じ話や質問を何度も繰り返す。
  • 金銭管理や約束事にミスが目立つようになる。

こうした「身体や心のサイン」を医師は決して放置すべきではないとしており、自分や家族が気づいたら早期に医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることが勧められています。

加齢によるもの忘れと認知症の社会的背景と影響

認知症を個人の問題と考えがちですが、社会全体の医療・介護体制や家族の生活にも大きな影響を与える問題です。厚生労働省によると、団塊世代が後期高齢者となる2025年には、日本の認知症患者数が高い水準に達すると予測されています。

  • 身近な問題であるため、家族や地域での正しい理解・サポート体制の整備が不可欠です。
  • 健康意識の向上とともに、誰もが気軽に相談できる「もの忘れ外来」や「認知症カフェ」などの資源が活用されています。
  • 社会的な孤立を防ぎ、安心して年を重ねられる環境づくりが求められています。

認知症というと、本人や家族の負担がクローズアップされがちですが、「支え合い」や「お互い様」の意識を持つことで、共に生きる社会が実現可能です。

認知症を正しく理解し、前向きな老後を支えるために

認知症と診断されたとしても「人生=終わり」ではありません。本人の尊厳や自立を支える社会のあり方が模索される中、私たちは「違いを知り、恐れすぎず、正しく向き合う」ことがより一層大切になっています。

  • MCIの段階で異変に気づいたら、専門機関や主治医に相談を。
  • 家族や周囲も一人で抱え込まず、地域資源や支援制度の活用を。
  • 予防のための取り組みは、何歳からでも遅くありません。今日から始めてみましょう。

Q&A:皆さんからよくあるご質問

  • Q. もの忘れが多くなっただけで受診するべきですか?

    A. 自覚がありヒントをもらえば思い出せる場合は、加齢によるもの忘れの可能性が高いですが、不安なら気軽にもの忘れ外来を受診しましょう。MCIの早期発見にもつながります。

  • Q. 認知症の進行を止めることはできますか?

    A. 完全に止めることは現時点では難しいですが、早期発見・適切な治療・日常生活の工夫によって進行を緩やかにするケースも報告されています。

おわりに――明るく生きる力と地域のつながり

誰もが年をとれば何かしらの変化が現れるのが自然です。大切なのは「不安になりすぎないこと」、そして「一人で抱え込まず相談すること」です。本人・家族・社会が支え合うことで、認知症とともに前向きな人生を歩んでいきましょう。

参考元