クマ被害拡大と日本各地の「ガバメントハンター」導入政策
2025年11月、全国的にクマによる人身被害が増加し、地方自治体や国として対策が喫緊の課題となっています。特に東北・西日本各地でのクマ出没は深刻で、「人命の安全確保」や「農作物被害防止」、「住民の生活防衛」など多角的な観点から問題視されています。
クマ対策のこれまでと新たな政府政策
これまでクマ対策は、地方の猟友会や有志のベテランハンターを中心に進められてきました。しかし近年はハンターの高齢化や担い手不足、狩猟免許取得者減少といった問題から、十分な人員確保が難しくなっています。こうした状況を受けて国は2025年11月14日、「クマ被害対策パッケージ」を関係閣僚会議でとりまとめ、以下のような対応を打ち出しました。
- 既存の対策交付金拡充
- 特別交付税の措置
- ハンター確保・人件費支援
- 電気柵など物理的防護対策の強化
この中で特に注目されているのが、「ガバメントハンター」と呼ばれる自治体職員の狩猟免許取得・駆除活動への投入策です。財政支援を拡大し、免許取得者や即戦力人材を確保することでクマ対策現場の人的体制を強化しようという施策です。
「ガバメントハンター」政策とは?
ガバメントハンターとは、一般市民や元猟友会のボランティアに限らず、自治体の職員自身が「狩猟免許」を取得して害獣駆除の現場に立つ、新たな仕組みです。財政的なインセンティブや人件費補助で参入を促し、地域の実情に沿った柔軟な運用を目指すとされています。
例えば岩手県では、クマ被害の多発を受けて2025年度から積極的に「ガバメントハンター」の雇用を推し進めています。冬眠明けや収穫期などクマの活動が増える時期に重点的に人員を投入し、出没傾向の調査や捕獲活動を担わせる新しい実務体制を構築しており、全国的なモデルケースと期待されています。
島根県知事・丸山達也氏が「ガバメントハンター」政策に苦言
この「ガバメントハンター」政策について、地方の現場から強い意見も上がっています。島根県知事・丸山達也氏は、政府の政策発表を受けて以下のように述べました。
「ガバメントって言うなら、まずは自分たちでやってみろ」
この発言には、国や中央官庁が示す「現場の実態への配慮不足」への疑問、形式的な指示や交付金の拡充だけでは根本的な担い手不足の解決にならないとの懸念、さらには県や市町村の現場負担が増すことへの危機感が込められています。
島根県の現場が抱える深刻な課題
- 狩猟免許取得のハードル:実技・筆記試験の負担や安全配慮の観点で、自治体職員の担い手はそう簡単には増えない。
- 現場負担増大:本来の行政業務との兼任、休日・夜間出動も不可避となり、人員不足がより深刻に。
- 責任の所在曖昧化:クマに関わる事故、住民とのトラブル、駆除作業中の安全確保など、ガバメントハンター導入が新たなリスクを生む可能性。
「自治体の財政支援自体はありがたいが、『ガバメント』の名のもと、現場(地方自治体)任せでは本質的な解決になり得ない」といった意見には、全国の自治体やハンター有志の多くも共感を示しています。
政府が示す「地方任せ」の限界
クマ被害は地域による実情が大きく異なり、単純なパッケージ政策では実効性が出にくい側面があります。政府は「ガバメントハンター」への人件費補助や物資供給、現場調査の経費負担などを提示していますが、これだけでは次の課題が指摘されています。
- 慢性的な「担い手不足」と「高齢化」
- 狩猟免許更新者・新規取得者の著しい減少
- クマの生息環境変化や出没パターンの多様化
- 山間地・過疎地ほど人員確保が困難化するジレンマ
また、島根県をはじめとする中国山地や北関東などの山間地域では、より専門的な現場力や即応体制、さらには住民と専門家が一体となった「地域防災」の仕組み作りが今後一層求められる状況となっています。
地域からの声:「駆除だけ」でなく多角的な対策を望む声
クマ被害対策は「駆除」だけが解決策ではありません。たとえば、
- 電気柵や集落周辺の防護インフラ整備
- クマの生息域調査・データ蓄積と科学的管理
- 住民向けの「クマ回避」教育や注意喚起
- 早期通報・見守り情報システムの整備・運用拡充
など、「予防」「共生」「共防」の視点を重視した支援が不可欠です。島根県でもこうした複合的アプローチの重要性が声高に叫ばれており、「ガバメントハンター」単独支援では危機の根本解決につながらないとする議論が起きています。
クマ対策のこれからと、国・地方のパートナーシップ
2025年の現在、日本のクマ対策は大きな転機を迎えています。国主導の迅速な財政措置やガバメントハンター導入策が打たれる一方で、地方自治体や住民の現場知、専門家との有機的連携がより不可欠となっています。
島根県や岩手県など先進的な事例を参考にしつつ、クマ被害の根絶は一朝一夕に成し得るものではありません。今後は、
- 現場からの継続的・率直なフィードバック
- 政策の弾力的な見直し・調整
- 地域住民との対話・運用の透明化
を重視し、「国と地方」「専門家と住民」「新旧ハンター」ら多層的な協働パートナーシップで課題解決を進めていくことが必要です。
まとめ:「ガバメントハンター」政策への期待と現実の狭間で
クマ被害が社会問題化する中で打ち出された「ガバメントハンター」政策は、新たな担い手確保、高齢化対策、現場の人手不足解消などに一定の効果が期待されます。しかし、現場には依然として多くの課題や懸念が残ります。単なる「財政支援」や「現場任せ」に終わらず、住民の命と暮らしを守るための本質的・持続的な対策が今まさに求められています。
特に、島根県知事・丸山氏の現場感覚に基づいた提言は、全国的な議論のきっかけとなる重要な示唆です。今後も各地のリアルな声を政策に反映しながら、地域、国、ハンター、専門家が協働し、クマとのより安全・安心な共生社会を目指す新しい時代への挑戦が続きます。



